0962・盗賊になった者の末路
Side:ミク
怒り狂ったメイドが私に掴み掛かって来ようとしたけど、私が蹴飛ばしたら地面の石で後頭部を打ったからか悶えている。そんなメイドは放っておき、私は赤ん坊を女性に渡す。子供を受け取った女性は優しく抱いたものの、メイドに対して何とも言えない顔を向けている。
「そんな顔で見る必要は無いわよ。犯罪は犯罪であり、それは許されるべき事では無いわ。昔、貴女の父親に捨てられたからと言って、貴女に対して犯罪をやってもいいという事にはならない。所詮はその程度よ」
「本当にね。許せないなら本人にやればいいのに、それは出来ないから代わりに貴女と子供をよ。空しくならないのかしら、この愚か者は。イリュが言った通り、結局その程度だと自分で証明してるじゃない」
「無様ねえ。やるんだったら、最も憎む相手に命を投げ出してやり返しなさいよ。それが出来ないからって、出来そうな弱い相手に難癖つけてやってるだけ。本当に無様で憐れな存在ね、あんた」
「ふざ、ふざけるなぁぁぁ!! 殺してやる、お前ら絶対に殺してやるぅぅぅぅぅ!!!!」
叫ぶメイドに対して私は近寄り、しゃがんで顔を寄せる。そして一言聞いてやった。
「どうやって?」
「え?」
「どうやって私を殺すの? お前は裸に剥かれて武器も無い。両足のアキレス腱は切られて立ち上がれない。そして私達は貴族と違い、ゴミは処分する。お前がどういう関わりだったか知らないが、グロッグを生きながらに焼き殺したのは私だぞ」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
私に噛みつこうとしてきたけど、当然そんな攻撃に当たる私じゃない。それにしてもここまで思い入れがあるという事は、こいつはグロッグの女だったのかな? どっちにしても碌なものじゃないけど。
「貴女グロッグの女だったの? どのみちあの男は父親に復讐しようとして失敗、その父親の目の前でミクが焼き殺したわ。本当の復讐相手は父親じゃなくて、父親の後妻に納まった女だったのにね。間違った相手に復讐しようとしたんだから、殺されても仕方ないでしょうに」
「はっ? ………嘘を言うな! あの人は必ず父親に復讐してやるって! それが成功したら私の復讐にも協力すると言ったのよ!!」
「どうやら捨てた父親本人を狙う気はあったみたいね。とはいえグロッグという男は来ないけど。だってミクに殺されたし、間違った復讐相手だった父親は後妻に殺されたわ。関係が無く騙されていた父親まで悪女に殺されたのよ」
「………」
「グロッグの復讐は完全に間違っていて、見当違いの下らない事でしかなかった。そのうえグロッグの死をキッカケに真相を暴いた父親のノルトスは、悪女と断じた後妻に射殺されたのよ。グロッグのやろうとした事には何の価値も意味もなかったってわけ」
「そんな。そんなバカな事がある訳がない! あの人は私の下に戻ってくると言った! お前達の嘘などには決して騙されない!!」
「まあ、どっちでもいいけどね。その悪女も悪事がバレた後、孫に射殺されて死んだからさ。自業自得、因果応報。悪事は自分に返ってくる。もちろん全てはそうじゃないけど、グロッグの死に関してはこんなものだね」
「絶対に認めない! 絶対に!! あの人は私の下に来るって言った。言ったんだから必ず来る。嘘吐きの貴族どもとは違う。あの人と私は苦しんだんだから、これからは……」
「完全に狂ったわね。何処かでグロッグが死んだ事を認めてるんでしょうけど、必死になってその事実から目を背けようとしてる。これじゃもう駄目ね。……で、貴女は何か聞きたい事がある?」
「………いえ、ありません。おそらくリリベルが父に捨てられたというのは事実でしょう。母が父の女癖の悪さに頭を痛めていたのは知っています。私も見ないフリをしていましたが……」
「成る程ね。私も聞きたい事は無いから、そろそろ始末するよ。あの馬車って使うの?」
「い、いえ。あの馬車にはもう乗りたくありません」
「そう。だったら皆、死体をあそこに放り込むよ。アレッサは素早く血を吸収。死体を燃やしやすくして」
「「「了解」」」
すぐに動いた私達はアレッサが血を吸収し終わるまで待ち、それが終わったら死体を全て馬車の中に突っ込んで行く。馬車の中の血も吸い取ったら、最後にブツブツと口走っているメイドを放り込んで魔法を放つ。
使った魔法は【赤熱波】。イリュに教えてもらった、鉄が赤熱するほどの熱を浴びせる上級魔法。それを受けた馬車は一気に火が着き、凄まじい速さで燃え広がる。
途端にメイドの絶叫が響きガタガタと音が鳴るが、馬車の入り口から魔法を放っている為、メイドが外に出てくる事は出来ない。その熱風だけで肺が焼かれて死ぬからだ。離れている仲間達でさえ更に離れたぐらいだしね。
絶叫と暴れる音はすぐに聞こえなくなり、あのメイドが死んだ事は分かった。後は放っておいても焼けて終わるだろうけど、私は白い炎である【聖炎】を使って改めて焼く。瘴気が増えても困るしね。
馬車ごと焼き尽くされた後は、【聖界】の魔法で清めて終了。その頃には色々と納得したのか多少は貴族女性の顔色がマシになっていた。私は改めて近付くと自己紹介を始める。
「改めて私はミク。貴女は?」
「私はウェルディ・リュートシア。この子はマグヴェル・リュートシアよ。私達はお父様の居るフィルデシア侯爵家の領地に戻っていて、これからリュートシア家の領都である第2東町に戻るつもりだったの」
「この先が第1西町だから、随分と距離があるわね。もしかして帝都のあるアッテールク地方から来たの?」
「ええ。知らないかもしれないけど、アッテールク地方自体、西ガウトレアの第3南町か南ガウトレアの第1南西町からしか行けないの。私達は第1南西町から帰るつもりだったんだけど……」
「今回の事件というか襲撃に巻き込まれたと。正直に言って、わたし達が通り掛からないと死んでたわよ? 子供を撃ってないって事は、子供を人質にとるつもりだったのかしら?」
「逃げ出せない事を考えると、子供の方が楽だと思ったのかもしれないわね。それよりウェルディと呼ばせてもらうけど、貴女これからどうする? 私達は適当に旅をしているだけだから送ってもいいけど、お金はもらうわよ?」
「申し訳ありませんが、お願いします。私一人では盗賊に襲われて売られるか、よからぬ者に襲われて慰みものにされるぐらいでしょう。南ガウトレアは治安が悪いので……」
「そういえばよく聞くけど、何で南ガウトレアって治安が悪いの? ……ああ、後の処理にもうちょっと掛かるみたいだから、移動はそれが終わってからね」
燃えた馬車が重さで潰れて「ガタガタ!ガシャン!」と音が鳴ったので、ウェルディはビックリしたみたいだね。
「え、ええ。南ガウトレアの治安が悪いのは、中央町の侯爵家が大々的にカジノを経営しているからです。そこに群がり借金だらけになる者や、その借金を返す為に犯罪をやる者が後を立たず……」
「あー……そりゃ駄目だわ。そのうえ、これから通るのがその中央町じゃない。間違いなく何かの揉め事に巻き込まれるでしょうよ。それでも迂回とかすると時間が掛かるし、一度は行ってみるしかないかしらね」
「だねえ。カジノでちょっと遊んでもいいけど、そんな暇は無いかな? まあ、多少の暇があれば遊ぶくらいでいいんじゃない? っと、そろそろ終わるみたいね。それじゃ、バイク出して行きましょうか」
「それより、そのドレスは駄目でしょ。ミクや私達の着替えというか、予備を寄せ集めて着替えさせましょう。それじゃバイクの車輪にドレスの裾が巻き込まれるわ」
「確かにね。着替えて貰うしかないかな。貴族女性がズボンだと云々と思うかもしれないけど、今は緊急避難的に着替えてもらうよ。そもそもそのドレスだって、撃たれた背中部分に穴が空いてるし」
「えっ!? 穴が!?」
「びぇぇぇぇん!!」
ウェルディが大きな声をだした拍子に、子供が起きちゃったみたいだね。お腹が空いたかな?。
エピソード4の人物紹介を更新しました




