0974・南ガウトレア第2東町
Side:アレッサ
マグヴェルの食事も終わる頃になると、ウェルディも覚醒したらしく意識がハッキリとしていた。
ただ単に眠り過ぎてボーッとしていただけみたいね。病気はあり得ないし、怪我とかならミクがすぐに治せる。考えられるのは精神的な事ぐらいだったんだけど、単に寝過ぎなだけとは思わなかった。
とはいえ問題ないのであれば気にする必要もなく、準備を終わらせたわたし達は宿を出て食堂に移動する。既に善人化を終えているので、町中におかしな連中は居ない。悪意や敵意も無いので快適な朝食を終え、町を出て行く。
少し歩いた後でバイクをアイテムバッグから出し、乗って南ガウトレア第1東町へ。ここから東へ行けば、リュートシア伯爵家の第2東町に着くでしょう。
ウェルディから聞いているけど、第2東町、第1北東町、第1南東町の3つと、その周辺の村を治めているのがリュートシア伯爵家らしい。カジノの所為で治安が悪いけど、ここ南ガウトレアで3つの町を持っているのはリュートシア伯爵家だけなんだって。
他は町2つの子爵家や町1つの男爵家が主で、町を3つ持つというのはなかなか無いようね。侯爵は中央町だし、辺境伯は国境の土地なので重要度が違うけど、領地の面積としてはトップとなる。だからこそ<荒野の鷹>が攻撃してきたんでしょうけどね。
私達はバイクに乗りながら【念話】で話し、男爵家が納める第1東町に着いた。ここで今日は休みなんだけど、それはマグヴェルの体調を慮っての事。……というのは建前で、本当は善人化の為に町で止まってる。
昨日の中央町は時間が掛かったらしく、その所為で予定より進んでないんだって。<栄光の大帝国>の総帥と、<ゴート>のダスガンド方面幹部が同じ町に居たんだじゃねえ。情報を得るだけでも時間は掛かるでしょうよ。
適当に町中をブラブラしつつ冷やかし、ウェルディも十分に気晴らしになったようなので宿に戻る。特に悪意や敵意が飛んでくる事も無いから問題ないわね。後はダラダラ時間を潰すだけだから、マグヴェルと遊んでましょうか。
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Side:カルティク
今日は南ガウトレアの第2東町に向かう日だけど、これでようやく終わるわ。実際、ウェルディもマグヴェルも貴族なのよ。一応ウェルディは状況が状況だから我慢してるけど、貴族として爆発されても面倒だから早く届けたかったの。
とはいえ中央町での事があるから、時間が掛かったのは仕方がないわ。流石に広域盗賊団の幹部と、頭のおかしな組織のトップが居るとは思わないもの。その予想は私達にも無かったわ。
第1東町を出た私達は、バイクで一気に走り第2東町へと進む。そこまで時間が掛かる事もなく到着し、私達はウェルディとマグヴェルを護衛しながら歩いて屋敷へ。門番にウェルディが話し、すぐに中から家令が飛び出してきた。
「奥様が何故そのような格好に!? すぐに中でお着替えを!!」
家令はすぐにメイドを呼んでウェルディを案内し、ウェルディは私達を命の恩人だから丁重に扱うようにと伝えて屋敷に入って行く。ミクはその後姿に対して、「服は全て返して」と言っていた。
確かにそれは重要な事で、アレってドラゴン皮のジャケットとズボンに、ガイアの日本で買った下着類なのよ。どう考えても肌触りなんかが違い過ぎて、この星に残していけないのよね。だからミクが返せと言うのは当たり前なのよ。
私達は応接室のような部屋に案内されたので待たせてもらい、その間にミクがメイドにドレスを渡していた。ウェルディが着ていた穴が背中に五つ空いているドレスだけど、その説明をミクがすると何とも言えない顔になったメイド。そんな話をされても困るわよねえ。
そんな風に見ていたら、誰かが入ってきた。精悍な顔をしている青年だけど、この人物がリュートシア伯爵かしら? 精悍な顔ではあるけど、迫力も圧も足りないわね。若いからかしら?。
「そなた達が我が妻と息子を助けてくれたとの事で、真に感謝している。あわや妻が死ぬ寸前であったと聞き驚いたが、何らかの方法で助けてもらったと聞く。その方法が分からねば礼を支払う事もできんので、すまぬが方法の開示を頼む」
「礼は要らない代わりに情報の開示は断らせてもらう。そこのメイドが持っているドレスを見れば分かるだろうけど、背中に五発デリンジャーの弾を受けて穴が空いている。それが証明になるから、どうしても礼を払うと言うならそれだけでいい」
「それでは正しい礼とはならぬし、そなたらの狂言だとも言えるのだがな」
「ならいい。話はここで終わりだ。私達は服を返してもらったら、さっさと帰らせてもらう」
伯爵が睨んできたけど、私達には全く効かないわね。圧も迫力も足りなさ過ぎるのよ。自分の事を客観的に見ていないのかしら? それともその程度で圧力が掛けられると思っているのか。どちらにしてもバカバカしい。
実力を行使してくるなら、格の違いというものを教えてあげないとね。
そうして睨み合っていると、ウェルディが部屋に入ってきた。その瞬間、伯爵は睨みを止めてウェルディに笑顔を向ける。分かりやすい典型的な貴族ね。まあ、妻を愛していない訳ではないみたいだから、そこは評価できるところかしら。
ウェルディの後ろには服を抱えたメイドが立っていて、ミクはさっさと受け取ってアイテムバッグに詰めていく。私やイリュのもあったから受け取って仕舞うと、ミクはウェルディに挨拶を始めた。
「ウェルディ、私達の護衛はこれで終わり。じゃあ、元気でね」
「え、ええ……。あの、お茶は? それに助けて頂いたし、私は掛かったお金も支払ってないのに」
「それはいいよ。それ以上に鬱陶しい事に関わる気もないし、そんなやり取りをする気も無い」
ミクはそう言って部屋のドアを開けて出ていく。その後姿に対して伯爵が「待て」と声を掛けるが、ミクは完全に無視して歩いていく。当然だけど私達も歩いていくし、いちいち話を聞いてやる義理も無い。
「待てと私が言っているだろうが!」
声を荒げながら出てきた伯爵に対して、ミクが立ち止まって一言を返す。
「交渉なぞは一度きりだ。吐いた言葉というのは飲み込む事は出来ない。お前という者がその程度だと分かった以上、話す事など何も無いのだよ。高々ハンター如き、幾らでもいう事をきかせられるとでも思ったか? 下らん」
そう言ってミクは再び歩き始めた。こちらへの報酬を少しでも下げようと思ったのか下らない事を言ってきたけど、結局は頭の悪い貴族で終わる話なのよね。さっさとこの町を出て別の町に行きましょうか。鬱陶しく絡んできそうだし。
そのままさっさと入り口を出た私達は、門へと歩いていく。後ろから来た伯爵や家令が「そいつらを止めろ!」と言ったが、私達は無視してどんどんと歩いていく。貴族だからどうにでもなると思っているのか、随分と甘っちょろいわね。
門番二人がこちらに対して銃を構えて「止まれ」と言ってくるが、私達は無視して進む。そして止まらない私達に向かって発砲。しかし、私達は弾をかわす。そもそも私達には当たらないしね。
そうすると、後ろで「ぐぅ!」という声がした。しかし私達は振り返る事もせずにさっさと門を跳び越える。私達の行く手を阻むなんて不可能なのよ。
門番も伯爵家の誰かを撃ってしまったらしく、銃を完全に下ろしてパニックになっているし今の内ね。
私達は最後まで振り返る事無く、さっさと伯爵家の屋敷を後にした。貴族っていうのは何処に居ても変わらないのかしらね。まったく。




