0900・東ガウトレア第1西町へと戻る
Side:アレッサ
子供達と共に歩いていくんだけど、やっぱり遅いわね。仕方がないとはいえ、時間が掛かる事も視野に入れて行動するしかないか。子供達が遅いのも体力が無いのも当然の事だし、責められるような事でもないもの。
わたしだって子供の頃は体力が無かったし、あんまり畑の手伝いとか出来なかったのよ。子供の頃は誰でもそんなものだから、どうしようもない事に腹を立てても無駄なエネルギーを使うだけ。それならもっと得する事にエネルギーを使わなくちゃね。
森の中を黙々と歩いていくと30分ほどで街道に出る事が出来た。連れて来られた時と変わらない時間で出られたのは僥倖ね。ミクは早速街道の1方向に向かって歩いていく。そっちは……どっち?。
「こっちは町に戻る方向だよ。私達と姉妹だけなら歩いて先に進んでも良いんだけどね、良い体力トレーニングになるから。でもノルトスとアレンは乗合馬車に乗せるしかないでしょ。それに<ヴェノム>の構成員の可能性が高い御者もどうにかしないとね」
「そういえば乗合馬車の御者って、そもそもあのアジトに来てなかったわよね。となると街道でわたし達を下ろした後、すぐに町の方へと戻ったのかしら。それとも客無しで次の町まで行った?」
「怪しまれないようにするには次の町まで移動するんじゃない? ……いや、逆か。客が乗っていないなら町へと戻る……それも違うか。客無しで戻ったら、他の乗合馬車の御者に「客はどうした?」って聞かれるもの」
「という事は客無しで次の町まで行って、途中の村で客は下りたっていう言い訳かな? それならそこまで怪しまれないと思う。それなりには苦しいと思うけど、それでも荒唐無稽じゃないし」
「そうね。とはいえ、わざわざお金を出して乗合馬車に乗るのは、町まで移動する人ぐらいでしょうけどね。途中の村なら歩くでしょう。そもそも村人か何かなんだし、無駄なお金は使わないって聞くわよ」
「それはそうでしょ。余ほどの荷物を持っていない限りは乗合馬車になんて乗らないだろうし、そんな大荷物を持っている時点で乗車拒否されるわよ。結局は荷車を複数で牽いて帰るのが普通でしょうね」
「よくある光景だけど、それが普通の村人よねえ……。やっぱり言い訳は苦しいと言わざるを得ないわ。まあ、<ヴェノム>の仲間だからどうでもいいけども。そういえば何で馬車を用意しなかったの? それぐらい自前で用意出来るわよね?」
「そうすると狙われるのじゃよ。お貴族様ならまだしも、ワシら平民は馬車に何の紋章も無い。そういう馬車は盗賊に狙ってくれと言っているようなものだ。だからこそ乗合馬車の方が目立たずに済む。……普通はの」
子供達は「ハァハァ」言ってるけど、この爺さんは元気ね。矍鑠としてるのは昔ながらの人だからかしら? それとも儲からない店が長かったからかな? ま、どっちでもいいか。
「今回のは目立つ目立たないじゃないでしょ。そもそも最初から狙われてたんだし、その状況じゃどう足掻いても捕まってた筈。むしろ私達が居た事が幸運だったと言えるわね」
「それは、そうじゃの。ワシらだけでは脱出など出来んし、どれだけの者に迷惑を掛けておったか分からん。それに、あの子を止める事も出来なんだであろう。あの子が殺された事よりも、あれ以上の罪を重ねなんでよくなった事に安堵しておる」
「グロッグだったかしら? 彼の怨みと憎しみが正当なものかも分からないから、迂闊に決め付けない方が良いわ。そもそも彼が語った事すら本当の事か分かっていないのだし」
「うむ、分かっておるよ。とはいえ、あそこまでの怒りと怨みが嘘だとは思わん。騙されてそう思い込まされたのかもしれんとは思うがな。あの子は最期まで妻から本当の事を聞いておらんと言っておった。ならば<ヴェノム>の奴等に都合よく利用されたのかもしれん」
「そう思い込むように誘導されたかもしれないし、言葉巧みに騙されたのかもしれない。それとも、そういう境遇の者達が多いみたいだから、自分もそうだと思い込んだ。そういう可能性もあるわね」
「そうね。結局のところ、あの男を問い詰めても真実には辿り着かなかった。既に母親が亡くなってると言ってたから、真実を知る事はもう出来ないわね。後は可能性を探る事しか無理でしょう」
「………」
今の奥さんが前の奥さんを無理矢理に叩き出したかもしれないのよね。もしそれを追求したら相当の修羅場になると思うんだけど、逆上した奥さんに撃ち殺されるとか無いでしょうね? せっかく助けたのにそういうのは嫌よ。
「ま、全ては帰ってからじゃ。何があろうとも帰って聞いてみぬ事には分からぬ。その結果が如何になろうと構わぬよ。老いて命が長くある訳でもないし、だからこそ知らねば死んでも死に切れぬ」
その言葉に誰も答えることは無いけど、このノルトスという人物が死ぬ気で真実を知ろうとしているのは分かる。流石にどうかと思うけど、老い先短い自分の命をどうするかは自由だもの。流石に周りが勝手に決める訳にはいかないし、文句も言い辛い。
わたし達は言葉も発さず黙々と歩く。別に雰囲気は悪くないんだけど、ノルトスの覚悟に若干当てられてる感じかしら? 皆の雰囲気も何処か「ピリッ」としたわね。決して悪い事じゃないからいいけどさ。
それからも歩き続け、子供達が疲れ切った頃に町まで戻ってくる事が出来た。歩きなら休憩を入れるような時間ね。それでもアレンは歩ききったんだから、流石は男の子と言ったところかしら。頑張ったわね。
わたし達は褒めつつ、とりあえず宿屋へと直行した。お金自体は奪われてたんだけど、盗賊を皆殺しにした時に取り戻しているから十分にある。わたし達は4人部屋で、向こうは2人部屋をとった。
とりあえずは宿の部屋でゆっくり休むべく、それぞれの部屋へと入っていく。とにかく足の疲れを少しでも癒しておく必要があるので、ミクは早速マッサージを始めた。姉妹も疲れているけど、コレを受けると楽になると分かっているから素直だ。
わたし達はミクが出してくれた水を飲みながら、ゆっくりと休んでいる。流石に広域盗賊団なんかに捕まるとは思ってもいなかったし、そこから脱出したり暗殺したりとする事になるとは予想外すぎた。
少し精神を落ち着けたいという意味も篭めて、ゆっくりと雑談をしている。わたし達に対する悪意も無いし、本当の意味で休めるわ。牢屋の中ではガンガンに悪意が飛んで来てたからねえ。
「やっと町に戻ってきて落ち着けるけど、まさか広域盗賊団なんてのがあるとは思わなかったわ。盗賊は盗賊でしょうと思うけど、人数が多すぎるから駆逐出来ないのかしら? それとも上手く地下に沈んでる?」
「どちらかと言うと、上手く地下に沈んでるのが正しいんじゃない? もしかしたら統治機構にも相当食い込んでいるのかもしれないわ。闇ギルドもそうだったけど、権力側を食い荒らしていると捕まったりしないものよ」
「捕まらないっていうかグルだものね。権力側が腐ってしまっていて、同じ穴の狢なんだから何をやっても駄目よ。病巣は切り落とすしか解決しない、これは闇ギルドでも変わらなかった事」
「そうだね。実際にそれ以外は解決方法が無いんじゃないかな? そして解決したとしても、第2第3の腐った連中が出てきてしまう。特に金に靡くヤツは後を立たないからさ」
「結果的にゴッソリ取り除かないと解決しないのよね。場合によっては既存の組織を潰して、新しい組織にした方が良い場合すらあるもの。それぐらいに汚染の根って深いのよ、嫌になってくるわ」
それの繰り返しが人間種の歴史なんだけど………知れば知るほど、どうしようもない奴等よねえ。




