0912・依頼とバイク
Side:ミク
私達は王都のハンター協会で依頼を請けたけど、その依頼主が私達を疑いの目で見てきている。とはいえ、私はそんな些細な事は気にせず話しかけた。こいつが疑おうがどうしようが、私にはどうでもいいしね。
「そっちが疑おうがどうしようが、私達は依頼を請けた。それが事実。で、そっちが依頼を出したアーリー・デイビッドでいいんだよね?」
「ああ、そうだ。確かにお前さん達の実力がどうとかは知らんし、こっちは依頼さえ熟してくれれば他はどうでもいいのは間違い無い。依頼は北のダンジョンの素材だ。各種5匹分、きっちり取ってきてくれよ」
「それはいいんだけど、それ8気筒エンジンよね? なんで貴方がそんなものを弄ってるの? っていうか燃料は何を使う気?」
「こいつは確かに〝エンジン〟っつうんだが、何でお前さんがそんな事を知ってるんだ? こいつは400年ほど前に魔族きっての天才と謳われたオレの祖先、ハーリー・デビッドソンが設計図に残したものだぞ?」
「そうなの? たとえそうであっても、知ってるから知ってるだけよ。っていうか、後ろの方を見たらバイクのフレームがあるんだけど、あれってほぼ完成してない? 今さら素材が必要?」
「あのフレームもエンジンも試作で作ったもんだ。こいつは魔力で動く魔導エンジンの試作型でな。祖先がほぼ完成させていた物なんだが、1つだけどうしても突破できなかった問題があるんだよ」
「問題? ……何も無さそうに見えるんだけど、何が問題なの?」
「簡単だ。パワーが足りねえ。魔力で動くっつったところで、その魔力が無きゃ動かねえんだよ。だが、誰もがそんな魔力を持ってる訳じゃねえし、魔石を使うにしたって、とんでもねえ程に魔石を喰いやがるのさ」
「要するに燃料である魔石をドカ喰いする所為で、燃費があまりにも悪過ぎる訳か……。確かに完成してないっていうか、どうにもならないね。とはいえ、そこをどうにかするのは難しい気もするけど……」
「フレームの軽量化、エンジン素材の見直し。そんなところぐらいじゃない、今出来るのって。もっと技術が進歩すれば色々とあるんだろうけど、今はどうにもならないんじゃないの? もしくはもっと凄い魔石を使うか」
「魔石は最初に考えたんだが、それをすると貴族でさえ気軽に乗れねえ金額になる。となると、そんなもん誰も買わねえからな。これを商売にしたいオレとしては、売れない物を作っても仕方がない訳だ」
「まあ、言いたい事は分かるわね。でも私達なら使えるんじゃない? 魔力が必要って言ったところで、どれぐらい必要なのかは試してみないと分からないし、今試す事って出来ないの?」
「そりゃまあ、出来るが………ちょっと待ってろよ」
そう言うとアーリーは裏の方に行ってゴソゴソすると、何やら配線みたいな物を持って出てきた。それをエンジンに繋いで色々とすると、最後にその配線の片側をイリュに渡す。
「これで魔力を供給すればエンジンは始動する。とはいえ魔族のオレでも1時間は回せねえほどに魔力を喰うんで注意してくれ。それと魔力の供給はゆっくりな。一気に注ぐとエンジンが壊れちまうんで気をつけてくれよ?」
「了解、了解。流石にそんな下手クソな素人の失敗なんてしないわよ。最低限の魔力からゆっくりと上げていけば良いんでしょ?」
イリュが集中してゆっくりと魔力を流す。最初は何の反応も無かったエンジンだけど、段々と動き始めてきた。8気筒が上がったり下がったりしながらエンジンを回しているが、確かにガイアの日本で見たような動きをしている。
エンジンがそれなりに激しく動き始め、固定してあるにも係わらず台をガタガタと揺らす。流石にマズいと思ったのか依頼人が止め、魔力を流して動かすのは終了した。しかし……思っている以上に魔力の消費は少なかったね?。
「魔力の消費が多いって聞いてたから覚悟してたのに、思っているより遥かに少なかったわね? 単に貴方達の魔力が少なすぎるんじゃないのかしら。私なら1日以上動かしていても何の問題も無いわよ」
「まあ、イリュが消費していた魔力を考えると、確かに1日以上動かし続ける事は可能ね。実際には3日ぐらいが限界かしら? それ以上は眠らないと無理だろうし、そんなところじゃない?」
「まあ、眠る時間を考えれば1日で十分よね。どうせ夜は寝るんだし、それなら半日でも十分でしょ。私達にとっては何の問題も無い消費量でしかないわね。となると、私達にとっては買い?」
「そうだね? バイクを完成させて、私達に売ってくれないかな。1台幾らぐらいするか知らないけど、取ってこなきゃいけない素材は私達が取ってくるとして、値段を出してよ」
「お前さん達が本当に使えるなら構わないが……しかしフレームなんかも無駄を省いて簡略化して、なるべく耐久性重視で作るとなると………。全部合わせて15000ダルってところか? これ以上は値段を下げられんぞ?」
「仮に作るとしてもこの世に4台だし、特注となるとこれぐらいの値段はするかな? びっくりするほど高い気はするけど、買えなくはないからお願いするよ。私達の4台、きっちり仕上げてもらうけど大丈夫?」
「誰に言ってやがる。祖先が完成させようとして諦めたもんを完成させられるんだ。きっちりと最高の物を仕上げてやるぜ。それに15000ダルを4台もだ、腕が鳴るってもんよ。ただし時間が掛かるのは諦めてくれ」
「それぐらいは特に問題ないよ。先に支払っておいた方が良いなら、言っておいてよ」
「すまん、10000ダルずつは先に支払っておいてくれ。部品やその他を発注しなきゃなんねえからな。その際の手付金含めて結構要るんだよ。後、オレの研究の為に今まで積もりに積もった借金とかな」
「それの返済の為の15000ダル? まあ、こっちとしてはバイクが手に入るならいいけど、今回だけよ。次に同じ事したら容赦はしないからね?」
「すまねえ。そう言ってもらえると助かる。手を変え品を変え様々に試してみたんだか上手くいかなくてな、いつの間にか借金が膨れ上がっちまったんだ。実際の値段でいえば4500ダルくらいだ」
「10000ダル以上も吹っ掛けて来てたとは……。まあ、その代わりにキッチリ仕上げてくれるなら良いか。じゃあ、とりあえず依頼のを取って来ますかね」
アレッサの言葉を最後に私達は依頼人の下を離れて王都の入り口へと移動する。まさか10000ダルも吹っ掛けてくるとは思わなかったけど、どうやら借金で首が回らなかったみたいだね。
「何というか、王都の闇から回収したお金を早速使う事になったわね。とはいえ、これからの事を考えると足は必要だから仕方ないか。バイクなら速いでしょうし、せっかくだから2人乗りが出来る様にしてあると良いんだけど……」
「それは戻ってから相談じゃない? サイドカーっていう方法もあるし、後ろに直接乗せなきゃいけないって訳じゃないでしょ。アレッサ用のバイクは流石に1人乗りでしょうけどね」
「背が低くて悪かったわね!」
「別に悪いとは言ってないけれど、流石に乗れないでしょ?」
「乗る事は出来るでしょうけど、アンバランスなのは確かね。それはともかく、さっさと依頼を熟しましょうか。ダンジョンなんだから緊張感を持って進むようにね。ダンジョンマスターはともかく、その後ろには神様が居るんだから」
「分かってるって」
ま、神が居たら居たで喰うだけだから、何も問題はないけどね。




