0940・新たな別働隊との戦い
Side:エルシア・ラウムハーン
アタシ達は北西の林の陰に居て、敵から見えない場所に待機している。4人は林の中に入って行ったけど、それぞれが所定の位置に移動しているみたいだ。多少葉っぱの擦れるような音がするけど、それ以外の音はしていない。
非常に素早く動いている感じがするが、あれほど音が少ないのもおかしな話だ。何というか、暗殺者か何かだと疑いたくなってくる。とはいえ、この2日ほど見ていてそれは無いと判断できる。
一番大きいのは、そんな姑息な事をする必要も無い連中だという事。つまりわざわざ裏の仕事なんてする必要も無く、表で十二分に大きな顔をして生きられるんだ。それだけの実力というか強さを持っている。
むしろこの連中は自分達でも言っている通り、自由を毀損される方が怒り狂うだろう。実力があるからこそ好き勝手に生きていくタイプだけど、少なくとも誰かに迷惑を掛けてまで勝手をする連中でもない。
だからこそ自分達の自由が損なわれると怒り狂うんだろうけど、こういう連中は他にも居る。鉄ランクハンターの中にだって実力者は居て、貴族の後ろ盾を望まず犯罪もせず、自由気ままに生きている連中。そういう奴等とそっくりだ。
こういう実力者が協力してくれると心強いんだけど、無理矢理に勧誘しようとするとへそを曲げちまう。なので無理に勧誘とか協力を仰がない方が良い。自分から協力する場合は十分すぎるほどしてくれるが、強制しようとすると脱兎の如く逃げ出す。
アタシ達もハンター歴が長いから、こういう奴等への対処法は分かってる。帝国は実力のあるハンターを無理矢理に徴兵しようとして逃げられた過去があるからね。王国は流石にそんな馬鹿な事はしなかったけど、辺境伯殿もする気は無いだろう。
もうこの四人を監視する意味は全く無く、更には戦場になった場所も帝国兵の死体も確認したから戻りたいんだけど、まさかこのタイミングで帝国が新たに兵を寄越してくるなんてね。厄介な事になったもんだ。
「まさか本当に帝国兵が来るとは思わなかったよ。このまま適当に時間を潰して終わりだと思ってたんだけどね。別働隊の派遣なんて、後にも先にも一回だけだろう。普通はさ」
「ええ、普通はそうです。見つかったら意味はありませんし、二回目からは警戒されますからね。わざわざ二度目を送ってきたという事は、一度目は負ける事が織り込み済みだったという事でしょうか?」
「つまり二度目は無いと思わせておいて、今二度目が来てるって? もしくは知らされていなかっただけで、一度目の連中は捨て駒だったか。本隊に報告すれば二度目は無いとして撤収させると思っていた?」
「そして二度目の別働隊は王国軍が見えないので、自分達の罠に掛かったと思い込んだ。……なんていう可能性も考えられますが、どれも憶測と言いますか妄想に近いですね」
「でも、そこまでして帝国軍がここを確保しなきゃいけない理由が無『聞こえる?』……!」
『聞こえてると思って話すよ。現在、警戒の帝国兵が合図をして、その後ろから別働隊の兵士が続々と現れた。何故か一度目の兵士と違って、全員がヘルメットを着けてるね。それとナイフを二本ホルスターの拳銃以外に差してるみたい』
腰のホルスターに拳銃以外のナイフ? ……それってもしかして帝国獅子隊なんじゃ!?。
『もしかして帝国獅子隊って奴等なんじゃないの? ナイフを持っている奴等も居たけど、わざわざ全員が二本持つって普通は無いよね? あるならそういう装備の部隊ってだけでしょ。前回の奴等は小銃以外バラバラだったし』
『そうね。拳銃を持っている奴等も居れば、ナイフの奴も居た。色々と引っぺがしたから覚えてるけど、小銃以外は統一されてなかったわ』
引っぺがしたっていうのがアレだけど、確かに帝国兵の死体は武器を何も持ってなかった。敵兵の武器は鹵獲品として好きにして良いという決まりが元々ある。とはいえ全部引っぺがすっていうのも凄いけど。
『そろそろ橋の半ばに差し掛かるから、私は敵の前に出る。その状態になったら撃っていいから、できるだけ額か眉間、もしくは顔を狙って集中的に撃ってほしい。少なくとも顔に攻撃を受ければ戦闘能力は大きく低下する』
『それはね。そもそも顔周辺は弱点の宝庫って言ってもいいし、高さを合わせれば誰かに当たるでしょ。あれだけ数が居るんだからさ。どんな下手くそでも誰かには当てられる数だから、適当に撃っちゃえばいいよ』
そうだろうけど、あの集団を本気で相手にしようと考えてるんだね。何の気負いも聞こえないし、正直言って笑ってるんじゃないかって思う声の弾み具合だ。これから少なくとも200は超えている相手と、たった六人で戦うとは思えないね。
本当に強い奴等っていうのは、きっとこういう奴等の事を言うんだろう。流石にアタシが至れる領域じゃない。銃弾が飛び交う戦場でピクニックに行くかのような気軽さで居るのは、流石にどんな経験をしても無理。
『おまたせ。もうすぐ銃弾飛び交う戦闘の始まりだ。夜中にやってこなかった御蔭で、大変見やすい日中に戦う事が出来る。さて、そろそろカウントを始めるよ。5、4、3、2、1、ゼロ!』
ゼロと言った瞬間飛び出したミク。それと同時に援護の銃砲が鳴る。相手は出てきたミクにビックリし、その隙を残りの3人に狙われた。アタシ達も狙って撃ったけど、当たった気はしない。
しかし戦闘中に相手に当たったかなど確認している暇がある筈も無く、すぐにボルトを操作して排莢し、薬室に下から上がってきた弾を送り込む。そして薬室を閉鎖したらすぐに構えて、敵の顔を狙って撃つ。
流石に連中みたいに頭というか眉間を狙って撃つなんて真似は、銀ランクのアタシにだって出来ない。ブレンダだって出来る筈もなく、驚きながらも敵を狙って撃っている。
弾も撃てない新兵みたいな役立たずになるのは嫌なので必死に撃っているけど、アタシが撃った後に敵が倒れる事は無い。にも関わらず、あの連中の誰かが撃つと必ず敵が地面に倒れる。という事は確実に当てて殺しているという事だ。
異常極まりない命中率だけど、重要なのは一撃で殺す場所に当ててるって事だ。それは当然だけど簡単な事じゃない。にも関わらず、盾を持っているミクですら帝国兵に当てて殺している。何故リボルバーでそんな事が出来るのか理解が出来ない。
大きな盾の横から手だけ出して撃ってるのに、何故敵兵を的確に殺せるのか……あんなメチャクチャを見ていると頭がおかしくなりそうだ。確かに規格外だとは聞いていたけど、あれは本当に異常に過ぎる。
弾が無くなったので排莢し、弾込めを急いで行う。今は無駄な時間なんて過ごさず、一発でも多くの弾を敵に向かって撃つ時だ。分かってはいるものの、自分が撃った弾が碌に当たっていない事を考えると凹む。
弾が入ったので薬室に送り、閉鎖して構える。そして狙って撃つと、初めてそのタイミングで敵兵が倒れた。どうやら当たってくれたらしい。僅かとはいえ戦闘の役に立っている事に安堵しながら、排莢して薬室に弾を送り閉鎖する。
ただひたすら基本に忠実に、それを愚直に繰り返す事しかアタシには出来なかった。
…
……
………
「ふぅ。戦闘は終わりかな? 流石に全部で四人ほどしか倒せなかった事には凹むけど、それでも当たっただけマシか。この距離でも当てられるっていうのは自信になりそうだよ。連中を見たら唯の強がりにしかならないけどさ」
「本当にそうですね。あの命中率なら、最初に来たという300人にも勝てる筈です。今回は250人くらいでしたけど……ヘルメットを被っていた事といい、どう思います?」
「どうもこうも、帝国獅子隊じゃないとしても、騎士隊である事には間違いないよ。それを250人なんて、大金星じゃ済まない戦果なんだけど………連中は目立ちたくないみたいだし、黙ってる気がする」
「ですよね。下手をすれば、へそを曲げて逃げられますよ?」
分かってるんだけど、報告を捻じ曲げる訳にもいかないし、どうしたもんかね……?。




