0091・スラムと各組織と
食事も終わったので部屋へと戻り、ミクは装備や服を脱いで収納し、下着姿になると寝転がる。さて、本体空間で何をしようかと思った矢先、ドアがノックされたので許可を出す。
入って来たのはイリュであり、どうやら話があるらしい。
「スラムを含めた裏組織と闇ギルドの連中の情報よ。やっと精査し終わったから伝えに来たの。まずミクに喰って欲しい連中は、<強欲の腕>という組織名の連中」
「<強欲の腕>ねえ……。こう、自分達は凄いんだぞー、っていう名前をつけるのは何なんだろうね?」
「さあ? 探索者もそうだけど、それ以上に裏組織なんて舐められたら負けだしねー。それに探索者と違って、当たり前のように相手の面目を潰すし。っていうか裏組織の奴等って、互いに面目を潰しあってんのよね。だから抗争を繰り返すわけ」
「バカだけど、兵士や騎士は取り締まらないの? 流石に抗争ってなると被害が出るでしょうし、それを許したら示しがつかないと思うけど?」
「裏の連中は、抗争の時だけスラムでやるのよ。いうなれば、自分達のアジトやその周辺では争わずに、スラムで大規模に争うの。もしくは敵対組織のアジトに暗殺者を送りこむか」
「ああ、そういう事。つまり静かに争うか、それともお互いに決めてスラムで大規模に争うかって事ね。スラムで争うっていうのは、お互いに人数とか決めて争うんでしょうし……代表戦って感じ?」
「そうね、そんな感じ。100人なら100人って決めて、お互いに監視も出して争う。もちろん殺し合いだけど、スラムの連中もお祭り騒ぎを観戦するようなものかしら? 完全に娯楽ね」
「娯楽扱いかぁ……とはいえ、あそこの組織は強いっていう風に噂になるから、裏組織としても悪くないと。面目を気にする連中だから」
「その通り。あまり頻繁に行われたりはしないけど、スラムで屯してる連中が何処かの組織に入って人数が集まると、そいつらを使って争うのよ。だからお祭り騒ぎだし、元々の連中の数は殆ど減らないの」
「それってゴロツキを使って遊んでるだけなんじゃ……」
「彼らからすればそんなものよ。裏組織の連中はそれなりに鍛えられた連中だし、そんな人員が一朝一夕で手に入る訳が無い。となると組織としては減らしたくないのよ、戦力だから」
「でも面目は守らなきゃいけない。だからゴロツキを集めて争わせ、その結果で終わらせる。……それこそ面目も何もあったもんじゃないって思うけど? ルールありの茶番じゃない」
「それでも、まだマシなのよ。ルールなんて無かった頃は好き勝手に抗争を起こしてたし、その度に兵士や騎士が駆けずり回ってたわ。皆も不安な日々を過ごしてたしね」
「それで私に喰ってこいって事? なんだか今の奇跡のバランスを維持した方が良いような……? いや、私は喰いたいんだけどさ」
「奇跡のバランスって訳でもないのよ。虎視眈々と今のバランスを崩そうとしてる奴等も居るし、かつて何度も相手の面目を潰しまくって、抗争をし続けた奴等も居たし」
「ああ、面目を潰されれば抗争をするしかないのか。相手が潰れるまで抗争をすればいいし、弱体化させれば更に面目を潰せる。そうやって裏組織を潰そうとした? いや、傘下に入れようとしたのかな」
「ミクの言う通りよ。何処の紐付きか知らないけど、資金力に物を言わせて抗争を起こし続けた奴等が居たわ。裏を牛耳ろうとしたのね。結果として、その時だけは全ての裏組織が協力して新興組織を潰したのよ」
「それって……資金力さえあれば出来るんだから、同じ事をしてくる可能性があるような?」
「その通り。数年前にも同じ事をしようとした新興組織があったわ。もはや当たり前のように、おかしな組織が入り込んできた時だけ協力するっていう、暗黙の了解があるのよ。でもミクが喰っていくと……」
「そういう奴等が入り込みやすくなるねえ。で、どうするの? って聞かなくても分かるけど、私が全て喰らえば済むって事でしょ?」
「よく出来ました。っていうのは冗談で、さっき話したのがスラムと裏組織の連中の関係。結構微妙なバランスで成り立ってるって事を知ったうえで、食い荒らしてほしいのよ。闇ギルドもそうだけど」
「そういえば裏組織と闇ギルドってどう違うの? 適当に聞いてたけど」
「裏組織はゴールダームに根付いているっていうか、いわゆる地元にしかない組織。闇ギルドは他の国にも支部とか出張所がある組織ね。だから裏組織が結託して新興組織を潰すのよ。そういう時でも闇ギルドは動かないわ。自分達には関係ないって感じ」
「で、<強欲の腕>っていう連中はどっち?」
「当然、闇ギルドよ。こいつらの本部が何処にあるかは知らないけど、各国も闇ギルドには手を焼いているから、何処かの国の所為って訳にもいかないんだけどね。それでも色々と思うところはあるわ」
「???」
「ああ、ごめん、ごめん。闇ギルドの多くはね、その当時の貴族なんかが敵国を攻撃する為に作ったのが多いのよ。最初の資金は貴族が出すんだけど、時間が経って大きくなると貴族の命令なんて聞く筈ないのよね」
「つまり、好き勝手を始めると……」
「そう。それでも敵国だけなら良いんでしょうけど、やがては本国に帰ってくる。結局、自国にとっても厄介で面倒で邪魔な組織になるのよ。にも関わらず、自分なら制御できるとバカが同じ事を始めるわけ」
「バカ貴族なら、自分の爵位とか威光にひれ伏すとか思うんでしょうね」
「まさに、その通りよ! そんな事があり得る訳が無いでしょうに。アウトローの連中は実力が全てよ? 権力しかない連中、しかもそいつらの本国でもないのに命令なんて聞く訳ないじゃないの」
「今までそんなのを沢山見てきたって感じだね?」
「そうよ! 腐るほど見てきたわ! そもそも今有名な闇ギルドの殆どは、元々そうやって作られたの。つまりそれだけバカが多いって事よ。そのうえ消えていった闇ギルドも含めれば、どれだけバカが多いか分かるでしょ?」
「あー……人間種っていうのは、本当に碌な事をしないねえ。私は喰えるからいいけど」
「だからミクに喰ってほしいのよ。ゴールダームにアジトを持っている闇ギルドは、全て外国に本部がある勢力よ。何処の国か知らないし、もしかしたら遠い国かもしれない。ここは惑星最大のダンジョンがある国だからね」
「よくよく考えれば、周辺国以外にも国があって当然か。周辺国の事しか聞いた事がなかったから、ピンとこなかった」
「他の国は、おいおいで良いんじゃない? それよりも<強欲の腕>の事は頼んだわね。奴等のアジトは南西の住宅街、つまりこの近くだから。……それと、奴等の死体は全て食べて消しておいて。死体が無い行方不明の方が色々都合が良いの」
「私としてはそっちの方が楽だけど、良いの? 多少は残しておいた方が暗殺された感はあるよ?」
「むしろ、これから先も死体を残さずに喰らっていってほしいのよ。それが続けば同一犯だと分かるでしょう? 死体を全て消すって、労力としては凄く大変なの。真似する奴は出るかもしれないけど、続けるのは無理ね」
「そして裏組織や闇ギルドだけ狙えば、正義の人物が裏で潰して回ってる……っていう感じに映るわけね」
「そう。それで民心の不安は大分マシになる筈なのよ。一般人だって、何となくは怪しい組織だって気付いてるもの。でも、怖くて言えないだけ」
「了解、了解。それじゃ、全部喰ってくるよ」
ミクはイリュから情報を聞き、それが終わると全て片付けて蜘蛛の姿になる。そして<強欲の腕>のアジトへと向かう為、窓から飛び出していく。
肉が喰える喜びを隠す事もなく、夜の町を突き進むのであった。




