0959・帰路と次の日
Side:イリュディナ
上の階から人が来たけど、どうやら唯のハンターらしい。盗賊どもの下っ端ならブチ殺そうかと思ったんだけど、関係ないから無視して戻る。まだ少し気が立ってるのかもしれないけど、ダンジョン内だから気が立っていても変じゃない。
そういう言い訳は出来るので、そのままさっさと2階へと上がる。既にファーダがダンジョンマスターを善人に変えたとは聞いたけど、本当に碌な事をしないヤツは何処にでも居るわね。そもそもダンジョンマスターが悪人とか、神様達もしっかりしてほしいわ。
ミクだって善人に変えられるんだから、それこそ洗脳なり何なりしてしまえばいいのに。自分が駄目なら他の神様に頼めば済むと思うんだけどね? そういうのはプライドが許さないのかしら?。
それとも神様が下界のヤツを洗脳とかしちゃ駄目? なんだとしたら手が出せないのも分からなくはないんだけど……その辺りの事は私達には分からない事だから、諦めるしかないのかな。
……やっと地上に戻ってこれたわね。暇だからダンジョンに行こうとなったらコレよ。色んな意味で運が無かったわ、本当に。どうしてこうもピンポイントで悪人のダンジョンマスターのダンジョンに入ったのかしらね?。
「それもあるけど、わたしが言った一言に粘着するとか思わないじゃない? 大型のモンスターしか出て来ないのに、自分は凄いと考えてるなんて普通は思わないでしょ。今までに同じような事を言ったヤツだって居た筈よ?」
「同じような事を言ったヤツも殺してきたんじゃない? だってそういう性格のヤツでしょ。だったら私達が初めてなんて、とても思えないわ。絶対に今までにも似た理由で人殺しをしてきてる筈よ」
「でしょうね。そもそも女ハンターを捕まえて売り飛ばすようヤツよ、まともなヤツの筈が無い。だったらどんな事をしてきていても不思議じゃないわ。碌でもない事は一通り網羅してるんじゃないかしらね」
「私の方を見ても、どんなヤツだったかは分かってないよ? ファーダはダンジョンマスターの部屋に入った瞬間、有無を言わせず善人化したからね。いちいち話をする意味も無いし、言い訳を聞く意味も無い」
「それはそうね。そんな事をしても相手に反撃のチャンスを与えるだけよ。潰すべき敵は最速で潰す。当たり前だけど、それが基本。漫画とかラノベみたいに、敵を前にダラダラ会話をするなんてあり得ないもの、現実は」
「あれはそういう風に描かれているストーリーだからね。盛り上げる為には必要なんだけど、現実としてはあり得ないわ。<窮鼠、猫を噛む>という言葉もあるんだし、そんなダラダラ会話するなんて無駄な事をする訳が無い。まあ、創作物に言っても仕方ないんだけど」
「さっさと戻って中央町でゆっくりしましょうか。それにしても女性ハンターが娼館に売られてたなんてね、ミクは知ってた?」
「一気に善人化している影響か、一つ一つ調べなくなったから知らない。そういう部分はどうしても抜けてくる。一気に善人化して次、一気に善人化して次。そういう風に行ってるから、個々の者なんて気にしなくなってるし」
「それはね、仕方がないとは思う。ミクだって個別の者を助けてやる義理なんて無いし、そもそも助けろとも言われてないもの。ミクが命じられたのは悪人を喰らい尽くせという事、それだけよ」
「今は善人化で済ませてるけど、元々は食い荒らせ、なのよねえ。抹殺しろって事だから、誰かを救えなんて一言も命じられてない。ある意味で助けになってるなら、それはミクの善意でしかないのよ」
「誰かの善意に甘ったれる事自体が間違いだものねえ。助けが受けられないヤツは何処か違うって事なのよ。ミクが気に入らないヤツだった場合もあれば、単に虫の居所が悪くて無視されたとか。とはいえそれに文句を言う権利は誰にも無いのよね」
「そもそも日頃の行いが善ければ誰かが助けてくれるでしょう。誰も助けてくれないって事は、そういう事よ」
そんな話をしつつ中央町に帰ってきた私達は、さっさと食堂に行って早めの夕食を食べる。宿に戻って再び食堂に出てくるのも二度手間だし、お腹が空いたらミクに何かを貰えば済む。だから少々早くても問題は無い。
私達は適当に飲み食いし、さっさと宿へと戻る。今日に関してはミクにお酒を貰おうかしら。そんな事を思いつつ歩いて戻り、眠るまでの時間をゆっくり過ごした。
…
……
………
次の日。さっさと起きた私は、朝からアイスクリームを食べている。アレッサとカルはまだ寝ているし、ミクは起きたままだけど、それは普段通りでしかない。たまには朝からアイスを食べたとて罰は当たらないわ。
私が半分ほど食べた辺りで起きてきた二人は、アイスを食べている私を見て微妙な顔をしてるわね。何か言いたい事があるのかしら。
「朝っぱらから、よくもまあアイスなんて食べる元気があるわねえ。1000歳超えのお婆ちゃんの癖に凄い体力」
「しつれいね! 何歳だろうが食べたい物は食べたいのよ。そもそも朝から何を食べようが私の自由でしょうが。朝食には影響なんてしないし、好きにさせなさいよ」
「別にイリュの好きにすればいいんだけど、アレッサと同じで、よくそんな体力があるなと思うわ。流石に起きて30分は何かを食べる気分にはならないわよ。良い事なのかどうかは知らないけど」
「飲み物は別に問題ないけど、何かを食べるのはねえ……。ちょっと無理。流石にそんな気分にはならない。食べなきゃいけない時には無理矢理食べるけど、それ以外では口にする気は無いわね」
私が食べ終わった後のカップとスプーンをミクに返しても、まだ微妙な顔で見てくるわ。本当に失礼ね、まったく。
その後は適当に雑談をし、宿を出て食堂に向かう。朝食を食べた私達は、一路東へと進む事にした。西ガウトレアの東側が終われば、後は南側だけになる。それが終わったら次は南ガウトレアね。
私達にはそこまで難しい事ではないし、さっさと終わらせて行きましょう。一応調べる事にしているみたいだけど、一気に善人化が出来るようになった反動で、ミクは調べるのが雑になっているみたい。
情報の歯抜けが起きる可能性があるけど、ミクですら面倒だという事をやれとは言えないしね。それに悪人どもが善人になれば自然と解決していくんだから、無理に情報収集を頑張る必要も無いのよ。
この惑星が綺麗になればいいだけで、個々の事情まで解決するとかあり得ないし、何よりそれは私達がする事でもない。この星に生きる人達が何とかするべき事と、ミクがやる事は別なのよ。本来はこの星の者が何とかする事が殆どでしかない。
ミクはあくまでも悪人を食い荒らすか、善人にして悪行は出来ないようにする。それだけなのよね。だから事件が迷宮入りしようが自然に解決しようが、心の底からどうでもいい。それが本音。
中央町から離れたらバイクに乗り、私達は移動して行く。人や馬車にぶつかったりしないように気をつけながらバイクを飛ばしていると、良い風を感じられる。色々な事がどうでもよくなる心地良さね。
次に行く場所ではマシな事があるといいけど、と思ってもこの星が星だものねえ。おそらくはまた碌でもない事が起こるんでしょう。そんな予感はしているっていうか、そもそも治安が良くないから当然だけど。
それに噂は聞いてるのよね、帝国の南ガウトレアは一段と治安が悪いって。どうも掃き溜めみたいな連中が集まっている町とかがあるらしいの。一悶着か二悶着ぐらいはありそうよねえ。
今から想像しても仕方がないし、対処法を考えても意味が無いのよ。何をしてもミクが潰す事に変わりはない以上、その場のアドリブで何とかするしかない。
まあ、何とかなるでしょ、何とか。




