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0964・マグヴェルの食事と食堂へ




 Side:カルティク



 宿の部屋の中で、ミクがグズグズになるまで野菜や押し麦を煮込んでいる。その様子を目が点になったような顔で見ているウェルディ。マグヴェルは気にしていないようで、何故かノノに手を伸ばしている。届かないぐらい遠くに居るんだけどね。


 気になる物に手を伸ばすのは仕方がないんだろうけど、子どものやる事だから放っておいていいでしょう。それより匂いがしてくるからか、そっちも気になってるみたいで微笑ましい。ある意味で癒される光景だけど、実際の子育ては大変だと聞くわ。


 私達は見ているだけなので微笑ましいで済むけど、ウェルディの顔からは疲労も見える。とはいえそれは、信じていたメイドに裏切られたからかもしれないけど。しかも自分の姉か妹だったかもしれないんだし、その心労は大きいでしょう。


 マグヴェルの為にも立ち直ってくれないと困るけど、今は忘れさせるべきでしょうし話すべきじゃないわ。話したところで嫌な事に思考を割きかねないし、結果として更に悪化するだけでしょうから黙っておくのが一番よ。


 料理が出来上がったみたいで、ミクが魔法を使って冷やしている。それにも驚いているけど、私達が魔法を使えるのは見せているでしょうに。



 「私達は魔法が使えるって言ったし、全員分見せたでしょう? まだ驚く事があるの?」


 「いえ、料理に魔法を使うなんて事は見た事がありませんし、聞いた事もありません。基本的に魔法は身を守ったり、敵を倒す為のものですから……まさかそれを使って料理をするなんて」


 「そうやって生活の中で魔法を使わないから衰えていくんだと思うわよ。その結果どんどん魔法が衰退した。銃が当たり前になったのが決定的なんじゃない? わざわざ魔法を使う努力をしなくても、銃を撃てば済むようになったし」


 「銃が誕生してどれぐらい経ったのかは知らないけど、確かに銃の誕生がキッカケになった部分はあるのかもね。元々の銃の原型ってどんな物か知ってる? 私は知らないんだけどさ」


 「銃の原初は火砲と呼ばれる物だったと聞いています。何でも大きな筒を用意して、その中に火薬を入れて槍を飛ばす武器だったそうですよ。こういう歴史は家庭教師から習うので知っています」


 「槍を飛ばす武器ねえ。細身の槍だったんだろうとは思うけど、随分と無駄に火薬とかを使う武器だったみたいじゃない。今の銃から考えるとビックリするけど、当時は槍とかじゃないと勝てないとか思い込んだのかしら」



 ミクがマグヴェルを受け取り、人肌まで冷ました野菜などをスプーンで口に運んで食べさせている。マグヴェルは嫌がりもせずにモグモグしてるけど、お腹が空いていたのか割と集中して食べてるっぽいわね。


 その様子を見ながらウェルディが安堵してるわ。もしかして好き嫌いがあるのかしら? でも流石に一歳にもなっていない子供に好き嫌いは早いわよねえ。となると別の事?。



 「好き嫌いはあるんです。あまり好みでない野菜だと食べてくれない事もありますから。口元にスプーンを持って行くのですが、頑なに口を開けてくれない事もあります。そうなると大変で……」


 「気にする事もなくモグモグしてるから、まったく問題ないみたいだけど、私達が見てるからかしら? 案外と環境が変わったから受け入れてたりしてね。今は我儘をしちゃいけないって感じで」


 「どうなのかしらね? 単にお腹が減ってただけじゃない? 結構ガッついてるって言うか、焦点の合ってないような目で一心不乱に食べてる感じがするわ。それとも押し麦が気に入った?」


 「気に入ったかは別にして、新しい味だからじゃない? 美味しいかどうかは別にして気になるんでしょうね。焦点が合ってない目なのも、新しい味に集中してるからだと思うわよ」


 「って事はマグヴェルにとっては嫌いな味じゃないみたいね。大麦は体に良いし、食べられるなら良い事よ。もともと作る際に蒸してあるから、一度火が通ってる食べ物でもあるし」


 「それよりもマグヴェルの食事が終われば、わたし達も食事に行きましょうか。お腹が空いたし、そろそろ食事にしたいからさ。あんまり遅れたら混むし、そうすると面倒なのが目をつけてくるかもしれないしね」


 「そうね。南ガウトレアはあんまり治安が良い訳でもないし、早めに行動しておくに越した事は無いわ。その結果混んでるっていう面白い状況かもしれないけど」


 「皆が皆、同じ事を考えて早く動く可能性もあるものねえ。確かにその所為で早くから混む可能性もあるわ。まあ、その時はその時として諦めるしかないんじゃない? 気にし過ぎても仕方がないでしょ」


 「そうそう。……って、それなりに煮込んでたけど、大半をマグヴェルが食べてしまったようね。やっぱりお腹が空いてたんじゃない? まあ、食事が終わったんだし、そろそろ私達も食事に行きましょうか」



 マグヴェルは十分に食べたからか、これ以上は要らないと口を開けなくなった。残った分はノノが食べて終了となったけど、アレはミクが食べたのと変わらないのよね。言わなければ誰も気にしないけど。


 ミクは食事で使った物を【清潔】で綺麗にした後、マグヴェルに【聖清】を使ってから部屋全体に【浄滅】を使った。相変わらず儀式魔法をポンポン使うのよねえ。呆れてくるけど。



 「先程の魔法はいったい……」


 「最初に使ったのは【清潔】で、使った食器や鍋を綺麗にする為ね。次にマグヴェルに使ったのが【聖清】で、体の中を綺麗に出来る魔法。病気にも効くわ。そして最後に部屋に使ったのが【浄滅】と言って、かつては【浄化魔法】の最高峰であった儀式魔法よ」


 「儀式魔法……ですか?」


 「儀式魔法というのは、最高峰の魔法使い20人ほどが力を合わせないと行使できない魔法の事よ。かなりの魔力を消費する為に、個人で使うのは不可能と言われた魔法ね。ミクは規格外だから気にしなくてもいいわ」


 「そうそう。儀式魔法を一日に何度もポンポン使うような規格外だから、考えても無駄なのよ。本当に考えても無駄で、一般人の感覚とかでは計れないからね。考える意味も無いの。そういうものとして受け入れたらいいわ」


 「それより早く食事に行きましょうよ。ここで喋っててお腹が空くだけよ」



 アレッサが強く言うので私達は宿を出て食堂に向かう。この町では情報収集をしていないけれど、大通りに食堂があったのは見ていたのでそこへ行く。貴族が行くような店じゃないかもしれないけど、むしろこういう店の方が安全でしょうね。



 「あからさまに分かるような姿を見せていると狙われるもの、こういう庶民の店の方が狙われないでしょう。多分としか言えないけど、少なくとも今は護衛も居ないしね。危険は避けるべきよ」


 「そうね。それに、まだそこまで客も多くないからチャンスよ。今の内に食事をして、さっさと宿に戻りましょう」



 早めに食事を終わらせた方が良いのは確実なので、私達はなるべく普通のメニューを選び、お酒なども頼まないでオーダーを終える。後は待つだけなんだけど、それなりに時間が掛かるのは仕方がないと諦めるしかないか。


 皆と適当に雑談をしながらも周囲を警戒し、闇影でこちらを見ている者が居ないか探っていく。おそらくミクもイリュも監視をしているでしょうけど、私も周囲を監視しておく。二重三重に警戒する事は悪い事じゃない。


 そうやって警戒している間に食事が運ばれてきたので、私達は食事をしつつも警戒は切らさない。子供連れなどは狙われやすいから、これぐらいはしておかないとね。


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