0972・カジノのオーナー?
Side:ファーダ
本質を出して気を失わせた奴等のうち、下っ端の方は眠らせ、オーナーの方は魅了の香りを注入してから起こす。裏に何か居るのか何も居ないのかは知らないが、とりあえず聞いておく必要がある。
「お前は女性を借金塗れにし、借金奴隷に落としていた。それは間違い無いな」
「間違いない。それがワシのする事であり、<ゴート>の為にやるべき事だからな。伊達にダスガンド方面の幹部をやってなどおらぬ」
「<ゴート>だと? ………その割にはお前は自分の好みの女だから借金塗れにしようとしていたが? そこはどう説明するのだ」
「今日見た女はワシの好みに合致しておっただけよ。その女をついでに落とすのは役得というものだ。ここの侯爵に報告しておる借金奴隷と、ワシが秘密裏に売り捌いておる借金奴隷の二種類があるというだけ」
「成る程。ウェルディを借金奴隷に落とそうとしたのは単なるお前の好みだったというだけで、<ゴート>の事や侯爵は一切関係無かった訳か。唯の欲からだったとはな」
「ほう、あの女はウェルディという名前なのか、なかなか良い名前ではないか。ますますワシの好みを突いてくる女だな」
「何を言っているのか分からんが、アレはお忍びの格好なだけで、本人はウェルディ・リュートシア。つまりリュートシア伯爵夫人だぞ? 何に手を出そうとしたのか理解したか?」
「ふむ、あのリュートシアの小僧か。金を融通してやれば夫人を差し出すかもしれん。あそこは領地の売り上げがあまり宜しくないからのう、ちょうど<荒野の鷹>が村を幾つか潰していた筈だしな。あのジャンキーどもを使って追い込むか」
「ここで<荒野の鷹>まで出てくるのか。しかもジャンキーという事は。<ヴェノム>が売っている薬を使って薬漬けにした訳だな? そしてそんな危険な連中を利用していると」
「あやつらは使うと皆殺しにしてしまうが、適当に放り込むには都合が良いのだ。どのみち食いっぱぐれた連中に薬を使えば済むし、そんな者は幾らでもおる。わざわざ借金を掴ませる意味も無い。後は銃という玩具を与えれば勝手に暴れよる」
「侯爵より遥かに碌でもなかったな。まさかこんなヤツが出てくるとは思わなかったが、これはこれで良い情報源ではあったか。何処に碌でもないヤツが居るか分からん星だ。ここまでの星は流石に初めてだぞ」
<ゴート>のダスガンド方面幹部という事は、<ゴート>の本部は帝国には無いという事だろう。あくまでも多分でしかないが、大きく間違ってはいない筈。結局はこれからも善人化と薬物原料を潰していく事で解決するだろう。
「<ゴート>のダスガンド方面幹部と言っていたが、何故ウェルキスカ王国の<ゴート>と違い、村人を殺戮したりする? 向こうの<ゴート>はそこまでしなかったぞ」
「それは役割の違いだろうて。そもそもワシが使っておる中でも、手当たり次第に殺戮するのは<荒野の鷹>だけだ。奴等はそれ専門にする為に薬物中毒にしておるし、薬の為なら女子供にすら容赦はせん。もちろん貴族に対する攻撃として使っておるのだよ」
「何の為に貴族の領地を攻撃している? お前が<ゴート>の幹部だとして、貴族の領地に攻撃をかける意味が無かろう。それをして帝国がガタついては、カジノの儲けに響くのではないのか?」
「むしろ逆だの。苦しくなるとカジノで一発逆転を狙う愚か者、それが貴族というものよ。そしてそういう者から秘密裏に妻や娘を買っておるのがワシらだ。薬を使えば離れる事など出来んのだから、貴族だろうが何の問題もないわ。それに病気で儚くなるなど、よくある事よ」
「とことんまでに腐ってるな、コイツは。侯爵は貴族に対して手を出すなと命じていた筈じゃなかったのか? にも関わらず、お前は貴族に手を出している。バレたらマズい事になると思うが、そこはどうやっているんだ?」
「あの<栄光の大帝国>とやらのトップか? あんな頭の悪い者など簡単に騙せるわ。そもそもアレは皇帝にとって都合が良いから侯爵という地位にあるに過ぎん。都合が悪くなれば、すぐに地位が落ちる程度だ。本当に役立つ貴族でもないからな」
「つまり集金装置として生かされてるだけか。いや、それと帝国の為に役立つから放置されているだけだな。あまり欲深すぎると帝国の名が落ちる、欲深いだけなら帝国ではなく自分の為に金を稼ぐ。<栄光の大帝国>の総帥なのは都合が良かったのか」
「ついでにその程度の男でしかないという事よ。帝国を古の大帝国にするなど、皇帝でさえ無理な事は分かっておるというのにな。ここの皇帝は野心を持っておるが、かといって愚者ではない。皇帝としては優秀な人物よ」
「そうやって評価している割には、そのお膝元で散々犯罪を行っているな? 見つかった時に困るのではないか?」
「ふふふふふ、困りなどせんわ。ワシは皇帝と取り引きしておるからな。そもそもだが、この町の真の主はワシであり、侯爵などは表の顔に過ぎん。何故ならカジノを支配しているのはワシなのだからな。侯爵の資金の源泉もカジノがあっての事なのだから、当然であろうが」
「成る程な。確かに皇帝は優秀なのかもしれん。ただ、人を増やせば増やすほど無駄なコストが掛かるのだがな。そして人を増やせば増やすほど中抜きも増える。表と裏を用意したのは分かるが、無駄なコストが掛かっているのを分かってないのか……?」
「無駄とは言ってくれる。確かにワシが全てを牛耳れればこれほど楽な事はないが、表向きであろうが貴族にしか領地は与えられん。ならばこの状態でしかワシに預ける事は無理だ。そもそもカジノを始めたのはワシなのだしな」
「お前が始めた商売に帝国が食いついてきた形な訳だな。つまりは侯爵の方が後から来た、いわゆる帝国の見張りのようなものか。ただしお前は皇帝と繋がっているので、何の意味も無い監視役だが」
「そういう事よ。ヤツはカジノの売り上げを熱心に帝国に渡しておるが、そもそもヤツに渡している報告書は適当に書いただけの物よ。あからさまな嘘ばかりではないが、かといって本物の帳簿は別にある。アレはそれで満足する程度でしかない」
「お前にとっても皇帝にとっても、都合の良い傀儡という訳か。元々<栄光の大帝国>などという阿呆みたいな組織だが、輪を掛けた阿呆が総帥とは……。救ってやる気も無いが、救いようが無いな」
「ははははは、奴等が救われるなどあり得まい。何百年と愚かな事を繰り返してきたバカどもだぞ、とっくに妄想に囚われたままに決まっておろう。むしろ妄想から帰ってこれなくなったからこそ、<栄光の大帝国>ごっこが出来るのだ」
「確かに言われてみれば、子供の遊びのようなものか。絶対に叶わぬ夢を追いかけ続ける子供と考えれば分かりやすいが、やっている事は害悪でしかないがな。ウェルキスカでもそうだったが」
「奴等は何処ででも負け犬なのだ。古の大帝国に縋らんと生きていけぬ負け犬であり、だからこそ叶わぬ妄想に囚われるのだからな。今さら分裂した国が一つに纏まるなどあり得ん。各国の王がそれを認めんよ」
「まあ、大帝国が復活するという事は、己の地位が失われるという事だからな。何としても、そんな連中は潰すだろう。上に立つ者ほど己の地位に固執する。それはどんな組織だろうが変わらん」
「はははは、その通りだ。ワシとてカジノのオーナーの椅子は手放す気など無いのだからな。ついでに<ゴート>のダスガンド方面幹部の椅子も手放さんわ」
「そうか。聞く事も聞いたし、もういいな。では、さらばだ」
俺は情報が十分に聞けたので、さっさと善人化して終わらせる事にした。本体空間というか、本体を経由してミクとノノも聞いていただろうが、意外と言ったら悪いが皇帝の実像が出てきたな。厄介なタイプとして。
野心はあるものの有能なタイプだったが、かといって俺達のやる事は変わらない。淡々と善人化をしていくだけだ。




