0994・東ガウトレア第2西町
Side:アレッサ
わたし達は中央ガウトレアをバイクで東へと進んで行く。東ガウトレアと違って善人化をしているので、いちいち町で泊まる必要も特に無い。悪人は居るかもしれないけど、そこまで増えていない筈だからね。
そもそもだけど、王都での事もたまたまというか運が悪かったと思っている。悪人に近かった連中が悪人になったり、そこまで悪人ではなかったというか、単に権力を手にしようとしていた連中が絡んできたくらいの事だ。
権力を手にしようというのは悪じゃないらしく、その手に入れた権力で何をするかが悪人になるかどうかの分かれ道になる。つまり権力争いの最中で、まだ具体的な悪の行動をしていなかった者が暴発して悪になったという事。
特に軍務卿という地位にあったヤツが暴発したらしい。外戚になる事を夢見て王太子を推し、それが上手くいかなかったとの事で自身の保身を図ってわたし達へと手を出す事を強行。その結果、無事に悪人になり怪物に喰われた。
ある意味で分かりやすい人物ではあるんだけど、悪人であったり敵となった以上は容赦をする必要などない。それにミクが容赦をするとはとても思えないのよねえ。そもそも手加減も容赦もする必要が無いんだし。
唯でさえ鬱陶しいって言ってたんだもの、そんな連中が敵対してくれたんだから喜んで喰らいに行くに決まってるわよ。その結果、軍の兵士の4分の1が喰われたという事。ミクに敵対したんだから当たり前の事でしかないけどさ。
『あの愚か者どもにとってはいい気味よ。被害が出なければ理解できないなら喰われてしまえばいいのだし、そこまでされないと分からない阿呆が悪いに決まってるじゃない。愚かな連中なんてものは所詮その程度なのよ』
『まあ、被害を受けたのは軍の連中と、軍務卿とそれに賛同した貴族どもでしょ。なら特にどうこうと言う必要の無い被害ね。民に被害が出てないならどうでもいいわ。貴族どもの代わりなんて幾らでもいるでしょ。愚か者じゃなくなるんだし』
『まあねえ。そもそも有能な者なら下らない事なんてしないし、そんな発言もしないわ。国が民に舐められちゃいけないってねえ、舐めてきたのはそっちが先でしょって話よ。こっちを舐め腐っておいて何様のつもりなんだか……』
『だからこそ喰われたんだし自業自得でしかないわね。そもそもファーダとノノが暗躍してるんだし、そりゃ喰われるに決まってる。当たり前の結果になっただけなうえ、それで慌てられてもねえ』
『それ以前の問題なのよ。最初の始まりは憲兵隊とチンピラがつるんでいたという事であり、これって完全な不祥事でしょうが。それで私達の口を噤ませようとしたのか知らないけど、最初から間違ってるのよ。全部』
『そういえば最初はそうだったんだっけ。となると連中がやった事って恥の上塗りが続いただけね。そのうえ軍務卿とやらを潰す為にわたし達を利用しようとしたと。完全にわたし達を舐めきってるじゃない』
『そうよ。だから転移してさっさと逃げたんじゃない。奴等に謝罪も何も許す気は無いのよ。もし噂か何かでこっちに敵対してきたら、私は更に殺すわ。屍山血河を築きたいなら私が直々にやってやろうじゃないの』
『流石に止めてあげなさい。イリュだったら本気で出来るでしょうから、余計に止めてあげなさい。流石に向こうも気付いたでしょ。軍務卿だけじゃなく、他にも要職にある者が死んでるんだもの。そのうえ全員がわたし達に対して喧嘩を売れと言っていた奴等なんだし』
『向こうからすれば悪夢でしょうね。何故会議の内容が漏れてるんだという話だし、昨日の今日で殺戮されてるんだもの。そのうえ貴族だろうが要職にあろうがお構い無し。守ったところで意味が無いものね、その守りを擦り抜けるんだから』
『空間自体をどうこうしてしまうんだから、防御なんてそもそも意味が無いでしょ。カルティクの闇影もそうだけど、防御不能の攻撃を前に人間種に何が出来るのかって話よ。プレートアーマーを着込んでも中は闇であり影よ? 何でも出来るじゃない』
『イリュの空間断裂なら鎧も関係無しに真っ二つよ? 私のやる事は精々闇影を利用して心臓を貫くぐらいなんだから、大した事じゃないわよ』
『いや、わたしからすればどっちもどっちだっての』
バイクに乗って風を受けながら下らない話をしていると、だいぶ気分も上向いてきたわね。あのクズどもが余計な事をしてくれたけど、ベルもフィルも風を受けて喜んでるみたいだし、何とか良い感じに忘れてほしいものね。
二人とも【記憶力強化】を持ってるから、ちょっと嫌な予感もしている。おそらくは嫌な記憶なんて忘れると思うけど、下らないカスどもの事なんて覚える必要が無いんだと言ってやりたい。でも言うと記憶に残る可能性があるし、困ったものよ。
わたし達は中央ガウトレアを越えて東ガウトレアに入った。今日は東ガウトレア第2西町で宿をとる。特に何かがある訳でもなく、さっさと宿の部屋をとったわたし達は少しゆっくりする事にした。
「………あーう?」
「あれ? フィルが喋った? 今まで泣く以外に声を出そうとしなかったけど、何か心境の変化でもあったかな?」
「いや、物心ついてないんだから、気分で変わったりしないでしょ。それはともかく、おめでとうフィル。言葉で話せるようになる第一歩よ、それは」
「あー……あう! あ! あ! あー!」
「何だか急に元気に話すようになったわね、悪い事じゃないから良いんだけど……。子供って唐突に話し始めたりするの? 流石に自分の子供を産んだ事も無ければ、四六時中、子育てに終われた事も無いから分からないのよね」
「まあ、それはそうでしょうよ。元々は<妖精女王>なんだしね。それに分かってなくても良いんじゃない? 手探りでも子育ては出来るでしょ。最悪はガイアで色々と調べればいいし」
「そうね。あの星なら子育てに関する様々な本とか情報が溢れてるし、何も分からない訳じゃないわ。そう考えるとアレだけの情報を開放しているって凄いわよね。あの星にとったら大した事じゃないんだろうけど」
「そうね。よくも体系的に分類して、あそこまで纏めたものよ。情報を得るって本来簡単な事じゃないんだけど、あの星では大した事のない情報とされているものは、本当に簡単に手に入るのよねえ」
「じょー?」
「ベル。情報よ、情報」
「じょおー」
「それじゃ、イリュの事になっちゃうじゃん」
「「「ははははははは……!」」」
話の最中にミクがミルクを作り始め、それを見たフィルが手足をバタつかせた。どうやら目が見えているらしく、ミルクが作られている事すら何となく分かっているのだろう。急に猛烈に賢くなった感じだけど、どうなってるのかしらね?。
別に悪い事ではないんだけど、<超人族>の片鱗が出てきたのかしら? 周囲におかしいと思われなきゃいいんだけど、多分大丈夫よね。
ミクがミルクをあげると元気よく飲み始め、それをベルがジーッと見ている。するとベルが何か飲みたいというので、ミクがガイアで仕入れたという水飴をカルティクが水に溶かして渡していた。
「ハチミツは子供に良くないらしいからね。水飴なら問題ないでしょ」
へえ、子供にハチミツは駄目なのか。覚えておこうっと。
それはそうと、フィルがミルクを飲み終わったら食堂へ行くんでしょ。そこで飲み物を注文すれば良かったんじゃ……。
いや、フィルが飲んでるから自分も何かを飲みたかったのかしらね? ……余計な事は言わないに限るか。口に出さなくて良かったわ。
この作品に対する感想を初めて頂きました。全ての作品にて感想返しをしない事にしております。それをし始めると執筆の時間を削られてしまう為ですが、全ての感想は読ませていただいています。ありがとうございました。




