0926・行進
Side:イリュディナ
辺境伯軍の駐屯地で名前の登録を終えた私達は、町に出て食料品を買おうと店を回っている。しかし既に情報が出回っているのか、日保ちする食料が軒並み値上がりしてるわね? 商売人にとって絶対売れる物だものねえ。仕方がないにしても、あからさま過ぎない?。
そんな事を思いながら見ているけど、ミクは一向に買おうとしないわね。私達はミクが持っていてくれればいいから特に問題無いし、ミクが買わないなら十二分に食料はあるんでしょう。最悪ガイアに行ってファーダが買ってきてくれれば済むし、食料の心配は最初からしていない。
結局ミクは何も買う事が無いまま、「高いねー」と言いつつ宿の部屋へと戻る。一応確認しておくけど、問題は無いんだと思うわ。
「ミク、何も買わなかったけど、食料はちゃんとあるのよね?」
「少なくとも私達が食べる分だけで二週間分ぐらいはあるよ。そこまであれば、消費し切る前にガイアに行って補充してくればいいだけだから問題なし。そもそも私達に食糧不足とか飢え死にとか無いからね。問題があるとしたら、私達じゃなくて周りだよ」
「周囲の連中が飢えてると確かに困るわね。わたし達だけが食べられるという状況だと、間違いなく色々な悪意が向けられると思う。ミクが善人化すれば、それで終わる話でもあるんだけど」
「とはいえ怒りや恨みをこちらに向けられても困るけどね。考えてたんだけど、もしかしたらこういう争いはすぐに終わるのかもしれないわ。短期間で終わるから食料は各自に任せてるんじゃない?」
「銃があるから良くも悪くも短期しか戦わないって事? それなら食料を自分で用意しろは分からなくもないかしらね。それでも多少は戦闘に日数も掛かると思うけど、確かに私達がこの星の戦争を知らないのも事実なのよねえ」
「今回が初めてなんだから、流石に仕方ないわよ。戦闘が行われる現地まで歩くのかしら? だったらそれなりに時間も掛かると思うけど、馬車で運ぶのなら少ない時間で済むわね。とはいえ食料を運んだりするし、やっぱり徒歩かな」
「その辺りは明日になれば分かるでしょうから、今日はもうゆっくりしていましょうよ」
アレッサがそんな事を言い出したけど、確かにその通りかもね。<果報は寝て待て>とか言うらしいし、全てやる事は終えてるんだから、後は待つしか出来ないとも言えるか。まだ寝るには早いけども、ゆっくり明日を待ちますか。
…
……
………
次の日の朝になったので、朝食を食堂で食べた私達は駐屯地へと移動する。私達以外にも集まっている者は多く居るので、時間的には大丈夫みたい。
駐屯地についたものの、そこは既に物々しくなっており軍人たちが忙しなく動いている状態だった。私達は訓練場と思しき場所に行けと言われたので、そこに行って待つ。
すると、既に居たハンター達が集まっていたので、私達はその後ろに並ぶようにして待機。私達が来てからもハンター達は集まってきたので、それなりに私達は早かったようだ。
ちなみにハンター協会で揉めていたオッサンと若い子は、私達より早く来て待っていた。そういうところはキッチリしているのか、それとも出発が待ち遠しくて早く目覚めたか。おそらくはどちらかでしょうね。
「ハンター諸君! 立ち上がって4列に整列せよ! これから軍の者が来るが、君達は最後尾だ。分かったな!」
そう言って軍人は去って行った。私達は4人で横に並び、一応は立って待つ。すると辺境伯軍の軍人が素早く並んで整列する。私達が居る場所の右に整列したけど、訓練の成果かピシッと揃ってるわねえ。
「諸君!! 我々は攻めて来る敵の為に日々の訓練を欠かしていない! その実力を発揮する時が再びやってきた! 必ずや敵を叩き潰し、勝利をウェルキスカ王国に捧げるのだ! それでは、出陣!!!」
「「「「「「「「「「おぉっ!!!」」」」」」」」」」
その言葉を元に軍人達は一糸乱れぬ行進を始めたわ。おそらく町の人に見せる為のパフォーマンスでしょうね。でもこういうのも大事だから、ちゃんとしておかないといけないわ。
彼らにとっては晴れ舞台とも言えるし、同時に彼等が出れば守れるのだとアピールしておく事も大事だもの。こういうのは疎かにしても良い事なんて何も無い。意外に大事な事なのよね。
それが分かってないハンター達はブツブツ言ってるけど、それはどうでもいいか。整列して一糸乱れぬ行進をしているだけで見栄えが良いのよ。それと比べられるハンターが見劣りするのは間違い無い。
私達がついていく番になったけど、整列しろと言われたのにすぐにバラバラになって町の人にアピールしようとする者が出た。それが外から見たら滑稽に見えるって気がついてないのねえ。寄せ集めだから仕方ないんだけど。
町から出るまでは盛んにアピールしていた奴等も、町を出てからは黙々と歩き続ける。アピールする相手が居ないから当然だけど、中には最早息が上がっている奴等が居る。どれだけ体力が無いのか、呆れるわね。
そんな私達は4列のまま黙々と歩いているわ。もちろん【念話】で会話してるんだけど、傍目には何も喋らず黙々と歩いているようにしか見えないでしょうね。というか軍人に離されないように、ちゃんとついていきなさいよ。
僅かに遅れてる気がするんだけど、大丈夫なのかしら? 先頭の所為で全体が遅れて間に合わないとか止めてよ。私達まで恥を掻いちゃうじゃないの。これは、どうしたものかしら?。
『私達が前に出る? そうすれば離される事は無いと思うけど……』
『他の連中も遅いみたいだしね。後ろも遅れる奴等が出始めてるし、そいつらは無視して遅れない者達だけで行くべきじゃない? このままじゃ置いて行かれる可能性すらあるんだし』
『じゃあ、このまま前に出て行こうか。私が前に近づけるだけの速度で歩くから皆はついてきて』
そう言ってミクが速度を上げた。まだそこまで離されてはいないけど、徐々に前の軍人の列からは離されている。一番前に居るのは……あのオッサンと若い子か。どっちも「ひーひー」言ってるみたいだし、体力が無いわねえ。
ミクはそれらを無視して歩き、前の者が邪魔なら追い抜かして進んで行く。私達も遅い奴等を抜かして前へと行くと、後ろの中でも体力のある連中が私達についていきた。
そのまま速度を上げつつ進んで行くと、私達は一番前のオッサンと若い子を抜かして先頭に出る。正直に言って遅すぎて迷惑なのよね。全体が遅れてしまうから邪魔にしかなってない。
「おい! はぁ、はぁ、お前ら! はぁ、追い抜こうと、はぁ、するな!」
「そんなに疲れているうえ、前の軍人達から遅れるようなのは邪魔でしかない。恨むなら自分達の体力の無さを恨め」
ミクはそう言って先頭に踊り出ると、そのまま速度を上げて歩いていく。私達も遅れずについていき、オッサンと若い子は文句を言いながら頑張っていたものの、そのまま差が出て後方へと流れていった。
私達は軍の後方にピタリとつくと、そこからは軍に合わせて歩き続ける。それにしても体力のある奴等と無い奴等が明確に分かれたわね。私達について来れているのは多くないけど、居る事は居るみたいじゃない。
幾ら銃が主武器と言っても、必要なのは体力なのよ。足を使って戦う事に変わりは無いんだし、逃げる時にも体力が必要だもの。それを分かってない奴ほど死亡率が高いんだけど、自覚は無いみたいね。
特に一番前に居たオッサンと若い子は話にならないわ。銃の腕前が幾ら良くても、戦争はそれだけじゃ勝てないのにね。




