0093・スキル持ちとの遭遇
朝日が出てきた時間に起床。ミクは準備を整え、終わったら食堂へと移動する。やはり既に食堂は営業しており、ミクは大銅貨1枚で大麦粥を頼む。
椅子に座って待っていると、イリュが眠たそうな顔でやってきた。
「おふぁよ~………で、昨夜はどうだった? 心配はしてないけど、不測の事態が起こる可能性はあるからね」
「問題なく終わったよ。女性探索者が捕まって<奴隷の首輪>を着けられてた。その女性達のうち2階の二人以外は麻痺毒を喰らわせたけど、今はもう治ってると思う。レッドアイスネークの毒だし」
「また適当な事をやったのねえ。おそらく麻痺毒を散布したんだと思うけど、無差別にやるのもどうかと思うわよ?」
「無差別にはやってないよ。地下室があってさ、その地下で女性達も男どもも一緒だったんだよ。流石に男だけどうにかしたら私の存在がバレるから、部屋全体に麻痺毒を噴霧して麻痺させたの。で、壁の方を向かせて見えないようにした」
「そのうえで組織の連中とかを喰った訳ね。となると被害女性には見られていないと。それは良かったけど、第2エリアの探索者かしら、ミクが減らしたにも関わらず奴隷にされるなんて……」
「調達先は複数だね。中には借金で首が回らなくなった女性探索者も居たみたいだし、微妙なところじゃない? そういうのも纏めて置いてきたけどね」
「あら、食べなかったの?」
「わざわざ一人一人調べるのが面倒臭いし、ある程度は食べられたから全部はいいかなと思ってね。ボスの部屋には貴族と繋がっていた女が居たから、女の中にも怪しいのは居ると思う」
「貴族とねえ……よくある事ではあるけど、その貴族はどうしたの?」
「喰ってきたよ? 男爵だったけど、木っ端な奴で兵士に命じてた奴だった。<強欲の腕>のアジトを捜査する際、毎回地下への入り口を調べてたんだって。それで異常無しって事にしてたみたい」
「本当によくあるパターンねえ。昔から変わらない手口よ、兵士を抱きこむのは。その兵士も喰ってきたんでしょ?」
「喰ってきたっていうか、その兵士は<強欲の腕>の地下に居たからね、その時に喰ってる。そいつ一人だけを抱きこんでたみたいで他には居なかったよ。関与する奴は減らした方が秘密はバレにくいからね」
「それはね。で、貴族も喰ってきて終わり?」
「いや? 最後に侯爵家の三女であるリリエの部屋に、また書類とか置いてきた。<強欲の腕>の本拠はドルム地下王国で、そこに本部があるんだってさ。そういう書類」
「それはまた……。あの子も大変ねえ、都合よく利用されて。それでも悪を裁けるんだから悪い気はしないのかも、あの子って正義感が強いし」
「とりあえず<強欲の腕>は壊滅。次は何処か知らないけど、今日の夜だね」
「既に決まってるし、情報もしっかり揃ってるんだけど……昨日の今日は早すぎない? 警戒されてるだろうし、ミクがそれでも問題ないのなら良いんだけど……」
「私は大丈夫だけど、王都守備兵は大丈夫じゃないかも。捜査にも時間が掛かるだろうし、でも公権力が動いてくれないと困るしね。私が喰って解決、それで終わり、では改善しないしさ」
「確かにそうね。となると2、3日は空けましょうか」
「私はそれでいいよ。その間はダンジョンのゴミ掃除とかするから」
既に食事を終えており、話も終わったミクは宿を出てダンジョンへ。今日は第3エリアだなと思い、ショートカット魔法陣に乗る。そういえば朝早かったからかシャルと会わなかったなと思うミク。
そのうち第3エリアで会うかと思いつつ、ミクは1階の森の中を移動して行くのであった。
まだ朝の所為か、探索者も少なく犯罪者も少ないようである。ミクは適当な場所でアイテムバッグやレティーに服や下着を転送すると、ゴブリンの姿になって徘徊を始めた。
奇妙な事にダンジョン内の魔物は、ミクがゴブリンの姿だと襲ってこない。その事を奇妙に思いながら、ミクは色々な場所をウロウロと見回る。
時には探索者に見つかり慌てて逃げたりなど、面白そうにしながらも、犯罪者を探しては殺して喰らう。気配が消えたので警戒したのだろう、目の前にカルティクが現れた。
「ゴブリンが人を殺した筈だけど、死体が無い? ……まさか」
「そのまさかだよ。カルティクは【気配察知】を持つから来たんだろうけど、喰ったのは犯罪者というか、罠を使ってた連中。……後、コレ。夜には完成してんだけどね」
「ああ、ドリュー鉄の短剣ね。確か合口って言うんだっけ? ……うんうん、良い物ねえ。トレント材なのも高ポイントだし。……はい、大銀貨3枚」
「まいどー。っと、見られたら怪しまれるから、私は逃げるよ。ギギーーッ!!」
「………あれだけ見たら、本当にゴブリンよねえ。あそこまでする必要があるんだろうけど、ゴブリン以外には見えないわ……」
ゴブリンだと思ったら肉の怪物だった。そんな事が本当にあるのだから、この世は理不尽だ。
そう思いつつ、合口を剣帯に付けていくカルティクであった。
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ミクは小さな蜘蛛の姿で階段を進みつつ、3階まで移動してきていた。
ゴブリンの姿で犯罪者を喰らっていると、こちらに近付く反応を感知。ミクは素早く死体を処理すると、レッドアイスネークの姿になり、地面を滑るように移動し木の上へと登る。
そこから様子を見ていると、前に見た男が近付いてきて辺りを探り始めた。
「おかしいな。気配が消えたのに何故か死体が無い。魔物の死体でも人の死体でも、まだ残っていないとおかしい筈。にも関わらす跡形も無いなんて不自然だ。いったい何が……」
いちいち面倒臭い奴だなと思いつつも、ミクはその男を監視する。前にも見たが、わざわざ調べているらしいので、もしかしたらギルドの裏調査員かもしれない。
カルティクと同じ立場の奴なら、【気配察知】などを持っていても納得できる。そんな事を考えていると、女性が一人近寄ってきた。
「リオル、いったいどうしたの? 貴方がじっくり調べてるって事は、この辺りが怪しいって事でしょうけど」
「ライセリア、ここで気配が消えたんですぐに近寄ったんだが、何故か死体も何も無いんだよ。前にも一度そんな事があったんだが、その時も結局分からず終いでさ。一瞬で死体が消えるなんて事があるんだろうか?」
「貴方の【気配察知】で分からない事が、私に分かる訳ないでしょ。私が持っているのは【魔力感知】だけよ。それでも、その御蔭でランク11なんだけど」
「十分だろう。そろそろカルティクさんに対抗心を持つのは止めたらどうだ? あの人は<デュアル>だし、俺達のような<シングル>とは違うよ」
「それはそうなんだけど……。裏の界隈で<影刃>と呼ばれ怖れられる人よ? それ以上に成れるかもしれないなら、目指すのは変じゃないでしょう?」
「でも、向こうは何百年を生きる人だから、俺達じゃどうにもならないと思うけどなぁ……」
そんな事を男の方がボヤきつつ去っていく。思った通り【気配察知】持ちかと思うも、女の方も【魔力感知】持ちであった。関わりは薄くしているものの、何かの拍子にバレかねない。
その事は覚えておこうと思いつつ、近付いてきたレッドアイスネークを肉で包んで喰らう。ミクは2人が離れるまでジッと木の上から監視を続け、離れた隙に蜘蛛の姿になり一気に移動していく。
既に2人の生命反応は覚えたので、後は近付いてきたら離れればいいだけである。こういった情報も集められるなら集めておいた方が良いので、バレる可能性を考慮しても第3エリアに来た方が良い。
犯罪者を喰う事を第一としながらも、警戒をするべく気を引き締めて進むミク。今のところはバレていないようであるが、果たして……。




