0993・王都を出発
Side:ミク
昨夜はファーダとノノが大活躍だった。ノノも軍務卿に賛成していた貴族を食い荒らして処分したし、ファーダは軍の宿舎から出ようとした者を処分し続けた。最終的に軍の宿舎の敷地から出たら死ぬと分かったからか、誰も外へと出ようとしなくなってたね。
敷地内で殺されてるから、そこから外に出て反撃しようと思ったみたいだけど、敷地から出ると殺されるんじゃねえ……。最後には誰も彼もが恐怖で怯えていたよ。敷地内から出た途端に首から上が無くなるんじゃ、それを見た奴は出ようとしないでしょうよ。
どうやら軍務卿から話を聞いていたものの、後方のバックアップを命じられていた連中が居たらしく、誰を襲う為に出陣しようとしていたかは知っていたみたい。それを他の兵士に話していたけど、それが結果的に被害を増やす事になったね。
聞いた奴等は当然仇討ちだと威勢良く出るよねえ。そして出た途端に殺され、パニックになりつつも警戒しながら調べる。軍人だから正しい行動なんだけど、それで計れるほど私達は甘くない。
その結果、敷地内から僅かにでも出た途端に喰われる者が続出。大量の人員が首から上を喰われ、その御蔭で敷地内を出たら喰われると分かった軍人どもは、恐怖しながら建物内に引き篭もって出てこなくなった。
まあ、当然と言えば当然だろうけどね。誰だって死にたくないだろうし、目の前で仲間が死んでるんじゃ勇気などは出ないだろう。勇気を持った者も居たけど、そいつらは敷地内から出て死ぬんだ。勇気じゃなくて唯の蛮勇だったね。
おそらくだけど軍の4分の1は喰ったんじゃないかな? その後は出てこなくなったから喰わなかったけどさ。この星では長く善人化で済ませてきたから、その所為もあるのかもしれないね。上に居る連中が舐めているのは。
もしくはガイアを除き、ある程度進んだ文明だからという可能性もあると思う。だからこそ自分達の持つ知識が絶対に正しいと思い込んでいるか、それとも疑う事をしないんだ。一個人が国を引っ繰り返せる、その発想がアルデムと比べて希薄なのか無いんだろう。
アルデムは<鮮血の女王>が居たから、一個人が国を引っ繰り返すという可能性を知っている。だからこそ迂闊な行動をとらない。でも、この星じゃそんな事は無いんだ。だからこそ人数を掛ければ勝てるなどとバカは思い込んでしまった。疑いもせず。
そういう意味でも憐れだねえ。この国の愚か者どもは夥しい死体を前にして、ようやく私達に対する認識が甘かった事を知るだろう。まあ、私達は今日にも王都を出て行くから、実際にはこれ以上何もするつもりは無いんだけどね。
「びぇぇぇぇぇん!!」
「おっと、おむつかな? それともミルクかな? ………おむつだったかー」
私は素早く【清潔】を使いながらおむつを脱がせ、新しいおむつを履かせる。ズボンを履かせてから用意していたミルク入りの哺乳瓶を咥えさせたが、フィルは飲もうとしなかった。どうやらミルクはまだらしい。
なので哺乳瓶を外して【浄滅】を使い、アイテムポーチに仕舞う。最近は出やすいようにポーチの方に入れる事にしたんだよね。こっちの方が便利だから当たり前なんだけど。
フィルを再びエアーマットに寝かせたものの、どうやら起きてしまって寝られないみたいだ。腕と足を動かしているので、何かの運動をしているのかな? そうやって見ているとコロンと横に転がったので、仕方なく私が抱いておく事にした。
フィルを抱いて安楽椅子に座っていると、その揺れが心地良いのか喜んでいるのが表情で分かる。まだ皆も寝ているので、このまま機嫌よく居てもらおう。
…
……
………
「それで安楽椅子に座ったままフィルを抱いていたのね。揺れが心地良いというのは分からなくもないけど、漏らしちゃって目が覚めたから寝られなくなるとは……」
「まあ、子供にはよくある事だから仕方ないわよ。いつもグッスリなのはミクが眠りの香りを使ってるからだしね。でも寝る子は育つって言うし、悪い事ではないわ。日中は起きてるしね」
「フィルに関しては生後四ヶ月だもの。寝て起きてミルクを飲んでを繰り返す時期だから、当たり前の行動をしているだけね」
「それで、昨夜はどうだったの?」
「王太子の後ろ盾で、次代の外戚になろうとしていた軍務卿がキレて喚き散らしてたね。王太子が駄目だから、早速私達を潰して成果を上げようとしたみたい。第3王子も正妃の子供だけど、どうやらこっちの派閥は固めてあって隙が無いって言ってたよ」
「あらら。外戚として権勢を振るえるかと思ってたら、王太子がコケて全部の予定が狂った訳ね。それで私達を始末して功績にしようと? 随分と舐めてくれるじゃないの、ここのゴミども如きが」
「とはいえ、わたし達は今日バイクを受け取ったら出て行くわよね? 無理にどうこうなんてする必要は無くない? 更に言えば、これから行くのは東ガウトレアよ。王都に関わる事も無くなるんだから良いじゃないの」
「私としては、一旦東ガウトレアの第2南町まで戻った後で、ガイアに転移しようかと思ってる。理由は魔道具として作られているバイクを預ける事。簡単に言うと、コレを模倣出来るようにデータをとってほしいんだよ」
「ああ。もう王都に来なくてもいいようにね。それにガイアで修理できるならそれに越した事はないもの。それなら思い切って向こうのバイクで走り回る? 空気は汚れるだろうけど」
「それもどうなのかしらね? でも向こうのバイクの方が良いタイヤを使っているだろうし、揺れも少ない筈。子供達にとっては向こうのバイクの方が良いかもしれないのが何とも言えないわ」
「向こうで一ヶ月か二ヶ月くらいゆっくりしてから戻ってくればいいじゃない。そもそも神様からは急げとも言われてないんだし、途中で休んだとしても文句は言われないと思うわよ?」
「それもそうね。別に放置して止める訳でもないんだし、休むのぐらいはありじゃない? ……ベルも起きたようだし、さっさと食堂に行って食事して行きましょうよ」
「そうね。とりあえずトイレに連れて行ってくるわ」
そう言ってイリュは宿の部屋を出て行った。外にはファーダが透明な姿で居るし、ノノがついて行ったから問題は無しと。可能性としては低いけど、襲ってくる可能性自体は否定が出来ないからね。しっかりと警戒しておかないと。
フィルに哺乳瓶を咥えさせると飲み始めたので、そのまま飲ませているとイリュ達が戻ってきた。私がフィルに飲ませ終わったらゲップをさせ、ベビーキャリアで抱き上げて固定し、部屋を片付けたら食堂へ。
注文が終わったらベルをいつもの椅子に座らせ、料理が運ばれてきたらさっさと食事を終わらせる。ベタベタのベルを魔法で綺麗にしたら、その足でアーリーの店へ。既に出来上がっていたので受け取り、修理代である200ダルを支払って挨拶をしたら門へと移動。
バイクを受け取った私達は王都の入り口まで歩くも、門の手前で兵士達が周りを囲み止めてきた。
「申し訳ありませんが、我らと共に城まで御同行願いたい」
「まだ理解していないのね。本当にこの国の人間種はマヌケにも程がある。私達の進む道を妨げる事が出来ると本気で思っているなんてね」
「お待ちを! 我々はそちらと争う気などはありません!!」
「あろうが無かろうが鬱陶しい事に変わりは無いのよ、マヌケども」
そう言ってイリュは空間を転移したので、私も【空間魔法】の【転移】を使ってアレッサとカルティクと共に移動する。と言っても移動先は王都の外だ。長距離を転移できると思われるのも鬱陶しいからね。
私達はバイクを取り出して乗ると、さっさと王都の前から出発した。後ろから兵士の慌てた声が聞こえるが、私達の知った事ではない。
最後の最後まで迷惑な連中だったね、本当に。




