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一話 貴族からの没落

「父上。本日の剣術の鍛錬終わりました。これから自室にて学習をしたいと思います。」

「うむ・・・。他の子もそれぐらいはやっておる。足りんぞ。」

「・・・失礼します。」


 カルマは仕事をしている父に背を向けて部屋を出た。長い廊下にコツコツと革靴で歩く音が響く。


「兄さん!練習終わった?一緒に遊んでくれる?」

「ユウゴ。もう遊びはやめろ。お前も貴族として今何をすべきか考えろ。このままでは負け組になるぞ。」

「負け組って?」

「力のないやつらのことさ。力がなければなにもできない。おれは早くここから出て、己の剣で功績を上げる。そして父を超えて見せる。」

「兄さんはすごいな。僕にもできるかな。」

「知らん。そんな悠長なことを言ってるようでは無理だろうな。俺は部屋に戻る。」


 カルマは鋭い目つきで前を向いてそのまま自室に向かった。

 カルマがこういう性格になったのは父エリックが原因だろう。本名カルマ・フォン・グランヒル。グランヒル家の長兄として生まれた。母を幼い頃になくし、父は仕事により力を入れ、子爵にのし上がった。幼い頃から耳にタコができるくらい聞かされた言葉は主に三つ。力がなければ意味がない。貴族でないといけない。涙を見せてはいけない。最後のは幼い頃母が亡くなった時、父から言われた冷たい言葉だ。


ある日のこと。カルマは父と共に正装を着用し、客人を出迎えた。後ろには家で使えているメイドが勢ぞろい。目の前の大きな門が開くと、派手な装飾を施された馬車が一台。そして後ろから普通の馬車が二台入ってくる。派手な馬車から降りてきた男は他国の貴族らしい。


「おやおや。ご苦労。グランヒル卿。それにしてもメイドの数が少ないが、これは我に対して失礼ではないか?」

「お久しぶりです。ダドリー卿。ご指摘の言葉、大変耳が痛いお言葉。こちらで我が家のメイドすべてになります。ご理解を。」

「おぉ。そうかそうか。見たところ古臭い屋敷だろうし、これが限界か。」


 ダドリーはピンと伸びた髭を触りながら、にやにやと笑みを浴びせた。周りのメイドは全員姿勢を崩さなかったが、カルマだけは今にも飛びかかりそうな気配を漂わせている。


「なんだ小僧。その目は。何か言いたいことがあるのか?」


 カルマが食って掛かる勢いで前に踏み出そうとした時、エリックがカルマの頭を掴み、グッと力を込める。カルマはお辞儀の姿勢を取らされた。頭が真っ白になるぐらい怒り。血が出そうなほど拳を握りしめていた。

 そして、ダドリーは屋敷に入ると小一時間ほどで顔を真っ赤にしながらここから出ていった。


 その日の夜。カルマはひたすら庭で剣を振った。目の前にあの脂汗をかく小太り男を思い浮かべながら。


ーなんなんだ。あの男は・・・。あれが貴族なのか。あんなやつぶん殴ってやればいい。父上もなんだ。嫌味を言っても何も言い返さず。ださい。情けない。俺はあんな風にはならない。ー


 汗が滴り落ちる。剣を振る手に血が滲む。カルマはひたすらに今日の鬱憤を晴らすように剣を振り続けていた。


 次の日の次の日。カルマとユウゴは父に呼び出された。父が神妙な顔つきで二人の顔をじっと見つめる。重い空気に耐えられずユウゴが口を開く。


「あの・・・。父上。どういったご用件でしょうか・・・。」

「ユウゴ。お前はこれからこの村で暮らせ。もうここには帰ってこれない。」

「え・・・。僕は養子に出される。ということでしょうか?」

「違う。カルマ。お前はこの村だ。もう手配は済んでいる。」

「父上。理由を説明していただけますか。」

「・・・私たちはもう貴族ではなくなった。」


 カルマとユウゴは驚愕した。言っている意味がわからなかった。貴族に生まれ、貴族として生きていくために日々研鑽していたのだ。

 

「だからと言ってここを出る意味がわかりません。なぜそのような結論になるのですか。」

「これは命令だ。理由もいう必要はない。」

「ですが、さすがに急すぎでは・・・」


突如エリックは立ち上がり、バン!と机を強く叩いた。綺麗に積み上がった書類が床にドサッと落ちる。息を切らし、余裕のない表情。いつも冷徹で表情を出さない父が、こうも乱れているのを初めてみた。


「いいから行け!今すぐに!」


泣きそうなユウゴとは裏腹に、カルマは冷ややかな視線を送る。


「父上。おれはあなたには従いません。おれはおれ一人で生きて見せます。それでは・・・」


カルマとユウゴは荷造りをし、屋敷をでた。ユウゴはここから五十キロほど離れたセクタ村という小さな村で生活することに。また会う約束をし、カルマは金を稼ぐために仕事なありそうな王都へと足を進めた。


「おい。何か仕事はないか?」


カルマは生計を立てるために、街で色々声をかけたが誰も相手にしてくれない。今までは貴族というだけで、多くの人が従ってくれた。しかし、今はただの十二歳の生意気な少年。


しばらく大通りを歩いていると、三人の男が小さな子供の背を押し、細い道に入っていくのが見えた。不審に思ったカルマは彼らの後をついていく。小道を進むと人気のない開けた場所についた。小さな子供が男たちに囲まれている。カルマは力のある者が力のないから奪うのをじっと見ていられなかった。


「おい!お前たち。何してる。」

「なんだ。ガキかよ。」

「その袋よこしな。さっさと渡せば痛い目に合わなくてすむからよ。」


男たちはカルマを横目に子供に詰め寄る。


「あの・・・。これはお母さんの薬を買うために必要なお金なんです。ごめんなさい。」

「いや~。そうかそうか。でもお母さんも俺たちに使ってもらった方が喜ぶと思うからよ。かしてみな。」

「無理なんです。どうか許してください。」

「さっさとよこしやがれ!このクソガキ!」


男は拳を振り上げ、子供に殴りかかろうとした。


カルマは全力で走り、男の脇腹に向かって飛び蹴りを食らわせた。


「早く逃げろ!」


カルマが声を荒げると、子供は急いで走り出した。呆気にとられた男たちの暴力的な視線がカルマに集まる。


「いてぇな!てめぇ!ぶっ殺してやる!」


そこからカルマはサンドバックのように殴られた。起き上がる暇もなく男たちの足で踏み潰される。


ーくそ。俺が・・・。俺が・・・。弱いから。こんなやつらに。俺に力があれば・・・ー


「おい!お前たち。もう堪忍してやりな。」


ヒューヒューッと細い呼吸をしながら声のする方を見る。視界がぼやけてよく見えないが、声からして女性だろう。男たちが女性に近づくと、彼らは地面に倒れ込んだ。女性がこちらに近づいてくる。しかし、カルマはそのまま意識を失ってしまった。


目を覚まし身体をバッと勢いよく起こす。いてぇと呻いた。体中が痛い。腕や足を見てみると、雑に包帯がぐるぐる巻かれていた。

 

「おう。起きたか。少年。」


目を向けると、椅子を反対に座り、背もたれにもたれかかる女性がいた。陽だまりのようなオレンジ色の髪が特徴だ。見渡すと小さな部屋。その女性をジーっと見た後、


「誰?」

「誰じゃないだろうに。命の恩人になんて口の利き方だ。口が悪いなお前。」

「あんたもな。・・・でもありがとうございました。」

「いいってことよ。あいつらここ最近悪さしてたやつらだからちょうどよかったよ。少ないけど懸賞金もかかってたし。儲かった儲かった。」

「あんた強いんだな。」

「おう。アタシは強いぞ。なんたってCHALLENGERのハンターだからな。」


この国ではハンターという仕事がある。ハンターは主に依頼を経て、その依頼を達成することで報酬を得るという職業だ。稼げるがモンスターと戦うため、死亡率も高い危険な仕事だ。階級が下から6つ。IRON、SILVER、GOLD、CHALLENGER、MASTER、NOVA。


 カルマは昔、父親にハンターの話を聞いていた。父親の友人にもハンターがいたらしい。


「なぁ。あんた。」

「そろそろあんたってやめねぇ?アタシはレイラ。お前は?」

「おれは・・・。カルマ。ただのカルマだ。ハンターって強いのか?力を持てるのか?」

「そりゃアタシをみりゃわかんだろ。強いぞ。力もあんじゃね?わからんけど。」

「ハンターになったら貴族になれるか?」

「貴族~?まぁ王からの依頼とかもあるからな。なったやつも知ってるけど。お前。やめとけよ。貴族なんておすすめはしないぞ。」


 レイラは顔を歪めながらコソコソ話をするように言った。しかしカルマの耳には入っていない。強くなって力をつけて貴族に返り咲く。貴族でないといけない。小さい頃から父親に沢山聞かされた言葉。貴族でない自分など自分ではない。そう心に刻まれいた。


「頼みがある。俺をあんたの弟子にしてもらえないか?」



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