0092・強欲の腕の壊滅
ミクはイリュから聞いたアジトの場所へと行き、中を探る。既に関わりは最小限にしており、ミクを認識するのは非常に難しい。
不可能とまでは言えないが、目か耳で認識するしかないのである。小さな蜘蛛を。それは人間種にとって極めて困難な事であろう。
気配や魔力を最低限まで減らしており、更に今のミクは真っ黒な姿をしている。これはミクの髪と同じであり、光を吸収するような漆黒の色をしている為、夜には視認する事も難しい。
そんな姿のまま外から生命反応を調べているミク。中に複数の生命反応を感知しているが、地下にも反応がある為、アジトの中への侵入経路を考える。地下を最後にする為、上から始める事にしたようだ。
まずは2階の窓から侵入し、中に居る2人を肉で覆い転送。一瞬の早業であった為、音も出ていない。特に2人は同じベッドの上に居たので簡単であった。ちなみに両方男である。
その後、部屋のドアから外に出るか、それとも他の部屋の窓から侵入するか迷ったミクは、他の部屋への侵入を決める。ドアを開けると見つかるかもしれないので、なるべく数を減らしてから開けるべきだと考えた。
他の部屋も回っていき、それぞれの部屋に居た者を肉で覆っては転送していく。本体空間でレティーに脳と血を食わせ、本体はその後の肉を貪りつつ情報を聞くも、下っ端では大した情報は無かった。
それでも2階の部屋に居る多くの者は喰ったので、適当な部屋に窓から入った後、部屋のドアを開けて廊下に出る。左右を確認した後、ミクは2階に残っている生命反応の部屋の前へ。
(さて、この部屋の奴等を喰うんだけど、困ったな。こいつらの部屋は窓が無いうえに閉まったままなんだよ。流石にドアを開けるとバレるだろうし、どうしたものか……)
ミクがそう思っていると、誰かが2階に上がってきた。慌てて廊下の端に隠れると、手にお盆を持った男は、丁度ミクが入りたかった部屋へと入る。
「今日の客は終わってるからって、気ぃ抜いんじゃねえぞ!! 地下に呼ばれるかもしれねえんだからな!!」
その後に「ドカッ」「ドゴッ」と音が聞こえてきたが、中に居る女性2人を殴っているらしい。殴って満足したのか、男はニヤニヤしながら部屋から出てドアを閉める。そして1階へと戻ろうとした瞬間、ミクの触手が突き刺さった。
首筋に刺さった触手から素早くレッドアイスネークの毒を注入し、男を麻痺させると肉で覆って転送。レティーに脳を食わせて情報を得るのだった。
その結果、中に居たのは捕らえられた探索者の女性2人だと判明。<奴隷の首輪>を着けられ、無理矢理に体を売らされていたようだ。ミクは女性達2人は放っておく事にし、2階の全てが終わったので窓から外に出る。
今度は1階の窓から侵入していくが、再び同じように食い荒らしていく。窓から入れる部屋を全て回るが、1階の部屋には全て窓があったので、中へと入って喰らうのは容易かった。
1階には捕まっている女性達はおらず、残りの被害女性は地下に居る。その事は脳からの情報でレティーが語っており、更には地下にボスの部屋がある事も、地下への行き方も既に知っていた。
2階の女性2人を放置したのは、その方が安全だからであり、別に無視した訳ではないのだ。助けても面倒なだけなので放置した訳ではない。そう、決して面倒臭いという理由ではないのである。
ミクは1階の部屋にあるクローゼットを開け、中にある階段から地下へと下りる。閉めているとクローゼットにしか見えないうえに、下に板を敷いて服を掛けておくと、階段が見えないよう工夫されていた。
知っているミクからすればバカバカしいが、このクローゼットで何度も捜査の手を逃れてきたそうだ。こんな程度でも見つからないらしい。兵士に金を掴ませている事も見つからない理由の一つであろうが。
(当然ではあるんだけど、ゴールダームの兵士も腐ってるね。治安維持の為の王都守備兵だと、そんなものなのかな? それとも裏で動いてる奴が居る? 今のところは情報が無いけど……)
ミクが地下へと下りると、幾つかの部屋がある廊下に出た。真っ直ぐの廊下に、左右には4つずつの部屋があり、そして複数の女性の声が漏れ聞こえてくる。どうやらドアの下に隙間があるらしい。
その所為で聞こえてくるのだが、逆に言えば流し込みやすいという事でもある。ミクはまず真っ直ぐ進んだ先にあるボスの部屋の前へと行き、中に霧状にしたレッドアイスネークの毒を噴霧していく。
時間は多少掛かったが、中に居た4人が麻痺。ミクは素早く侵入し、中に居たボスを喰おうと思ったのだが、女性3人が邪魔だった。
仕方なく見えないように触手で体を動かし、3人を壁の方に向かせ、ボスを肉で覆って転送。レティーに脳を食べさせて情報を得る。
どうやらここに居る女性の一人はボスの愛人らしいので喰らい、そいつの脳もレティーに食べさせた。すると、こいつが貴族との橋渡しをしていた事が判明。もちろんゴールダームの貴族だ。
ミクはボスの部屋にある書類やその他を押収。女性2人を無視して部屋を出た。呼吸は出来ているので死にはしない。
その後は同じように麻痺毒を噴霧していき、喰らって良さそうな奴を喰っていく。漏れはあるかもしれないが、男は全て喰ったので大丈夫だろう。ミクはそう思い、<強欲の腕>のアジトを後にした。
今度は貴族街へと行き、<強欲の腕>と関わりがあった男爵家の家族を全員喰らって脱出。その後は王都守備兵の宿舎へ。
使い勝手の良いリリエの部屋へと行き、再び書類を全て置いたら退散。宿へと戻る。
宿の部屋へと戻ってきたミクは、ようやくいつもの美女の姿に戻り、下着を着けたらベッドに寝転ぶ。アイテムバッグやレティーもこちらに転送して一息吐くと、レティーと会話を始めた。
『それにしても無駄に時間が掛かったね。なるべくバレないようにするのを心掛けて喰ってきたけど、もうちょっと早く処理する方法は無いものかな?』
『さて、それは難しいのではありませんか? バレない事は重要です。もしバレたら騒ぎになりますし、そうなると目撃者が出る可能性がありますよ? 流石にそれはマズいのではないでしょうか』
『そうだね。流石に目撃されるのはマズい。たとえ蜘蛛の姿であっても、次からは蜘蛛に警戒される。それならそれで蛇の姿とか色々あるけど、それでも見つかって良い訳じゃないしねえ』
『あの<強欲の腕>の本拠はドルム地下王国のようですが、ドワーフではありませんでしたね? まあエルフィン樹王国もそうですけど、全員が同じ種族というわけでもありませんが……』
『単にドルム地下王国を本拠にしてるだけなんじゃないの? 万年雪のような国だって聞いてるし、そうなると攻められ難いでしょ。そういう意味でもドルム地下王国を根城にしてるんじゃないかな?』
『あくまでも本部を守る為ですか……。という事は末端が潰れても痛くも痒くも無い?』
『それはどうかな? こういう組織は支部から上がりを吸い上げてる形だろうから、それが無くなると贅沢が出来なくなって困るんじゃない? 人間種は一度贅沢を覚えると、質素な暮らしには戻れないらしいし』
『だからまた手を出してくる、という事ですね?』
『そう。で、また潰してやればいいんだよ。私は肉が喰える、ゴールダームは治安が良くなる。まさに両者が得をする方法だね』
『喰われる奴等は……元々腐っているのが悪いのであって、自業自得ですね』
『まったくもって、その通り』
ミクとイリュの会話は朝方まで続き、その頃には唯の雑談になっていた。




