0899・朝食と火炎放射
Side:カルティク
朝。私達が起きた後、ミクはログハウスを出て朝食作りを始めた。と言っても、いつも通りのドラゴンの干し肉と野菜のスープにアイテムバッグに入っていたパンだけどね。とはいえ温かい食べ物は助かると言ったところ。
特に昨日は碌な物を食べられていないから、お腹も空いている筈。大した物も食べないままに歩き出す訳にはいかないし、そんな事をすれば体力が無く倒れるかもしれない。せめてしっかりと食べさせないとね。
ドラゴンの干し肉は美味しいし、野菜が多く入ってるから栄養価も高い。それにミクはガイアの日本で、出汁の元とか味噌とかの調味料も大量に買っていたわ。アレだけの調味料があれば不味い料理にはならないでしょう。
「今日は普通に出汁の元を入れただけだよ。味噌とかは子供達が受け入れるかどうか分からないからね、だから無難な味付けにしかしてない。ただ、それでも出汁が入っているだけ美味しくなってる筈」
「まあ、大丈夫でしょ。流石に出汁が受け入れられないって事は無いんじゃない? あくまでも旨味の元みたいな物なんだしさ。味噌とか流石に味がガラッと変わる物ならまだしも、出汁は隠し味でしょ」
「そうね。ガイアっていうか日本ってそういうトコ凄いわよね。お手軽に味が一段上になるというか、よくもあんな物を作り出すと思うわ。ちょっとした驚きだし、努力の方向性がビックリだもの」
「ええ、ちょっと色々と考えさせられるわよね。何をやってるのかしらと思うものの、内容を考えるとトンデモない事をしているのよ。よくもまあ、顆粒出汁なんて物を生み出すものだと思うわ。お手軽かつ持ち運びも便利ってねえ」
「サラサラって鍋に入れたら、それだけで味が一段上がるんだもの……画期的だと思うわ。この星でさえ料理は普通というか、出汁の概念が無いのよねえ。わたし達は知ってるけど、そういう意味でも凄いと思う」
パンはミクが出した普通のパンよ。いわゆる食パンなんだけど、ミクはそのまま食べさせる気みたい。トーストするにも上手くいかないからでしょうね。魔法で料理をしているけれど、焼くとなると片方ずつ焼くしかない。それは面倒なんでしょうね。
スープが温かいし、流石にパンに塗る色々な物を出す訳にはいかないという事情もある。私達ならバターやマーガリンや各種ジャムだったりピーナッツバターが出てきても問題無いけど、この星の者達に見せる訳にはいかないわ。流石に怪しまれるし。
アレッサとイリュが子供達と老人を起こしに行ったから、私はお皿とかフォークとかの準備ね。とはいえ起きてこっちに来てから渡す事になるけれど、寝惚け眼で落とす危険性があるわね。仕方ない、ログハウスの中から取ってこよう。
私はログハウスの中にあったテーブルをアイテムバッグに収納し、ミクが料理している近くに出して説明する。ミクはすぐに理解したのか、折り畳み式の木の椅子を出してくれた。これなら落とさず食べられるでしょう。
スープだけならまだしも、スープを食べながら食パンを食べるのは難しいものね。既にお皿に乗せた食パンは適当に置いてある。流石に袋を開けてガサゴソする訳にもいかないからね。そんな姿もさる事ながら、ポリエチレン自体を見せられないし。
5枚切りのパンを1人につき2枚だけど、朝はコレで十分でしょ。4枚余分に置いてあるけど、それは更に食べたい人が食べれば良いだけだしね。子供達も老人も出てきたし、そろそろお皿にスープを入れて行きましょうか。私達だけなら椀でも良いんだけどね。
「これは……何だか見た事が無い、不思議なパンですね? 妙に白いですし、大きなパンを薄く切ってあるのでしょうか?」
「柔らかいパンだし、外もそんなに硬くないよ! それにスープから凄く良い匂いがする! お姉ちゃん、早く食べようよ!」
「本当だ、凄く良い匂い……。初めてだけど、凄く美味しそう」
「本当じゃのう。この肉から良い匂いが漂っておる気がするが、とりあえず頂こう。昨日は朝以外、冷えた物しか食べておらんからのう」
「それじゃ各々の前に置いてあるから食べていって。そこに置いてある4枚のパンは余りだから、食べたい人が好きに取るといいよ。それじゃ、いただきます」
ミクがそう言うと合図みたいになり、皆が食べ始めた。……やっぱりドラゴンの肉は美味しいわねえ。何と言っても干し肉にしてあるからか凄く味が濃い。干してあるにも関わらず、スープを吸って肉々しさが少し戻ってるのが良いのよ。
噛んだ時に「ジュワッ」とドラゴン肉の旨味が滲み出してくるのが堪らない。生のドラゴン肉に比べて味が濃いのが特徴で、生の良いところとまた違うのよねえ。どっちも美味しいけど、甲乙付け難い美味しさがある。
ドラゴン肉はミクが大量に持ってるし、野外の料理も悪くないのよ。カレンとエリーが居る間は野外料理を楽しむのは無理でしょうけど、ドラゴン肉1つで野外料理が楽しみになるんだか私も現金だと思う。
子供達も老人も夢中で食べてるわね。ドラゴン肉が強力なだけに食パンが完全に負けてるけど、コレはどうにもならない事でしかない。そもそもドラゴン肉に合うパンなんてあるのかしら? 探しても見つからない気がするわ。
そんな食事も終わり、4枚の余っていたパンは結局子供達と老人が食べていた。パンが弱かったけど、最期は4人ともスープに浸して食べてたわね。おかわりまでしていたし、朝食には満足できたみたい。
今は椅子に座ってゆっくりしているのと、トイレに行っておくのは今の内だと言ってある。ミクは後片付けの最中で、アレッサとイリュは2つ目のログハウスを燃やしに行った。あの2人は放っておいて大丈夫でしょう。
私達の出発前には一番前のログハウスも燃やす手筈になっている。森の中で燃やすって危険だと思うでしょうけど、ミクが居る以上は森が火事になる事も無い。ちなみに私達が離れた後はファーダが最後まで見ていてくれる。なので火事は無い。
ログハウスを燃やしておかないと、ここを拠点に使う奴等が居なくならない。たとえログハウスとはいえ、作るのにはそれなりの時間と苦労をした筈よ。それが無くなっているのを知って、また建てるとはならないでしょう。
そもそも地理的に旨味のある場所じゃないし、ログハウスが無くなっているとなれば放棄する筈。流石に広域盗賊団というものを許す訳にはいかないし、ゆっくり相手の力を削いでいかないとね。
アルデムでもそうだったけど、一般人を食い物にする奴等は許せないわ。必ず叩き潰してみせる。かつてとやっている事は変わらないけど、それでも許せない以上は私がやるべき事なのよ。何処の星でもね。
全員トイレも終わったし、馬も放し終わった。全てをもう1度確認したら、ミクがログハウスに【豪炎射】を放って焼いていく。その火の勢いに子供達と老人が怯えているけど、派手に始めたわねえ。流石に勢いが強すぎない?。
アレッサとイリュは【炎柱】の魔法だったのに、景気良く火炎放射を放つのはどうかと思う。アレかしら、「汚物は消毒だー!」って感じなのかも。このログハウスは盗賊のアジトだったんだし。
ログハウスが派手に燃えていくのを見つつ、私達はその光景に背を向けて歩いていく。まずは街道に戻らなきゃいけないんだけど、そこまで戻るのにも苦労しそう。子供達の足だから時間が掛かるでしょうし、励ましながら進まないと。
黙々と足だけ動かしてくれれば楽なんだけど、そういう訳にはいかないものね。子供は。




