0981・忘れられた姉弟
Side:ノノ
夜になった為、我も外へ出て活動しておるが、とりあえずは町中から終わらせていかぬとな。ファーダはスラムへと行ったが、どうも向こうは微妙に梃子摺っておるらしい。理由としては娼館が多く起きている者が多いからだそうで、なかなか難儀な事になっている。
仕方なく強制的に寝かせてなどとしているらしいが、それなりに手間が掛かる所為で無駄な時間が掛かっておるようだ。あちらはファーダに任せて、我とミクは町中の善人化をどんどんと終わらせていく。こちらは数が多くて時間が掛かるからな。
次々に善人へと変えて行きつつ、移動しては善人に変えるという事を繰り返す。大事な事は、確実に終わらせていく事であって焦る事では無い。時間は掛かるが、そんな事は分かりきっていた事である。
平民街のほぼ全てを終えたら、次は帝国軍の兵士達だ。治安を守っている憲兵隊も対象だが、あっちはミクが善人にしている。なので我は軍の宿舎へと移動を開始した。鳥になって移動したものの、そこまでの距離でもないので屋上に降り立ち、まずは確認をしていく。
悪の神の権能を使うと、ウジャウジャと悪人が居るのが分かる。まさか軍人がここまで悪人だらけとは思わなかったが、いったい何をやっているのか疑問がある。ここまで悪人が多いという事は、何かがあった筈。
それを聞き出しておいた方が良いかと悩むが、しかしさっさと善人化するのが先かと考え直す。そもそもの目的を誤ってはいかんな。初志貫徹、途中で寄り道などせずにさっさと済ませてしまうべきだ。
悪の神の権能を使って調べ、善の神の権能で善人に書き換えていく。それらを繰り返し、終わった頃にはスラムも貴族街も終了していたようだ。残すは帝城のみか。
我はミク達と合流して、帝城の中へと侵入していく。皇帝を変える事は出来んが、それ以外なら善人にする事は容易い。そうやって善人にしつつ次々と変えていくと、帝城の奥に館と塔があった。もしかして先代皇帝の子の軟禁場所はあそこか?。
館の方に入ると、あからさまに警備が厳重だったので、ここが皇帝の居る場所だと分かった。我らには意味の無い警護であるが、皇帝の守りとしては過剰なくらいに多い。そんな中を進みながら善人に変えてっていると、騎士が二人居るドアの前まで来た。
この奥が皇帝の寝室なのだろうが、生命反応が五つもある。仕方なく悪人ではない騎士の間をすり抜けて、ドアの隙間から侵入し中へと入った。部屋の中には誰も居らず、その先の部屋に居るようだ。
そちらのドアから侵入すると、中からはあからさまな臭気が漂っていた。男女の交尾の臭気と、何やら………これは!?。
『我の間違いで無ければ、コレは<ヴェノム>が売っている危険な薬物の臭いではないか? 何度も嗅いだ事があるので、おそらく間違ってはいない筈だ』
『間違いないだろうな。コレは薬物の臭いだ。少し近付いて調べてみるか。この臭いがしているのは………女達からだけだ。皇帝と思しき男からは臭いがせん』
『という事は、女性達に使って狂わせているって事だね。一国のトップが薬を使って女遊びとは……。流石は正統ではない血筋だけはある。これが皇帝という事は長くない気もしてきたけど、私達には関係ないか』
『そうだな。女達だけ丁寧に善人化し、後は放置して次は塔の方へ行こう』
我も含めて、薬で狂っている女達を丁寧に善人化し、たとえ薬を使っても善人にしかなれないようにした。もし善人でなくなるのなら、それは死んだ時だけだ。それぐらい生命の根源から書き換えたので、善人以外にはなる事が出来ない。
皇帝を変えられぬ以上はこうしておくしかあるまいな。終わった我らはさっさと出ると、今度は大きな塔へと近付いていく。特に兵が見張りをしているなどという事は無く、我らは施錠されているであろう扉の隙間から侵入した。
螺旋階段を無視して壁を登っていき、最上階にある扉から中に入る。すると、そこには痩せ細った男女が石の床の上で寝ていた。しかし、この男女からは生命反応が無い。我らは小さな生命反応を辿ってここに来たのだが、どうやらこの男女ではないらしい。
ベッドの上を見ると、僅かな生命反応があるガリガリの子供と赤ん坊が寝ていた。そして倒れている男女の近くのテーブルには書き置きのようなものがある。そこにはこう書かれていた。
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私達の命は構わない。力が無い者は皇帝の座を簒奪されても仕方がないのだろう。しかし子供達だけは頼む。
私と姉の子供とはいえ、正統なダスガンド帝国皇帝の血筋である。せめてこの血筋だけは絶やさぬように切に願う。
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……男女の体を調べると、間違いなく飢えて死んだ事が分かる。つまり、極僅かな食事しか持って来なかったのだろう。それでも次代の血を、たとえ近親相姦になろうとも残そうとしたのだな。皇帝の血筋としては、間違いなく正しい行いであろう。
王や皇帝というのは、何より次代に血を残す事を求められる。たとえ飢え死にしようとも、果たすべき責務は果たしたのだ。立派な者達だと思う。
それに比べて危険な薬物で色事に耽るゴミか、救いようが無いな。
『ミク、どうだ? 大丈夫か?』
『駄目。この子供達を助けるには、本体の肉を使わないと無理。でもそうするとこの子供達はダスガンド帝国皇帝の血筋ではなくなる。幾ら本体が万能細胞と万能血液で作られているといっても、生物しての位階が上がってしまう以上、同じにはならない』
『それならそれで構うまい。どのみちこの子らはダスガンド帝国の皇帝の座には就けんのだ。このままでは死んでしまう以上、玉座に就く事は不可能なのだからな』
「なら構わないね。この子は私達が育てればいいか。それにしても二人産んだのは、二歳か三歳の方が女の子だからかな? こんな状況でも玉座に就ける子供を残したかったんだろうね」
『名前はどうする?』
『どう呼んでたか分からないし、私達が名付ければいいじゃん。それより二人を本体空間に仕舞うよ。後は本体が治してくれる。ただし種族は変わるだろうけどね』
ミクが子供二人を本体空間に移した後、最上階の部屋を詳しく調べたが碌に何も無かった。とことんまでに忘れられていたらしい。我らは色々と話し合い、書き置きを持って行く事にした。これが唯一のダスガンド帝国皇帝の血筋だと示す物だからだ。
遺体を正しく埋葬してやりたいが、皇族の霊廟などがあるかどうかは知らぬので触らぬ事にした。善人が増えているので、そのうち誰かが遺体を発見するだろう。既に手遅れだがな。
我はミクと共に宿へと戻るが、ファーダはガイアの日本へと転移し、子供用品を色々と買ってくるそうだ。小さい赤ん坊はマグヴェルと同じく、まだ一歳にもなっていないようだしな。粉ミルクが必要な年齢だと恩われる。
そんな赤子を放置するとは、この国の連中は碌なものではないな。そんな憤りを持ちつつ部屋に戻った我は、意識の殆どを本体へと移した。
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Side:本体
子供の体の中はボロボロで、生命の神の権能でも治せない程に酷かった。治すというより直す事が必要で、駄目な臓器を全て取り替えなければいけない程だ。それでも私の血と肉を使えば何の問題もなく回復するのだから、流石は私だと言えるだろう。
それはともかく、回復したのだから鑑定の石板で見てみるか。魔の神の権能を使えば、子供達の魔力を流させるなど容易いからな。まずは大きい方からだ。
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<ベルホープ・ヨーグスル・ダスガンド>
種族:超人族
年齢:2
性別:女
スキル:器用な肉体・回復力強化・治癒力強化・記憶力強化
特殊:鑑定の魔眼
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<フィルアラーン・ヨーグスル・ダスガンド>
種族:超人族
年齢:0(4ヶ月)
性別:男
スキル:器用な肉体・回復力強化・治癒力強化・記憶力強化
特殊:読心の魔眼
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……うむ。名前が判ったのは僥倖だが、変なのが付いたな。とはいえ、気にする必要はあるまい。




