0960・南ガウトレア西部にて
Side:アレッサ
西ガウトレアの中央町を出てから20日ほどが過ぎた。やっと西ガウトレアを終わらせたわたし達は、南ガウトレアに昨日入った。西ガウトレアの第3東町から、南ガウトレアの第2西町へと来ている。
ここ南ガウトレアは治安が悪い事で有名な場所だ。王国ではチラリと聞く程度だったけど、帝国に入ってからは頻繁に聞く。それだけ治安が悪いんだとは思うけど、ならどうして改善しないのかとも思うのよねえ。裏に誰か居るんじゃないの? と勘繰りたくなる。
そんな事を考えつつも、わたし達は第2西町の宿をとって今はゆっくりと休んでいる。ミクに聞いても悪意の視線は無いって言うし、わたし自身もそういう視線を感じていない。となるとそこまで治安が悪い訳でもない?。
「分からないわよ。まだ西ガウトレアに近いからマシなのかもしれないわ。これから南に下って行くと、どんどん治安が悪化していく可能性があるもの。用心するに越した事はないわね。それと盗賊もよ」
「まあ、治安が悪いって事は盗賊が多いって事だものねえ。<スコーピオン>はともかく、<ヴェノム>か<ゴート>に関する足掛かりでも得られれば良いんだけど、どうかしらね?」
「治安が悪いって事は<ヴェノム>より<ゴート>って感じ? 仮に<ゴート>だとしたら、<ヴェノム>の本拠って王国かしら? それとも別の国?」
「分からない。でも、あのグロッグがウェルキスカ〝方面〟幹部だった事を考えると、<ヴェノム>の本拠地はウェルキスカ王国じゃないんじゃないかな? アロトム王国かメルシーヌ王国かも」
「仮にそうだとしても、広域盗賊団3つの内の2つもあるのが帝国って事になりかねないわね。まあ、野心家の皇帝が居るような国だし、イメージ的には間違っていない気はするわ。今までの皇帝だって何度も攻めている訳だし」
「そういえばそうね。今の皇帝は野心家と言われているけども、今までの皇帝だってウェルキスカ王国を陥とそうと攻めているのよ。野心と言うより、帝国の変わらない方針という感じかしら」
「なんじゃない? 帝国からすれば、周辺国の中で一番狙いやすいというか倒しやすいんでしょ。そもそも帝国が狙えるのは東の国であるショーネス連合か、ウェルキスカ王国しかないのよ」
「ショーネス連合って国は商売が得意らしいし、それで十分な戦力を確保してるらしいからね。帝国にとっては厳しい相手なんでしょう。特に銃を戦争に使う場合、お金が多く掛かるから」
「そうね。でも商売が得意な国って抜け目ない感じだから、帝国に善人が増えた場合、侵略してくる可能性が否定できないのよねえ。得か損かを判断したら、そう易々と侵略したりはしないでしょうけど……」
「逆に言えば、得になると思ったら間違いなく戦争に踏み切るでしょうね。土地を得るという事に関しては得だけど、その後の統治を考えているのかは分からないわ。善人にした後なら統治はしやすいでしょうけどねえ」
「でも普通の奴等も居るし、善人であろうとも国土が奪われて納得するヤツなんて居ないと思うけど? むしろ善人の方が取り戻せと五月蝿い可能性は否定できないじゃない?」
「うーん……確かにその可能性もありそう。とはいえ何を言っていても始まらないわ。ミクだって神命は必ず熟さなきゃいけないんだし、なるようになるわよ。最悪は帝国を守る為に戦争に参加するしかないわね」
「野心家の皇帝の為に戦わざるを得ないか。皇帝と国民は違うものね。その時には善人が多くなってるから、悪人の為に戦う訳じゃないしさ」
ある程度の情報というか、今後の方針の擦り合わせは終わったわね。とはいえ、これもあんまり意味は無いんだけどさ。何故なら実際に予想通りに推移する事なんて滅多に無いし、結局はその場その場で強引に解決に持って行くしかない。
そもそも人間がする事なんだから、予想通りに行く事の方が珍しい。戦闘のような局地的な事ならあるかもしれないけど、全体的な流れの予想はまず当たらないわね。それでも心構えは出来るんで、無駄ではないんだけどさ。
そろそろ夕食だから、食堂に行きましょうか。この町はまだそこまで問題は無いみたいだし。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:カルティク
南ガウトレアに入って次の日。今日は南ガウトレアを東に進んでいる。今日着くのは第1西町になる筈なんだけど、何だか揉め事に巻き込まれそうな気がするわ。とはいえ助けるという一択しかないんだけど。
バン!バン!バン!バン!バン!バン! リボルバーを撃つ音が大量にしており、そんな中で馬車の周りの護衛が次々に撃ち殺されていく。馬車を牽いていた馬は倒れており、既に死亡しているのが分かる。
私がミクの顔を見ると、ミクはすぐに頷いてバイクを降り、アイテムバッグに収納して盾を取り出した。おそらく構えて突っ込む気だろう。私達もすぐにバイクを仕舞い、アイテムポーチからリボルバーを取り出す。
皆で頷き合い、私達はミクを先頭にして突撃を始める。おそらく馬車の中の要人を誘拐か拉致しようとしているのだろうが、目の前でそんな事をさせる筈が無い。
まるで黒い三人組のジェット何とかみたいに突っ込んで行く私達。四人だけど、そこは気にしなくてもいいわね。
ミクが馬車の近くまで行くと、敵も分かったのかミクに対して集中的に撃ってくる。しかしそれが貫通する事は無い。
バン!バン!バン!バン!バン!バン! という音が鳴るものの、私達が銃弾を受ける事は無い。全て「キン!キン!」という音と共に弾かれている。ドラゴン素材を貫く事が出来る銃なんて見た事が無いし、無駄弾をご苦労様って感じ。
盗賊どもの前に出たミクは、タワーシールドを構えて立ち止まり応戦。私達も横から飛び出して走りながら敵を撃つ。盗賊は全部で30人ほど居たけれど、私達にとっては敵じゃない。
一人一人の頭を丁寧にブチ抜いていき、3分も掛からずに戦闘が終了した。リボルバーの装填数は8発で、敵は30人。一人1発で仕留めたなら2発余る計算なのよ。ちなみに私は全弾撃ち切っている。おそらくアレッサとイリュじゃないかしら、弾を残しているのは。
全て終わったので馬車の中に声を掛ける。すると、中から銃を構えたメイドが現れた。ガタガタ震えながらデリンジャーを構えているところを見るに、撃った事は無いのだろう。そのメイドにミクが声を掛ける。
「私達は襲われていた貴女達を助けただけ。これ以上助けが要らないなら、このまま離れるから好きに選ぶといい。私達は盗賊どもの持ち物を物色するから、それが終わるまでには決めるようにね。何も言わないなら、このまま放っていくから」
ミクがそう言ったので、私達は何も言わず盗賊どもの懐を探る事にした。特にリボルバーの弾を確保しておかなきゃいけないから、出来るだけ手に入れておきたいのよね。こいつらがどれだけ持ってるかは知らないけど。
そんな事を考えていたら、突然泣き出したメイドがミクに縋ってきた。もしかして馬車の中に誰か居る? ミクの言い方も妙だったし、まだ生きている人が居るのかしら。
「お願いします! 奥様を助けて下さい!! お願いします!! 撃たれて血塗れなんです!!」
「分かった。けど、何でそれを早く言わないの」
「だって! 助けだなんて思わず!! 私が何とか御嬢様を、お守りしなければと!!」
何が言いたいのかイマイチ分からないけど、何となくで言いたい事は分かる。ミクはすぐに馬車の中へと入って行ったけど、その奥様というのは大丈夫かしら? 馬車なんて木製だし、銃弾は防げないわよね?。




