0992・敵の辿る道
Side:ノノ
「そなたらは国家の格が貶められても良いと思うのか!? 陛下は勝手にするなら好きにしろと言われたが、事は国家の話ぞ! もはや一王族などという話ではない!! 陛下はいったい何を考えておられるのだ!!」
「ちょっと待て、軍務卿。そなたの先程の言葉は看過できんぞ! 陛下がお決めになる事が国家としての指針である。にも関わらず軍務卿が勝手に決めようとするとはどういう事だ! それは王権を傷付ける事ではないのか!」
「いや、そこまでは言っておるまい。納得できぬという気持ちは分かるしの。ただ、陛下がお決めになった事が全てだ。軍務卿も受け入れよ。そしてどうしても納得できぬのであれば、仲間を募ってやればよい」
「それでワシが上手くやれば国の面子は保たれるという訳か? 上手くやれば手柄を掻っ攫い、下手を打てば切り捨てればよいか。昔と何も変わらぬ意地汚さよ!!」
怒ってドスドスと歩いていく軍務卿とやら。気持ちは分からぬではないな。己が上手くやっても手柄を奪われ、失敗すれば己の責として処分される。手柄を奪うならば、せめて協力ぐらいはしろという事であろう。分からんではない。
「ふう、やれやれ。どうしても玉座に就けたかった王太子がアレじゃからの。元々からして危機感を持っておったのであろうが……。王太子が切り捨てられるとなったら、早速己の名を上げての保身に走ったか。無様なヤツめ」
「内務卿、それよりも陛下は何故あそこまで譲歩されるのです? 軍務卿の言い分も分からなくはありませぬ。多数で押し潰せば少数が勝てる道理などありませぬし、その言を押し返すのは難しゅうございますぞ」
「分かっておる。しかし一度ならず二度も兵士を押し潰して殺し、王太子の股間を切り落としたという。特に王太子の際には何も無かったそうじゃ。目に見える事や音さえ聞こえなんだという。つまり、気付いたら殺されておるという可能性すらある相手なのだ。慎重にならざるを得まい」
「目に見えず、音も聞こえず……ですか」
「そうだ。実際に憲兵隊の者にも確認したが、兵士が潰れていく際に音は一切しなかったという。非常に奇妙な物を見せられたと言うておったし、それ故に恐ろしかったとも言うておったそうだ。この世の光景とは思えなんだとな」
「しかし……」
「問題はじゃ。それが複数に対して出来た場合よ。もし逃げられたらどうなる? 闇討ちでもされた日には音も無く殺戮されるぞ。そんな事になるぐらいならば、王太子が愚かであったとする方がマシなのだ。どうせ廃嫡になるのであるしな」
「軍務卿はどうするのでしょうな。あそこまで熱心に推しておったのは外戚に納まる為でございましょう? 正妃様は軍務卿の御息女ですからな」
「それでも第3王子殿下が居るからの、これからはそっちに食指を伸ばそうとするじゃろう。既に第3王子殿下の周りは固められておるというのに、愚かなものよ」
「長子相続となるのは慣例ですが、しかし必ずそうなるとは限っておらぬのですがな。未だ軍務卿は夢を見ておられるようで……」
「愚かなものじゃの、明日は泥に塗れておるかもしれぬのが権力争いぞ。あのように怒りで見えておらぬでは、これから先は泥に塗れる道しか残っておるまい。もしくは泥の中に沈むやもしれんの」
「王弟殿下、陛下は真に放っておいてよいと? 手は出さぬにしても、何がしかの牽制はしておくべきではありませぬかな?」
「そなたらが命を投げ出すのであれば好きにすれば良いのではないか? 私は御免被る。あの者にとっては人間種など虫ケラに過ぎんのだ。そしてそれだけの力を相手は持っておる。勝てぬ相手に挑むのは阿呆のする事でしかない」
王弟はそう言って席を立ち、会議室を出て行った。その王弟の言葉をまともに受けたのは一部だけか。大半は目の前で人が殺されたから日和ったという物の見方をしておる。所詮は人間種であるな。愚かなものよ。
それよりも軍務卿とやらが動き出しておるようだ。まあ、あちらはファーダに任せておけばよい。我は最後までこちらの情報収集をせねばな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:ファーダ
俺は町中の悪人を探したり、少し厳しめに魂の色を観察していたのだが、ノノに呼ばれて軍の宿舎に来ている。そこに駆け込んできたのが軍務卿とやらだが、早速ノノの予想通りの事をしているな。
この国の王は自分の家臣にさせろと言っていた筈だが、コイツは言う事を聞かなんだらしい。とはいえ、おそらく王はそれ込みで話していた筈だ。つまりコイツが暴走して軍を使う事も考えていたという事になる。
そもそも正妃の父親ともなれば性格など知っているだろう。そして言っても理解しない事も合わせて考えれば、どんな行動をとるかなど容易く想像できる。特にこういう性格の者は直情的で分かりやすい。
それはつまり、最初から軍務卿を切り捨てるつもりだったと分かるのだが、当の本人はそれを理解していないな。軍を勝手に動かせば罪に問えるのだ。勝手な事をした段階で、外戚としての力を弱める事ができる。それほど都合の良い事はあるまい。
……俺達という者を計算に入れていなければな。おそらくは王も俺達を舐めているのだろう。だからこそ、軍が全滅するという事の意味を考えていないのだ。俺達を襲ってくる以上は敵であり、敵である以上は一切の情け容赦をしない。
イリュはわざわざ下等生物と言ったのだ。その下等生物を相手に手加減などする筈がなかろう。俺達にとってはそれ以下であり、そもそも敵とは〝喰ってもいい生き物〟なのだ。ミクもたまに言うが、敵や悪人というのは俺達にとって食い物でしかない。
人間種が食い物に対して何か思い入れを持つのかという話だ。中には飼っている生き物が捌かれてトラウマを持つ者も居るが、大多数は食い物など食い物としか認識しない。そして俺達にとって、自分以外は全てそうなのだ。
違いは思い入れがあるかどうかでしかない。思い入れのある者などは喰わないが、それ以外の思い入れが無い者は須らく食い物だ。そしてその食い物の中に喰っていい物と駄目な物が存在し、それが悪人か否かという事になる。
俺達にとって、何処までいっても生物への認識などその程度である。思い入れのある者とは大事な者と言い換えてもいい。人間種もそうだが、己の大事な者以外はどうでもいいだろう。俺達にとってもそうなだけだ。
……っと、下らん事をつらつらと考えていたら動き出し始めたな。とはいえザコどもが群れているだけなので何の意味も無いがな。それでは始めるか。
「お前達! 我が国の威信を守る為、確実に平民の命を奪え!! 相手は我が国を侮辱した者ぞ! それだけ万死に値する愚劣なる行為よ!! いくぞ、私に続け!!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
無理矢理に起こされて、いきなり平民の命を奪いに行く。この者達からすれば意味が分かるまい。とはいえ同情など一切せんがな。俺達に手を出すとは即ち死ぬという事だ。それを王城の阿呆どもに教える為にも、生贄になってもらおうか。
「「「「「「「「「「ボリッ!!」」」」」」」」」」
俺の体は現在透明ではあるが、しかし巨大な肉の塊になっている。そしてその巨大な肉の塊に付いている無数の口が、軍の者どもの首から上を貪った。倒れた軍人どもの死体は夥しい血を噴出し始めたが、俺はその全てを放っておく。
軍の全ての者が召集された訳ではないので、この事に気付く者も出てくるだろう。俺はここに残って新たに敵となる者どもを食い荒らすか。敵は全て死ぬのだという事を教えてやらねばならんしな。




