0943・テントの中にて
Side:カルティク
帝国獅子隊の名前を聞いた指揮官が驚いて立ち上がったけど、何だか嫌な予感がするわね。面倒な事に巻き込まれそうな感じがしてきたわ。杞憂であればそれで良いんだけど、杞憂じゃなかった場合が困りものね。
「それで、帝国獅子隊だと思った、その「獅子」という文字が刻印されたという銃は?」
指揮官がそう言うので、ミクが前に出てアイテムポーチから一丁の銃を取り出した。それを手にとって色々確認していく指揮官。すると銃口先端の下部に獅子と刻印してあるのを見つけた。あれ、パッと見じゃ分からないのよね。
「ふむ、間違い無い。ここに「獅子」と刻印してある。また、これは一般帝国兵が持っている小銃とは違うな。銃身が長く、8発装填式だ。微妙な違いではあるものの、見た目は一般的な帝国兵の小銃に寄せてあるのか。これで居られると、戦場では分からんな」
「しかし、逃亡した敵を追いかけたのであろう? 怪しいと思わなかったのか? そう思ったのであれば捕縛するべきであろう」
「敵は一目散に逃亡を始めました。自分達が帝国獅子隊だとバレてはいけないからでしょう。そんな相手を追いかけて倒しただけでも大金星です。それ以上を望むのは高望みが過ぎると思いますが?」
「何だと? お前達がキッチリと捕まえておけば、いちいちワシが口を挟む必要も無かったのだろうが!」
「じゃ、自分達で頑張りなよ。今まで誰も帝国獅子隊の事を明らかに出来なかったのに、出来る奴が出てきたら足りない? じゃあ、アンタ達が何とかすりゃいい。帝国獅子隊らしき者達を倒せたのは、王国兵じゃなくてハンターなんだけどね?」
「何!? 薄汚いハンターなどという分際の癖に、ふざけておるのか! 今すぐ捕縛して裁判に掛けてやるぞ!」
「そんな事をすれば、お前の首が飛ぶぞ? それでもいいならば好きにせよ」
「は? 何故ワシの首が飛ぶなどという事になるのだ! ワシは40年にも渡って辺境を守ってきたのだぞ!!!」
「分かっている。40年も努めた唯の平民だという事はな。彼女達は共に子爵家の方だ。更には辺境伯閣下とも懇意にされている。何故なら情報収集役でもあるからだ。その御二人と、喚く事しか出来ぬ老害。辺境伯閣下がどちらを取るかは分かりきった事だな」
「な!? おのれ、若造の分際で! 黙って聞いておれば、つけ上がり「口を閉じろ」おって!!」
指揮官が喚いている年寄りを強く睨みつけている。まるで憎悪の篭もったような視線に、流石に大声で喚いていた年寄りも口を閉じた。あそこまでの憎悪を持っているって事は、何かありそうね?。
「お前に作戦を決める権利も、口を出す権利もない。お前は40年もの間、苦労して尽くしてきたがそれだけだ。お前の立場はあくまでも小隊長でしかない。いつから小隊長が全ての指揮権を持つようになったのだ?」
「………」
「ついでに言っておこうか? 裏切り者の小隊長がお前の関与を言い出しているのだが、果たしてお前は本当に尽くしてきたのかな? 私には疑問しかないのだが?」
「な!? ワシの忠節を疑うというのか!?」
「ならば本当の事を言ってくれるな? あの裏切り者は、貴様の仲介で帝国側の間諜から金を受け取っていた事まで明かしたぞ。ああ、既に辺境伯閣下には早馬で報告を届けさせた。間諜が捕まれば貴様の事も全て明るみに出るな?」
「………ふざけるなぁ!!!」
いきなり激昂した年寄りはリボルバーを抜いて構えようとしたけど、それより早くミクがリボルバーを掴んで銃口を上に向けた。その状態で発砲された為、誰にも当たらずに終わる。まあ、ミクの反応速度に勝てる訳が無いわよねえ。
その後、周りの兵士に取り押さえられた年寄り。古参兵として五月蝿いだけかと思ったら、まさかの裏切り者だったとは。呆れるほどの愚か者だし、確かに指揮官が老害だと言う筈よ。
「そいつは全てを剥ぎ取ったうえで手足を縛り、木に縛り付けておけ。魔物に殺されぬように見張りを立てておくのを忘れぬようにな。明日、兵士に第2南西町へと連れて行かせる」
「「「「「ハッ!」」」」」
ミクは奪ったリボルバーから弾を全て出し、その後にリボルバーと弾を兵士に渡した。兵士に引っ立てられていく老害は、それでも「ギャーギャー」と喚いていたわね。すぐに噂が広がって孤立するでしょうけど。
それはともかくとして報告はどうするのかしら? これで終わり? 私達の事が有耶無耶になりそうだから、その方がありがたいんだけど……終わらせてはくれないみたいね。
「さて、多少のゴタゴタはあったものの、却ってスッキリしたな。それで帝国獅子隊の装備は幾つあったのだね?」
「全部で30ほどだと聞いてる。それ以外の帝国兵の小銃に刻印は無かったよ。でも装備が同じでナイフを二本差している奴等ばかりだった。皆とも話してたんだけど、おそらくは帝国の騎士部隊だったんだろうって結論になった」
「近接戦闘も出来る帝国騎士隊か……。となると帝国獅子隊は帝国騎士隊を隠れ蓑にしている? 敢えて混在させる事で、味方にも分からなくしているのかもしれんな。それで、帝国獅子隊の武器なのだが……」
「全てタダでそっちに渡してもいいよ。代わりに条件がある」
「ふむ……。その条件とは?」
「それ以外の物はこっちの取り分として頂く。それが条件だよ。連発式の小銃も多かったし、帝国の騎士が使っている物だからね。こちらとしても予備を含めて持っておきたいんだ。まあ、沢山あるから何処かで売るかもしれないけど」
「最初の別働隊で300、次の別働隊が帝国騎士だけで250だからねえ。壊れてるのを差し引いても500はあるだろうさ。結構な儲けだね。アタシ達にもあるんだろう?」
「そりゃもちろん。揉めるのも鬱陶しいから等分だけどね」
「……分かった。辺境伯閣下も認められるだろう。それに鹵獲品は手に入れた者が所有者となる。確実に得る為に帝国獅子隊の物を渡すというのは、条件として分からんではない」
「持ってるとバレたら、帝国の者がおかしな報復をしてくるかもしれないからね。だから私達が持っている意味もあまりないんだよ。それならこっちの儲けを確定させた方が私達にとってはありがたい」
「成る程、それは確かにそうだろう。秘匿部隊の持ち物だからな、帝国の連中なら如何なる手を使ってでも殺しに来るかもしれん。そんな面倒事を抱え込むくらいなら手放すのは当たり前か」
「そもそも帝国騎士の持っている小銃で十分だろうしね。帝国獅子隊のは見た目が似てるけど銃身が長いし、弾は8発装填出来る様になってる。兵士や騎士のは6発装填だから、やはり獅子隊専用にカスタマイズされてるね」
「うむ。秘匿されたエリート部隊には良い物を持たせるという事だろう。それは分かるのだが、その程度であれば騎士の物もそうしてやればいいと思うが……」
「どうやら分かっていないみたいだけど、単純に製造コストが上がるんだよ。その割にはそこまで劇的に変わる訳じゃない。なら一部の者達を満足させる分で十分って事。新しい銃を製造させて配備するなら、根本的な設計から見直すんだろうけどね」
「マイナーチェンジと言える程度なら、そこまでコストを掛けて配備する理由にもならないだろうしね。特に兵士や騎士が持っている小銃が安定して使えるなら、尚の事、無理してコストを掛ける意味が無い」
「ああ、そこまで変わらんならば、一部の連中の自尊心を満足させてやるだけで十分なのか」
「それもあるだろうし、そういうマイナーチェンジを繰り返す事で次世代の銃の基本を作ってるって感じでしょうね。当然だけど、使い勝手などを含めて情報は蓄積されていく訳だし」
「そういう実験というか、実際に実戦で使わせるという意味でも、少数のエリートに配備するのは都合が良いのでしょうね」
私達の話を聞いている指揮官は、ジッとテーブルの上に置いてある帝国獅子隊の小銃を見ている。何か考えているようだけど、私達に関わらない事なら何でも良いわ。




