28.5 哀れな無知[■■■あいじょう]
『16.エレナス邸(1)』で書かれた『ドロドロの恋愛アニメ』をレンが覚えている理由
それと、【死ニタモウ事ナカレ】が発現したキッカケのお話
――人は、ある瞬間を境に取り返しにつかない道へ進むことがある。
当時三歳の白鷺 蓮にとって、それが――ただの『深夜アニメ』だった。
『ヤンデレの女が元カレを監禁する』という、中盤のストーリー。
泣きながら抱きしめ、『愛してる』と囁き――次の瞬間、発狂しながら暴力を振るう。
頬を叩き、腹を蹴り、包丁で切りつける……そして、傷つけた相手を撫でながら、『ごめんね』『でも愛してるの』と繰り返す女。
傷だらけの手で流血した元カレの頬を撫でながら、熱を帯びた震える笑い声で、囁く――
『ぁは…………恋なんて、するんじゃなかった……ッ』
――それは、蓮の両親が寝静まった深夜のこと。
風呂場で寝かされていた彼は、その日初めて――『好奇心』という感情を覚えた。
こっそりと立ち上がり、音量を最小にしてテレビをつける。
幼い胸の奥が緊張によりざわついた、その瞬間
――画面に映ったのが――深夜アニメの『あのワンシーン』。
普通、あのような『執着』や『殺伐』を表現したシーンを見た三歳児はどう思うか?
――意味が分からず、ただ『恐怖』や『混乱』を感じて泣き出すかもしれない。
――あるいは、『異質』なものとして脳が理解できず、無意識のうちに記憶から消してしまうかもしれない。
――しかし、『彼』は違った。
理解してしまた……いや、『曲解』してしまった。
テレビに映る美麗な『作画』。
実力派声優の圧倒的気迫の『感情表現』。
涙でぐちゃぐちゃになりながら暴力を振るい、その手で負わせた傷を撫で、謝罪する『女の姿』。
その『矛盾の形』を、彼は知っていた。経験してきた。
それは――『母親が自分を撫でる時の姿』に、あまりにも似ていたのだ。
――『おまえがおんなならつかえたのに……』
――『あたしはわるくない……』
――『おまえがいれば、あたしはなぐられずにすむ……』
――『しなないでね……あたしのために』
幼い脳裏にこびり付いた『声』が、画面の演技と重なる。
『好き』や『愛』『恋』という、意味を知らない単語の羅列。
しかしそれは――母の独白の中で、幾度か聞いたことのある言葉たちだった。
――『『すき』って、なに……?』
――『『あい』してるなんてうそだ。ぜんぶうそだ……うそだうそだうそだうそだ……――』
――『『こい』なんて、するんじゃ……なかったっ!』
撫でていた手が、突然頭を掴む――次の瞬間、母は息子の頭を何度も床へ叩きつけた。
ゴミ屋敷のせいで転がっていた手鏡に、何度も、何度も、何度も……。
割れて散乱した破片で彼が血を流そうが、母はやめない。
頬や瞼に破片が刺さろうが、それでもやめない。気にしない。
蓮は、それを黙って受け入れていた。
――痛みへの『耐性』が異常で、狂っていたから。
――やり返すという発想がなく、無意識な『抵抗』しか知らないから。
――体が暴力に『適応』してしまったから。
母はやめない――次の日には『何事もなく治っている』ことを知っているから――ではない。知ったことではないからだ。
彼は母にとって、自分の身代わりに父から殴られる便利な『生き物』。そういう『認識』なのだ。
(――――母親も、いつもいってた……)
――『おまえを『あい』してるのはあたしだけ……だから――しぬなよ』
――『『こい』つのかおをみるといらいらする……こっちをみるなっ!!』
――『ころ『すき』でなぐったのに……なぁ……』
――『ごめんね……ごめんねぇ……ぁあ、しなないでよかったぁ……』
画面の中が『フィクション』だという区別は、当時三歳の彼にはつかなかった。
むしろ彼にとってそれは――『非日常』ではなく、生まれた時からの『人生』だったから。
『愛しているから殴る』
『好きだから叩く』
『暴力のあとに、謝罪と抱擁がある』
――幼い彼の知る『日常』と、画面の中の『関係』が、一本の線として結びついてしまった。
蓮は『愛』というものを受けたことも、向けられたこともなかった。
だからこそ――その『歪み』を『真実』として受け取ってしまった。
幸運にも、彼は感受性が異常に強い子供であった。だからこそ、悲劇に拍車をかけてしまう。
まともな情操教育を受けないまま、狂った環境で自分なりに『感情の形』を組み立ててきた彼は――数分間の映像から、『歪んだ確信に至る』。
――『暴力』は……『あい』っていうんだ。
――たたくのは、『すき』だからなんだっ。
――両親がぼくをたたくのは、あいしてくれてるからなんだ!
――――未熟な記憶と映像が混ざり、溶け、絡まり……醜くねじれた――――
これが、白鷺 蓮が『愛情の向けられ方』を致命的に間違えた、瞬間だった。
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◇【死ニタモウ事ナカレⅠ】の初期設定
※十数年前、残ってた当時の文体をそのままコピペ
【死ニタモウ事ナカレⅠ】:解放技能。耐久力、抵抗力、体力激化補正。死んだ際Levelが『1』になる
└Ⅰ〈苦ハ拒ム芽〉:軽度の『苦』を遮断する
・物理的、精神的な『痛みの感覚を閉じ』、刺激の一部を低減する
・『怖い、避けたい』という自然反応が生んだ『消極的防御』
└Ⅱ〈苦ハ遠イ棘〉:中度の『苦』を逸らす(※回避補正)
・衝撃、暴言、怯えなどの苦が『身体や心に触れる直前で曲がる』
・『純粋な拒否』により軌道が逸れる
・逃げの概念。距離を作る力
└Ⅲ〈無苦ノ殻〉:『苦の無効化』を得る
・特定の苦(痛み・恐怖・呪いなど)を『現象、存在ごと遮断』する
・適応しない。理解もしない。ただ入らせない
・この段階で『殻』という概念がつくのは、『恐怖が拒絶の形を完成させる』から
└Ⅳ〈無苦ノ盾〉:『苦の吸収・無害化』を得る
・届く前に『溶けて消える』
・吸収するが『力に変わるわけではない』
・純粋な『無効化の強化版』
└Ⅴ〈苦界ノ断絶〉:『苦との絶対断絶・不可侵領域』を得る
・あらゆる『苦概念との接続を断つ』
・構造としては『切断』
・干渉、呪い、苦痛、恐怖、災厄などのすべてが『彼という存在に到達できない』
・『世界法則側が彼へ干渉できない』という逆転した防御
※小説にすると決めた時、上記の能力を『文章で表現できない』と思い、『苦ハ楽ノ種』という今のシンプルな能力に変更しました
※レンが普通の少年であったら、能力は上記の『無効化』方面になっていました。しかし、『歪み』せいで『受け入れる姿勢』を取らされたことで、『適応』という『受け前提』の能力に変わったのです――
――という後付け
本編の『プロローグ』より先に書いていた、『レン・サクの生い立ち』がそれぞれ三つあります
どこかで挿めたら、最後の『生い立ち』も出しますね
最初期の文章はもっと淡白で、迫力が無かったので――『今のできる赤べこ』が加筆しましたv( ̄ー ̄)v
両眼はぜんぜん痛いです。ホントに休むカンナ!!




