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「……ここは」
目が覚めると、ラナリアは暖かい暖炉の前で安楽椅子に座っていた。
「あら、目が覚めた?」
目の前には見慣れぬ――ラナリアより少し年上だろうか、快活に笑う女性がいた。
「雨の中泥まみれで玄関前にいたって? 何があったのか知らないけど、大変だったねぇ」
女性は水に濡らした布をきゅっと絞って、ラナリアの頬に当てた。そのまま、首筋や額を拭っていく。
「あの……」
「ああ、服を着替えさせたのはあたしだから、心配しないで」
包まれた毛布の隙間から見える服の端は、たしかに見覚えがない。
あたたかい……。
頭がぼんやりして、とろとろと眠気が忍び寄って来る。
わたしはここに、いったいなにをしに……。
のろのろと記憶を辿り、その理由に思い至った時、ハッと覚醒する。
「あ、あの、あの、わたし! ま、魔法使い様に……!」
噂の魔法使いは男だと聞いた。つまり、目の前の女性ではないということ。
なら一般人の彼女が自分の傍にいたら、ただでは済まない。
真っ青になって慌てて立ち上がろうとするラナリアに、女性は目を丸くして、肩を押さえる。
「ちょ、ちょっと落ち着きなよ。大丈夫。――お呼びですよ、導師様!」
「どうしさま……?」
「――なんだ」
少し不機嫌そうな声で現れたのが、意識が途切れる直前に見た銀髪の男だった。