0911・善人化と王都の闇
Side:ファーダ
王都の悪人どもを善人に変えているのだが、やはり数の多い王都だけあって一筋縄ではいかない。本当に悪人が多く、石を適当に投げれば悪人に当たるのではないか? という程に悪人が多い。特にスラム。
こればかりは仕方がないとは思うものの呆れるほどの多さであり、【掌握】を使った際の悪人の反応と気配の反応が変わらないぐらいだ。つまり反応の全てが悪人という状態なんだが、これは王都に来て初めてであり今までは無かった。
それぐらいに酷いとも言えるし、よくもまあ今までこんな連中を抱えて無事だったなと思う。王都だけにスラムも大きく、正直に言ってスラムの連中が一斉に蜂起したらどうなるか分からんぞ。特に銃がある以上はな。
それでも今まで起きていないという事は、スラムも一枚岩じゃないっていう証拠なんだろう。もしかしたら治安を守る為に敢えて手を突っ込んでいるのかもしれん。三つ巴や四つ巴にしておけば牽制しあって動けないだろうしな。
そんな危うい均衡があったとしても今日で終わりだし、流石にミクもノノもスラムに居る以上は今日で確実に終わる。残念ながらこいつらの生存を許すほど俺達は甘くない。どうやら奴隷売買までしているようだし、俺達が手心を加える必要も無い連中だ。
まとめて善人化していきつつ、悪質なゴミどもは喰らって金を回収していく。特に奴隷売買をしていた奴等は生きる事すら許す気はない。善人化などという温情を与える事は無く、盗賊どもと同じように始末して奪う。そしてその中には右手が撃たれたヤツ8人が居た。
あのクズども8人が悪人なのは知っていたが、奴隷売買にも関わりがあったらしい。今日で完全に消えたが、俺達を怪しむ者は居ないだろう。そもそも連中はスラムの娼館に入り浸っていたみたいだし、スラムの中で消えているんだ。
仮にスラム近くの宿に泊まっていて疑われたとしても、消えた連中と善人だらけのスラムで捜査なんぞ出来まい。ミク達は宿で寝ている事になっているし、宿の者は誰も訪ねては来ない。何故なら眠りの香りで寝かせてあるからだ。
仮に嘘で俺達を引っ張ろうとしても、その時に善人化すれば済む。どんな連中でも善人にしてしまえば俺達を無理矢理に投獄する事は出来ないのだから、そこまで心配する事でもない。なにより俺達をピンポイントで狙う連中も居ないだろうしな。
おっと、3人で善人化を行うと速いな。あれだけ広いと思っていたスラムが終わったか。次はスラムに近いところから順番に行っていくとして、王城は明日だな。今日無理に善人化する必要も無い。
しっかし中央町だから大きいのか、それとも王都だから大きいのかは分からんな。もしかしたら東ガウトレア中央町も大きかったのかもしれない。生憎と行ってないので大きさまでは分からないのだが、それぞれの中央町は、かつての大帝国時代の領都だったのかも。
そこが領都だったのだとすれば中央町が大きい理由も簡単なんだが、違ってたら王都だから大きいというぐらいか。っと、下らん事を考えていたらミクに怒られた。真面目に善人化をするか。
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Side:ミク
昨夜ある程度の範囲は終わらせたものの、スラム民が多かった所為で思ったよりも進まなかった。現在3分の1ちょっとが終わったところだ。人数的にはかなり終わっている筈だけども、スラムはぎゅうぎゅう詰めのように人が居たから大変だった。
その所為で思っていたよりも時間が掛かったし、悪党どもから金銭を奪うのにも時間が掛かった。その所為で余計に遅れたという事もある。あれだけ時間が掛かったのも仕方がないっていうくらいに儲かったけどね。
それはともかく皆も起きてるし、そろそろ準備して食堂に行こうか。
「そうね。ところで昨夜の善人化はどうだったの? 終わった?」
「範囲的には3分の1が終わったぐらいだよ。スラムの中が酷くてね。人がぎゅうぎゅう詰めかと思うぐらいに居たんだ。風俗街みたいな感じだったし余計なんだろうけどね。それに危険な薬物も出回ってたし、かなりマズい場所だったよ」
「本当にスラムって感じね。とはいえ終わらせたんでしょ?」
「流石にね。奴隷売買までしているクズとか、薬物を売り捌いている連中は根こそぎ喰ったよ。そしてお金とか色々と巻き上げてきたから、かなり儲かったね。逆を言えばそれだけ闇取引が横行してたって事なんだけど」
「本当に酷いわねえ。そこまで酷いなら昨日のチンピラも分からなくは無いわ」
「昨日のチンピラ8人は奴隷売買が行われている場所に居たし、普段から娼館に入り浸っていた連中だったよ。だから生きる価値無しとして喰らっておいた」
「それは生かす価値も無いし、ミクが喰らったのは当然でしょうね。それなりに儲かったって言ってたけど、闇取引を考えたら相当に儲かったんじゃないの?」
「本体が数えてくれたけど、137921ダルあったね。あくまでも紙幣だけなんだけど、3人には35000ダルずつ渡しておくよ。私は貨幣の方も持ってるからね」
「ありがたいけど、一気にお金持ちになっちゃったわね。まあ、悪い事じゃないからゆっくり使うかな? 何かで一気に使うかもしれないけど、それはそれ、腐ったお金が表に出るんだから良い事よ」
「そういう建前でいいから、そろそろ食堂に行きましょうよ。お腹が空いてきたし、ここで喋ってても仕方ないでしょ」
アレッサの言う通りなので宿を出た私達は、まっすぐ食堂に行って朝食を食べる。注文してすぐ出てきたので待たされる事も無く、さっさと食べた私達は食堂を出てハンター協会へ。
到着した私達は依頼が掲示されているボードを見ていくものの、ミクは昨日言っていた依頼の紙を剥がして持って行く。受付嬢はそれを見て困ったように話してきた。
「ハンター協会ではどんな仕事も請けることは可能ですが、これは鉄クラスに対して推奨されている依頼です。皆様が依頼を達成できない場合、高額のキャンセル料を支払う必要が出てきますが……」
「構わないよ。そもそも出来るから請けるのであって、出来ないものを持って来た訳じゃないからね。手続きしてくれる?」
「分かりました。ハンター証を提出してください」
私達4人のハンター証を見て、名前を依頼の用紙に記入していく受付嬢。私達が全員魔法を使えると確認して「ピクッ」と反応したけど、それ以上は不審な行動をとらなかった。ある意味で優秀な受付嬢だね。
記入が終わったのでハンター証を返してもらい、私達は依頼人の下へと行く。どうやら王都の南東区画、スラムに近いエリアに居る人物が依頼人となっていた。南東区画の3分の2がスラムだったので、王都のスラムの大きさが分かる。
私達はそのまま進んで行き、依頼の紙にあった住所にやってきた。そこには大きな倉庫のような建物と、そこを開けて〝エンジン〟を触っている人物が見える。しかも8気筒エンジンだね。何故あんなものが在るのか知らないけど、とりあえず話しかけるかな?。
「ちょっといい? 私達は依頼を請けてここに来たんだけど、貴方が依頼を出したアーリー・デイビッド?」
私はそこに居た、耳の尖った浅黒い肌の男に話しかけた。見た目からして。ほぼ間違いなく魔族だろう。それはいいんだけど、こいつは自力でエンジンを開発したのだろうか? もしそうだとしたら、一気に色々と変わっていきそうだね。
「あん? ………あんたらがオレの依頼を請けたのか? どう見ても達成できそうに見えねえんだがな」
思いっきり胡乱気な顔で見てきているけど、そこは気にせず話を進めるか。




