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「随分と長湯だったな」
つらつらと考え事をした末、茹で蛸になる直前まで湯に浸かっていたラナリアは、ほこほこと真っ赤な顔してリビングへと戻った。
「旦那様……?」
いつもならばもう自室に戻っているのに――と思いかけて、そういえば夕食がまだだったと思いなおす。
「ごはん、もう少し待ってくださいね。今――」
作りますとキッチンの方へ足を向けようとする。
「待て」
だが呼び止める声に振り返ると、すぐ近くに彼が立っている。驚いて目を瞬かせると、彼の手がラナリアの額にぴとりと当てられた。
「あの……?」
「湯あたりしたんじゃないか?」
そういうと、彼の手が急に冷たくなったように感じた。魔法だと直感する。そのひんやりとした冷気が、熱くなっていた身体を冷やしてくれる。
「んん……、気持ちいいです」
「……そうか」
熱に当てられていたせいだったのかふわふわした心地がなくなった頃、彼が手を離した。
「こっちへ」
「……? はい」
いつの間にか取られていた手を引かれるままに、リビングのソファ――彼の隣へ導かれてぽすんと座る。
「気持ち悪いところは」
「もう無いです」
彼はこくりと頷くと、繋がれたままの手に力を込めて言った。
「今日、お前の故郷へ行ってきた」