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この壊れて、それでも尊き世界で  作者: 仙台赤べこ
第一章【遺灰の降り積もった地-ナヴァランタ】
8/22

08.いきなりボス戦[あれ、俺のと『ステータス』違くね?]

今回もグロい表現がありますのでご注意ください!



[【死ンデモ命ガアルヨウニ】を発動]

 ⇒即時修復、再生を行い蘇生させます 1/10


[リンッ――状態異常[激痛]を検出]

[リンッ――【死ニタモウ事ナカレⅠ】を発動]

 ⇒死亡確認。Levelが1に戻されます


[リンッ――『Level上昇不可』を確認。該当表示を非表示状態へ移行しました]

 ⇒以後、Level関連処理は遮断されます

 ――――――

 ――――

 ――



 真っ暗だった視界にいきなり光が差し込んだ。

 ぼやけた意識も、鈍かった思考も急激に冴えわたっていく。そして――次の瞬間、首から下を突き抜ける激痛に、俺は思わず咆哮していた。


「――――――――!!!」


「あ゛ぁっ? ……ッアァ~~~ハッハッハッァ!! すごいねぇ、ほんとうにィ! 首がっ! 首が転がったのにぃ! ()()()()()()()()()()()()()ォォォ~~~っ!!」


 絶叫している最中、やたらと耳に障るしわがれた声が聞こえてきた。

 その声によると、どうやら俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()。……は? 宇宙人かよクソ痛ぇ!


「『変異種』だからかいィ? それとも『不死の指輪』で体が狂っちまったのかなァァ!? けひっ、ひひひひぃ~! どっちでもいいかぁぁ! その体を調べれば、わたシはまた、あの栄光をぉぉ……えいコウォォぉぉ!!」


 声がうるさいが、こっちはそれどころじゃない。痛みが、終わらない。

 喉から絞り出した咆哮は、意識を繋ぎとめるための本能だった。焼けるような神経の再生が続くたび、意識が飛びかける。


(ぐぎぎぃぃぃ……ッ 痛すぎるっ! 早く『耐性』発動してくれぇぇぇ――ッ!)



[リンッ――〈続痛耐性〉を得ました]

[リンッ――〈続痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈続痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈続痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈復痛耐性〉を得ました]

[リンッ――〈復痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈復痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈繋痛耐性〉を得ました]

[リンッ――〈繋痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈繋痛耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈圧縮耐性〉を得ました]

[リンッ――〈圧縮耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈結合耐性〉を得ました]

[リンッ――〈結合耐性〉が強くなりました]

[――〈失神耐性〉が強く――



(状況はさっぱりだけど、生き返るための代償がこの痛みなら耐えてやるぅ! 耐性(ズル)で少しはマシになってるし――いやウソ痛ェェェ!!)


 内側から内臓が膨れ上がり、骨と筋繊維が無理やり伸びていく。鼻を刺す血と肉の臭いが充満し、伸びていく筋繊維一本一本を嫌でも意識できた。

 肉が盛り上がり、皮膚が引き寄せられ、縫うように繋がっていく音が頭の奥で鳴り響く。

 

 そのすべてに、殺意じみた激痛が伴っていた。視覚が点滅し、皮膚を撫でる風すら神経を焼くように痛む。

 俺は、息もできないほどの激痛に身を委ねながら、ただ再生が終わるのを待ち続けた。


 やがて――ようやく、呼吸ができるようになった。実際には一分も経っていないかもしれない。それでも、俺には永遠に続く拷問のような数十秒に思えた。


「ぐぅぅぅ……っあ゛! は゛ぁぁ……っ、あ゛あ゛ぁぁぁー痛かったぁッ!!」


 再生し、血の詰まりが取れた喉から、掠れた息と実直な感想が漏れた。

 腕が動く……左腕がないけど。

 脚が動く……膝先がないけど。

 心臓は動いている……裸だけど。

 ――俺は、生きている!


「――っておい! 服は仕方ないけど、なんで片方の手足が『無い状態』なんだよっ! ふざけんなぁ!!」


(まさか……転生した際の、欠損した身体(初期状態)がデフォルト扱いされてるとか? っんなバカな!?)


 そんな風に思考を巡らせていた時、背後からあのうるさい声がハッキリと聞こえてきた。


「ふひっ、ひひひ! ……カラダが再生しきったよォォ!! 奇跡さねェ! わたシのっ、……わたシだけのミワザだよぉそれはぁぁぁぁ!!!!!」


 振り返る。出入り口を背に立っていたのは、あの耳障りなしわがれた声の主――笑ったかと思えば、次の瞬間には怒鳴り散らす情緒不安定な『老婆』がそこに居た。


(いや……本当に『老婆』なのか?)


 そこにいたのは――血肉と黒煙にまみれた『異形』

 まず目に飛び込んできたのは、赤黒く膨れ上がった(肉の塊)。皮膚がつっぱったように膨らみ、かと思えば裂け、その奥から肉が蠢き塞がっていく。

 

 服のようなものを着てはいるが、それすら肉と油でぐちゃぐちゃに溶け合い、どこまでが布でどこまでが肉なのかもう見分けもつかない。腹のあたりからは臓物がのようなものがはみ出し、ぬるりと動いている。

 

一歩動くたびに、肉の振動に合わせて別の皮膚が破れ、また塞がる――まるで、『破壊と再生』を永遠と繰り返しているかのようだった。 

 頭には、かつて白かったであろう布がかぶさっているが、今は赤黒く変色し、肉片がこびり付き見る影もない。

 

 そして、全身から立ちのぼる『黒煙』。それは皮膚を刺すような重苦しい圧力と、体の芯を削るような不快な気配を放っていた。


(そして、あの目……気持ち悪っ!)


 目が合った瞬間、俺はあまりの不気味さに息を呑んだ。

 

 ――瞳がなかったからだ。


 いや、正確にはある。しかし、そこに『色』が見えなかったのだ。左右の眼球は、まるで墨汁を垂らしたように真っ黒に染まり、光は一切なかった。


(何なんだ、このイカれた婆。……というか、俺の首を跳ねたのこいつだよな? 右手に血のついたデカい大鉈(包丁)持ってるし……にしては、『左腕とのアンバランスさ』が目立つけど)


 そこで次に目に入ったのが――不自然に細い左腕。

 他の部位と違い短い。細い。小さい。()()()()()()()()()()。それが肩先から血管を浮かべ脈打っている。まるで、体から栄養を分け与えているかのように。


(あの左腕……()()()()()()()()()()()()()()()――)


 何気ない思考。しかし、それにより起きた変化は、劇的にこの空間の雰囲気を乱した。



「おやぁ? 見てるねぇガキィィ! いひひひっ、コレがぁお前の左腕――あ゛ぁ? ……ア゛ア゛ア゛ァァァッわたシの左腕がッ消えていくゥゥッーーーーー!!」



 それは不可解な現象だった。俺の視線に対し、ニヤりと自慢するように左腕を頬ずりしたかと思いきや――その左腕が『真っ黒な砂』へと変わり消失していったのだ。


(おいおい、起きてからずっと置いてけぼりで何がなんだか知ら――ん? ……あぁ、はいはい、()()()()。そういう『()()』のあれなのね)


 度重なる急な場面展開に頭がそろそろ思考放棄しそうな、そんなとき――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは、『表示』に現れるわけでもなく、『欠けた体を意識する』というトリガーに反応し、使い方が『知識』として刷り込まれるものだったらしい。痛いの必須かよっ。


(これも馴染みがないんだけど――これが俺の『()()』っすか……情報過多すぎて、もう何が来ても驚かんわ! 考えるのはこの殺気バリバリの婆をどうにかしてからにするっ!)


 俺はもう自棄になった。……いや最初から自覚があるぐらい危機感はなかったし、成り行きに任せよう感全開だったけど、さすがに――鬱陶しい。考える時間を設けろ異世界!


(この『異能』の仕様は……こういうことか?)


 俺は傍らのベッドの上に横たわる『頭部のない俺の体』を意識(認識)した。すると変化はすぐに訪れる。


 ――――ササーーーーッ……


 死体が黒い砂――否、先から舐めるように燃え拡がり、一瞬で『黒煤』へと崩れたのだ。



[※【黒煤ノ薪子(クロススノマキゴ)】:『異端』の異能。『自らの身』を触媒に『煤』を微量生成、制御する能力。生成(身を焼く)速度は一定であり、質を変えられ、際限なく圧縮できる。『煤』は自身の意思以外で歪むことも動くこともない。身体から離れた部位は、意識すれば一瞬で『煤化』する。自然治癒能力が大幅向上。 対価:自身を焼き、煤を生成]



 それを『操り』、球体状に呼び寄せる。ついでに、婆の左腕から変わった『煤』も回収。……やっぱり俺の腕だったのか。


「――いや少なっ!!」


 そして集まったのが――デカいスーパーボールぐらいの煤玉。まるで鉛を含んだ煙の結晶のように、意外と重く、冷たい。


(はぁ? 頭と膝先を消失(二点ロスト)してるからってこの程度? ……どんなブラック生成効率してんだよっ!?)


 しかし、見た目は『小さな』量だが、刷り込まれた『知識』で分かる。この量でも、ナイフ2、3本や煙幕一発分にはなるらしい。


(『工夫』と『質』で殴れってわけか……)


『黒煤』を宙に浮かべ、片足で座った状態の俺は寝台に残った血塗れズタボロの服を片手で取り、頭から身に着ける。

 そして、出入り口の前で未だに嘆き、右手で皮膚を引っ掻き破く婆を見て俺は――口角が少しつり上がるのを自覚した。


(なんか……ワクワクしてるかもっ)


 その表情の意味は、この狂気の世界に似つかわしくない、()()()()()()()()()()()()()のそれだったのかもしれない。



―――――――――――――――――――――――――



――――――――――ッッ!!


(うぉ! 何だっ……下? からすごい音と衝撃がきたぞ?)


「――ひぎ……ッ、あ゛あああアアアッッ!!」


 そこで意識は、大きな悲鳴を上げる目の前の相手へと引き戻された。

 婆が石畳に座り込み、肥大化した肉の右手で頬を引っ掻き、髪を布越しに毟り、涎と血肉をまき散らしている。それでも、傷口は肉が蠢き塞がっていく。

 

「あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ッ!! 返せッ、わたシの左腕をカエセェッッ!!」

 

 頭を打ちつけ、眼を剥き出し、狂ったように絶叫する。


(隙だらけだし、その辺の鈍器でぶん殴ったら倒せないかなぁ……あっ、そういえば、『あれ』でこの婆の『表示』出せるんじゃないか?)



[【遊戯盤ショu】 :任意発動。『認識、意識したあらゆるもの』の能力、状態などを盤上に符号として明らかににすするルルr]



(では早速、『表示』しろ!)


 ――――ポロンッ



[【名前】ヂツタ・エレナス


【種族】人間 (深淵)・再生体 (半異形)


【レベル】174


【状態異常】深淵/再生/執着/欠損/狂乱/出血


【属性】深淵・深炎・再生・腐敗・出血・呪い


【生命力】60


【持久力】42


【筋力】35


【技量】25


【耐久】40


【魔力】20


【理力】32


【信仰】52


【運】25


【人間性】3/10


【奇術】

・〈超過再生の奇術〉

・〈???〉

・〈???〉


【呪術】

・〈???〉 

・〈???〉

・〈???〉


【戦技】

・〈残滓の舞〉]



(…………んん? ……あれ、俺のと盤面(表示)、ぜんぜん違くね??)


「返せ返せかえせカイセかえせ返せ――カエセェェェクソガキッッッ!!!」


 ヂツタ――いや婆でいいか。婆が床に落としていた大鉈を右手に握りしめ、怒声を浴びせてくる。


「っ――おい、だから考える時間をくれってばッ!! 疑問が増えただけじゃねぇか!?」


『何が来ても驚かない』と言ったな。あれは嘘だったぜ。

 婆が右腕を横に伸ばし、皮膚が破けて血が噴き出す。


(ん? 自傷? っていうか、いま『腕が光らなかったか』?)


「カエセェェッッ!!」


 血塗れの腕を揺らし、その場で勢いよく振るった。次の瞬間――大鉈が俺の首元まで迫る。


「ッ――ちょっクソがッッ!!」


 座っていた俺は急いで上半身を倒し、回避行動をとった。しかし、ギリギリ過ぎたせいで左頬肉からこめかみにかけてを削ぎ落とされてしまう。


「あ゛っぐぐぐぐぅぅぃィテッッ!!」



[リンッ――状態異常[腐敗]を検出]

[リンッ――状態異常[出血]を検出]

[リンッ――〈腐敗耐性〉を得ました]

[リンッ――〈腐敗耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈腐敗耐性〉が強くなりました]

[――〈失血耐性〉が強くなり――



 痛みによる絶叫。削がれた部位はすぐさま『黒煤』へと変わり、視界の端に映る多量の血飛沫とマシになってきた激痛を無視して、警戒するよう婆を睨みつける。しかしその時、左の視界が――()()()


「うぇ?」


 いやそれは視界だけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()


(傷口周辺から崩れてる……これが『腐敗』かっ、えげつねぇ!)

(そして俺の首を跳ねたのって、この『腕伸ばし』か!!)


 激痛を伴う再生はしているみたいだけど、感覚的に遅い。耐性がまだ低いから抵抗されているのかもしれない。


(さっきは即死したから『状態異常の表示』が出なかったのかっ)


 視線の先、婆は伸びた腕を戻すとブツブツ、フラフラと入口傍の棚まで歩み、置かれていた『腕と液体の入った瓶』を叩き割っていた。


「――我慢だよぉ。わたシの左腕が返ってくるまでの我慢……ッ! がまんっガマンッ!! ふひっ、わたシの栄コウのためにィィィ!!」


 その腕を掴み、断面を自身の左肩へくっ付けると――肉に絡めとられ、根づいた。

 それは大人の――男の腕のようだった。俺の腕がくっ付いてた時同様に血管が浮かび、少しして『ゴギュ』という肉と骨の擦れる不快な音を鳴らし蠢きだした。


(『属性』の再生って……俺と被ってね?)


 耳の再生(激痛)に顔を引きつらせながら、婆の『盤面(表示)』を対角線上に出し僅かな時間で情報を読む。



[〈超過再生の奇術〉:自身の肉体が破壊されるたびに、異常な速さで再構築する。ただし、形状や神経の配置は狂い続ける]


[〈残滓の舞〉:破壊された部位を一時的に増殖させ、範囲と威力を変化させる]



(さっきの振りかぶり、破けた部分の肉を増やして腕そのものを伸ばしたってことか)

(そして、傷が塞がる『あれ』はやっぱり、再生で間違いないっぽいな……)


 落ち着いたり、攻撃的になったりといった情緒不安定の隙に、婆と自分の『情報』をささっと読み取り――今度は先手取ってみることにする。


(『技能』が多すぎてよく分らんから、シンプルな奴だけで何とかする!)


 浮かべていた『煤玉』を少し使い、記憶にないはずの知識から、(やいば)の幅が数ミリしかない『棒手裏剣』なる物を形作り、『投擲』する。


「ふんっ」


 下手なスローイングは、素人の技術とは思えないほど速く、真っすぐな軌道を描き、目標の左足を――()()()()()()


「あ゛あ゛ぁぁ!?」


(おおっ、思った以上に強いじゃん『激突』!)



[血統技能

【暁天ニ呵ウ鬼】:多能技能。『白夜人』のみ効果発動。全能力上昇補正

⇒『()()使()()()()()()、『魔力』を可視化できる。視線を合わせた相手の『動作』『魔力出力』を一時的に阻害できる。後半の効果発動時、状態異常:目[激痛]


⇒『モノ』を正確に投げる高等技術補正。投擲時『精密操作』『投擲速度』上昇補正。『投擲威力』激化補正。投擲物に『激突性』『貫通』付与]



(あ、さっき腕が光って見えたのって『認知』したってことなのか、なるほど)


 片足を派手にぶち抜かれてなお、婆は右手で壁を掴み体勢を維持していた。体幹ツヨツヨだな!


(でも、あの小さい幅の武器であそこまでの範囲を貫けるなら、弾幕張れば余裕で――


 ――――ガブジュッ!!


 そう思った瞬間、俺の右腕に激痛が走った。


「い゛っっ!!――何だコイツッッ!?」


 ()()()()()()()

 正確には、裂けた足裏から歯が生え、足首から先に手が伸びた異形の生物。それが、俺の右手首を噛みつき、肉を喰っていた。しかも、おまけとばかりに噛み傷の周辺がグズグズになっている。こいつも『腐敗』持ちかよ!



[リンッ――詳細判明、【呪術】〈肉の塔〉を開示します]


[〈肉の塔〉:『肉』を供物とし、歪な使い魔を生み出す]



(調子乗って『発動』見逃してたッ!? ってか対応が早ぇよ!)


 さっき切断した左足、それを使って一瞬で生み出していたらしい。

 しかも、その異形は俺の右腕を噛みついたまま『光り出した』。


(え? なんでこの足が、光って――


 ――――(爆)ッッ!!!


「――――――ッッッ!!?」



[リンッ――詳細判明、【奇術】〈代償の看取り〉を開示します]

[リンッ――〈爆撃耐性〉を得ました]

[リンッ――〈爆撃耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈爆撃耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈爆襲耐性〉を得ました]

[リンッ――〈爆襲耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈爆砕耐性〉を得ました]

[リンッ――〈爆砕耐性〉が強くなりました]


[〈代償の看取り〉:自分の肉塊を爆発させられる]



(――クソコンボがっ!! 自分の肉を特攻させて爆発とか発想がエグすぎる……!!)


 顔を左半部が治ったばかりなのに、今度は右上半身を丸ごと吹き飛ばされた。血肉が周囲にはじけ飛び、すぐさま『黒煤』へと崩れていく。


「あ゛ぐぅぅぅ……!!」


「さっきからぁ妙な術で反抗してんじゃないよぉガキィィ!! さっさとベッドに戻って、『施術』を受けるんだよぉぉぉ!!」


 足を再生させた婆が、キモい速さで近づいてきて、俺の首をわずかに光る左手で鷲掴む。こっちは右腕が再生しきっていないから抵抗できない。



[リンッ――詳細判明、【奇術】〈与えるは過剰なる慈悲〉を開示します]

[リンッ――詳細判明、【呪術】〈廃れた慈悲〉を開示します]

[リンッ――状態異常[激痛]を検出]

[リンッ――〈呪イ耐性〉を得ました]

[リンッ――〈再生(悪)耐性〉を得ました]

[リンッ――〈再生(悪)耐性〉が強くなりました]

[――〈奇術耐性〉が強くなりました]

[――〈呪術耐性〉が強くなりました]

[――〈絞首耐性〉が強く――



[〈与えるは過剰なる慈悲〉:触れた相手へ『過剰再生による破壊』を引き起こさせられる]


[〈廃れた慈悲〉:自身に触れた対象へ[腐敗][出血][激痛]のいずれかの呪い与える]



 触れられた首周辺が小さく泡立ち、破裂していく。


「ごぶぅ――!!」


(ヤバい!! このまま捕まれてたら、首から下が自重で千切れる!!?)


 ――なんて思っていたが、それは杞憂になりそうだ。

 俺を宙吊りにした婆は、大鉈を俺の胸へと突き刺すと、それを――力づくで振り下ろした。


 ――――ザグッ! ジュザーーーーッ!!!


「ぐエ、――――ッッッ!! ……――――」


 意識が一瞬飛び、『耐性』のせいで戻ってくる。『激痛』の状態異常も相まって、あまりの痛さに咽喉が壊れるほどに叫んだ。

 痛さで暴れるたびに切開された腹から臓物がこぼれ、繋がった別の臓物に引っ張られ千切れ落ちた感覚が鮮明に感じられる。その時の痛さたるや――俺を『ショック死』させるほどのものだった。



[――【死ンデモ命ガアルヨウニ】を発動]

 ⇒即時修復、再生を行い蘇生させます 2/10


[リンッ――〈切開耐性〉を得ました]

[リンッ――〈切開耐性〉が強くなりました]

[リンッ――〈切開耐性〉が強くなりました]

 ――――――

 ――――

 ――



「ッ――がぁぁぁぁッッ!!」


「ほぉら! ほぉぉらぁ!! やっぱり生き返った!! 指輪をしてないのに生き返ったよぉぉコイツゥゥ!!! ひぃ~っひひぃ、このガキに『奇跡』が宿ってるんだよ!! こいつを喰えばぁ、わたシの――っゲァァッ!!」


「……ぅっぜぇ! ……はなれろ、ばばぁっっ!」


 俺は甦ってすぐ、塞がりかけた胸に直った右手を突っ込むと――肋骨を力ずくでへし折り、婆の頭部へと突き刺した。


(痛くない痛くない痛くない……――)


 自分にそう言い聞かせ、刺されて悶える婆を足蹴にし宙吊りから逃れる。

 石畳に倒れ込んだ俺は、傷が治り切っていない状態ですぐさま『ソフトボール大』にまで集まった『煤玉』を掴み、そのまま移動する。操る煤玉に引かれ、俺はいたるところの棚に置かれた刃物を一本口に咥え、別の二本を『左手に形作った黒煤』に持たせる。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ痛゛い゛い゛ぃぃ……!! な゛ん゛だいィ! 何なんだいさっキカらぁぁ!!? わたシノ『施術』中に、勝手に起き上がったりっ! 暴れたり死んだりシテェェェ!!? 患者は大人しくぅぅ、『わたシに救われろ』ォォォォ!!!」


 頭に刺さった骨を抜き去り、意味不明なことをのたまう婆。しかも、体中の肥大化した肉がぐつぐつと不安定に波打っていた。


(あれって……頭刺したから肉が踊ってるのか? ってことは頭が弱点…………いけるかもッ)


 考えるより先に身体は動いていた。入口横の壁に自身を運ばせた俺は、座り込んだ状態で咥えた刃物を手に持ち替え、投擲。


「グぅぅッ――!!」


 ――――ブッヂャァ! ――(爆)ッッ!!


 真っすぐ進む凶器は、『補正』の効果で婆のこめかみを捉えていたが――途中で『肉塊』が割り込み爆発した。


(クソッ、投げる瞬間に気づかれた! アイツ自分の肉を千切って爆弾にしたぞ!)


「ガキィィィィーーーー!!!!」


 不意打ちに激昂してか、婆が大鉈を振り上げ一足で急接近してくる。


(だが、本命はこっちッ!)


 それを冷静に見届ける俺は、天井付近に置ていた――刃物を持たせた『黒煤』から二本を投擲させた。


 ――――グサ、グサッ!


 放たれたナイフは確かに刺さった――俺の肩と胸にな。


「――なんでだァァーーッッ!!?」


 胸と肩に刺さった凶器を乱暴に抜き取る。



[リンッ――〈射撃耐性〉を得ました]

[リンッ――〈投撃耐性〉を得ました]

[リンッ――〈自撃耐性〉を得ました]

 ――――――

 ――――

 ――



(クソノーコンかよッッ!! ……いや、もしかして『補正』って、自分で投げなきゃダメなのか!?)


「キエェェェェーーーー!!」


 眼前まで迫ってきた婆が、大鉈をその太い肉塊の腕で振り降ろしてくる。


(ええぃ、それじゃ『プランB』だぁ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!)


 脳天に迫る死の刃を、俺は身体を『少しズラすだけで』避けた。


 ――――ブッヂュャ――――!!


「――――ッッ!! ……痛ぇけど、マシになってんだよバカ野郎ォ!!!」


 右肩から股関節に掛けてを大鉈に切り裂かれ、泣き別れになる。消えたはずの『腐蝕』と『出血』、『激痛』の状態異常がハッピーセットで再び付与され、半身は、『()()()()()()()()()()()

 度重なる激痛のせいで、痛覚の神経が馬鹿になっているのか、『耐性』が強くなってきたのか、確かに痛みが軽減されている……ような気がする!


「おいっ……婆ぁ!」


「なンだいっ、やっと『施術』へ戻る気に――

「あんたの左腕、返してやるよ」


「――――――!!」


 俺の言葉に、婆の動きと視線が一瞬止まる――その一瞬で、決着がついた。


 ――――ガキッ!!!


「――――――!!!?」


 それは、婆の頭上から振り抜かれた『牢獄』。

 肥大化した頭より一回り大きい、黒くペラペラな『トラバサミ』が婆の頭部を噛み千切り、吞み込んだ。

 それでも中から罵詈雑言が聞こえてくる。タフすぎだろ。


黒煤の(大きさ)足りてよかった~~……これで、終わりぃ……ふぅ~~」


 目の前で暴れる肉塊。しかしそれは、俺が意識して、頭部の入ったトラバサミを『極限まで圧縮』させることで動かなくなり、ゆっくりと後ろへ倒れ込んだ。

 そして、その体からは薄っすらと明るい、『白い人魂』のようなものが浮かび出た。


「なんだあれ? ……いやそれより服が欲しい」


 全身血塗れで、いたるところを裂かれとことでほぼ全裸の状態であることを思い出す。


「なんか、部屋の隅にタンスがあるんだよなぁ……もしかしてここって、元は寝室だったのか? よいっしょっ」



[※【運否天賦】を発動]

 ⇒一時的に[幸運]極化補正



 あれほど暴れたのに疲れを感じていない身体を片足で持ち上げ、俺は休む前に服を調達するために部屋の奥を目指した。


 ――――――ッ!


 しかしその瞬間、背後の入り口から忍び寄る、黒と『月のような目』を持つ小さな影に気づかなかった。



「――あっヤバ」



「――ん?」



 それはとても、とても軽いノリの『間違えた感』ある声だった。

 振り向きざまに喉を刃物で貫かれ、押し倒される。血があふれ、口の中までせり上がってくる不快感に溺れながら、俺は馬乗りになった奇襲者を『視た』。



[【名前】サク(御影 朔)【年齢】10(16)【性別】女 


【種族】夜人


〇Level:1


〇状態異常 :月詠/空腹/衰弱/損傷――



(――『サク』ってお前か! ……いや殺されかけてるんだけどっ!?)



[リンッ――〈伏撃耐性〉を得ました]

[――〈突撃耐性〉が強くなりました]

[――〈刺突耐性〉が強くなりました]

[――〈急所耐性〉が強くなりました]

[――〈致命耐性〉が強くなりました]

 ――――――

 ――――

 ――

[リンッ――称号[悪縁ト縁ヲ結ブ者]を発動]

 ⇒『悪縁』持ちとの行動時、全能力上昇補正


[リンッ――称号[新タナ歯車]を発動]

 ⇒同名の称号を持つ者との行動時、全能力上昇補正




―――――――――――――――――――――――――


◇白鷺蓮のステータス


(※は非表示、見えていないものとする)

【名前】レン(白鷺 蓮)【年齢】10(6)【性別】男


【種族】 白夜人・変異種


〇Level:1


〇状態異常:月詠/激痛/出血/窒息


〇魔力:E→--


〇筋力:E→__


〇潜在力:C→__


〇耐久力:E→__


〇抵抗力:D→__


〇体力:E→__


〇敏捷力:D→__


※技巧:B→A-


※素質:A-→S


※運気:I→--



技能(スキル)

・【夜目Ⅳ】:暗い場所でものがよく『視認』できる

・【気配察知Ⅳ】:周囲の『気配』を少し感知できる

・【気配隠密Ⅲ】:自身の『気配』を察知されにくくなる

《習得、取得、継承不可》



上位技能(スペリオルスキル)

・【不撓ノ肉体】:任意発動。体力上昇補正。耐久力激化補正

・【不屈ノ精神】:任意発動。体力上昇補正。抵抗力激化補正

・【大悪食】:『モノ』を何でも食べられ、普通に感じられる。『消化機能』『吸収効率』激化補正。耐久力微上昇補正。抵抗力上昇補正

・【生ヘノ執着】:『吸収効率』上昇補正。『瀕死時』のみ効果発動。一時的に全能力激化補正

・【苦シテ楽ナシ】:『苦』に対し『耐性』を得る

《習得、取得、継承不可》



血統技能(ブラッドスキル)

≪New≫【暁天(ぎょうてん)(わら)(おに)】:多能技能(マルチスキル)。『白夜人』のみ効果発動。全能力上昇補正。『昼の間』は、所有技能全ての『上昇補正効果』上昇補正。『夜の間』は、所有技能全ての『上昇補正効果』激化補正


・『技能使用』を認知し、『魔力』を可視化できる。視線を合わせた相手の『動作』『魔力出力』を一時的に阻害できる。後半の効果発動時、状態異常:目[激痛]


・『モノ』を正確に投げる高等技術補正。投擲時『精密操作』『投擲速度』上昇補正。『投擲威力』激化補正。投擲物に『激突性』『貫通』付与


・任意発動。不可視中でも周囲の『状況』『位置』を『正確に把握』することができる


・任意発動。広範囲の『気配』を『精確に把握』し、自身の『気配』と『物音』を限りなく断つことができる


・『戦闘時』のみ任意で効果発動。全能能力激化補正。 状態異常:[狂化]、痛覚[鈍化]

└(技能:〈禍津月詠〉〈投擲術・破砕〉〈羅針眼〉〈隠密幽鬼〉〈闘争意識〉)

《習得、取得、継承不可》



固有技能(ユニークスキル)

・【運否天賦(うんぷてんぷ)】:※不定期に[幸運][不運]のどちらかを一時的に極化補正。|???

・【--】

・【静謐(せいひつ)ノ心】:精神状態を安定、制御できる。抵抗力極化補正


≪New≫【劣等者】:技能、称号による『上昇補正』の効果半減

《習得、取得、継承不可》



〇…………Unknown……

・【異界しゃノたマシい】:『転生者』の魂を器に同調、定着…………不測の…態に…調、定着……程に…不備が…生じ、失敗……た。再実…………一部…敗……。再……緊急処置実行に伴い、魂の同調、定着を最低限行い終了。不具合により、Level上昇不可。魔力回路消失。技能・称号の習得、取得、継承不可

└〈異界ノ適応体〉:共通言語理解・ニホン語、共通文字理解・ニホン語、自己理解翻訳/他者共通翻訳:サク


・【遊戯盤ショu】:任意発動。『認識、意識したあらゆるもの』の能力、状態などを盤上に符号として明らかににすするルルr


≪New≫【死ンデモ命ガアルヨウニ】:三相技能(ウィルドスキル)。日に十回『死』んでも甦れる。『傷』に類される事象を元の状態に即時修復、再生する。修復、再生時、状態異常:[激痛]

└【--】

└【--】

 └(技能:〈--〉)

└【死ニタモウ事ナカレⅠ】:解放技能(リリーススキル)。耐久力、抵抗力、体力激化補正。死んだ際Levelが『1』になる

└Ⅰ〈苦ハ楽ノ種〉:全ての『苦』に対し『耐性』を得る。『物理耐性』『超常耐性』を得られる

《習得、取得、継承不可》



※vjれlせhs――異能力

≪New≫【黒煤ノ薪子(クロススノマキゴ)】:『異端』の異能。『自らの身』を触媒に『煤』を微量生成、制御する能力。生成(身を焼く)速度は一定であり、質を変えられ、際限なく圧縮できる。『煤』は自身の意思以外で歪むことも動くこともない。身体から離れた部位は、意識すれば一瞬で『煤化』する。自然治癒能力が大幅向上。 対価:自身を焼き、煤を生成




※称号

(器)

・【夜人ノ血族・白夜】

・【勇敢ナ者】

・【支配サレシ者】

・【餌食トナル者】

・【失ワレシ肉体ノ者】

・【刃ニ刻マレシ者】


・【耐エ忍ブ者】

・【死線ヲ越エシ者】

・【無慈悲ナル再生者】



(前世)

・【歪ミノ申シ子】

・【理カラ外レシ者】

・【認識ノ薄レシ者】

・【不運ノ申シ子】

・【忌ミ子】

・【滅ビヌ者】

・【歪ナ中身】

・【悪縁ト縁ヲ結ブ者】

・【新タナ歯車】

・【炎ニ焼カレタ者】

・【転生セシ者】

・【見知ラヌ理ノ訪問者】

・【異能者】


・【歪ミノ因果ヲ持ツ者】

・【天運ナキ者】

・【運命ニ弄バレタ者】

・【苦痛ニ染マリシ者】

・【痛ミニ慣レシ者】

・【静カナル観測者】

・【不運ヲ終エタ者】

・【異界ヘ導カレシ者】



・【天主神ノ恩恵・創造】

・【天主神ノ加護・幸福】

・【深主神ノ加護・不幸】

・【天主神ノ恩恵・奇跡】

・【天主神ノ恩恵・娯楽】




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