0898・カレンと問答
Side:ミク
私は子供達や老人の前で幹部の男を生きながらに焼き殺した。それは当然それだけの事をしてきたからだ。罪に対しては必ず罰が必要となる。その際に法を持ち出す者が居るが、それは間違いだ。
そもそも法が正しく機能するという保証が何処にも無いうえ、法が正しく機能していればここまで社会が荒れたりなどしない。根本的に法というものなど信用ならないし、相手は<ヴェノム>の幹部だ。まともに法が適用されるかすら疑問がある。
幹部の男を統治機構に渡したとして、牢内で暗殺されればまだマシ。最悪は脱獄させてまた犯罪をさせる可能性もある。そもそも荒れている国でまともな犯罪捜査がされるかという事にも疑問があるしね。
「だから貴女が処刑したという訳ですか? ですがそんな権利はありませんよね?」
「そうだよ。でも、それがどうかした? さっきも言ったけど、今まで散々罪を犯してきた者が、今さら法で裁かれるなどという真っ当な方法で死んで良い筈が無い。どれだけ不条理に殺されてきた人達が居る? どれだけ理不尽な目に遭ってきた人達が居る? なのに〝犯罪者だけ〟がちゃんと扱われるの?」
「そ、それは……」
「ね、おかしいって分かるでしょ? 何故なんの罪も無い人達が無残に殺されて、罪人が温情を持って苦しまずに死ねるの? 犯罪者こそ苦しみ抜いて死ぬべきでしょ、それだけの犯罪をやってきたんだからさ。そうやって情けを掛けるから調子に乗るんだよ、犯罪者どもが」
「まあ、殺されるにしたって痛みも無く死ねるならって考える悪党は居るでしょうね。のた打ち回る苦しみを味わい続けて死ぬって分かってたら、犯罪に手を染めない者も居るでしょう。確かに罪に応じて刑罰を厳しくした方が良いとは思えるわね」
「そいつが犯した罪の分、苦しみ抜いてから死ぬ事になる。そうすれば余ほどの連中以外は怖がると思うわよ? 案外犯罪抑止に役立つんじゃないかしら?」
「でも、犯人を間違えたりとか……」
「それはあるだろうね。ま、だからなに? で終わる話なんだけどさ。だって人間種がやる事に完璧なんてある訳ないじゃん。そんな事はそもそもあり得ないんだよ。だから必ずそういう間違いはあるし、そもそも今だってある。気にしていないだけ」
「………」
「無実の罪で殺された者なんて、歴史上において山ほど居るわよ。今まで全部完璧だったと思う? そんな事があるわけ無いじゃない。そしてこれからも無いわよ。人間種は間違える者であり、神じゃないんだから完璧なんてあり得ないの」
「そうじゃのう。法を扱う者が買収されたりして勝手におかしな裁定を下したり、犯人が見つからなかったから無理矢理にでっち上げたり。正直に言って目を覆いたくなるほど酷い事もあるんじゃよ」
「そんな……」
「だからこそミクはここで始末したわけ。それも多くの被害者の痛みを分からせる意味で、なるべく苦しむ方法で殺した。わたし達はその事について何も言う事は無いし、そもそも社会の矛盾というものも分かっているからね」
「社会の矛盾、ですか?」
「そうじゃの。歳をとられたら何れ悟られよう。ワシらが生きるこの社会が如何に矛盾に満ちておるか。それでもワシらは生きていくし、生きていかねばならん」
そういう方向に纏めたかった訳じゃないんだけどね。良いか悪いかで言えば微妙なところだなぁ……。どうしようか? ちょっと私が持って行こうとした流れと違う以上は、やっぱり修正しておこう。
「私が言いたかったのは、法に委ねても正しい答えが出るかは分からないって事と、アレッサが言った通りここで止めを刺しておく必要があったという事だよ。そうでないと余計な被害者が増える可能性がある」
「余計って……」
「余計は余計だよ。法に委ねて脱獄なり取り引きなりで出たとする。そしてまた犯罪を犯して被害者が出たら、法に委ねた事は余計な事でしかない。余計な事である法に委ねず、さっさと殺しておけば被害者は出なかった」
「法で裁くべきというのは社会として正しい。でも、人として正しいかは別。更なる被害者が出た時に誰が責任をとるの? それとも自分は関係ないと無責任に無視する? 法として社会として正しいから、新たな被害者が出ても仕方がない?」
「………」
「そういう事も考えなきゃいけないって事よ。そもそも2人は侯爵家の者なんだから余計に考えなきゃいけない。何が正しくて何が間違っているか。現場でワザと殺している者も居るかもしれない。これ以上の被害者を出さない為に、敢えて泥を被っている者が居るかもしれないんだしね」
「ま、今は沢山考えなさい。社会なんて矛盾だらけで、何が正しいのか何が間違っているのかなんて一概には決められないものよ。貴女が思っているよりも遥かに複雑でややこしい。今はそう思っていればいいわ」
「そうですか……」
「とにかく今はログハウスで寝よう。私達が食料を持ってるからそれを渡すよ。食べたらさっさと寝て、明日からまた歩くしかないね」
「えー、また歩くの?」
「仕方ないわ。盗賊達が使っていた馬はあるけど、貴女達は馬に乗れるの?」
「それは、無理だけど……」
「じゃあ仕方ないじゃない。1人乗り用の鞍しか無いし、乗れないならどうしようも無いわ。いきなり暴れる可能性を考えたら、徒歩で歩く方が安全よ。馬が暴れたら死ぬ可能性もあるからね」
「確かにそうじゃな。馬は明日の朝に放っておけばいいじゃろう。何処かしらで元気に生きるだろうしの」
私達は一番前のログハウスに行き、そこで寝泊りをする事に。アイテムバッグから適当なパンや干し肉を取り出して齧りつつ、水をコップに入れて飲む。食べ物があるだけマシと思ってくれたのか、黙々と子供達は食べてるね。
私達も食べていき、終わると適当に休む事に。ベッドは幾つかあったので子供達と老人に譲り、私達は入り口近くで寝る。何かあった時用に入り口を固めてるんだけど、3人はエアーマットを敷き始めた。……まあ、いいけどね。
「どうせ見張りはミクに任せれば良いし、私達としては寝心地の悪いベッドで寝たくないのよ。だから盗賊どものベッドを譲ったんだしね。さて、ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと寝ましょうか」
「もう深夜の1時ぐらいじゃない? さっさと寝ないと明日が大変そうだし、私も寝かせてもらうわね」
「わたしもさっさと寝るかな。後はお願いね、ミク。それじゃ、おやすみー」
さっさと寝た3人はともかくとして、ファーダには密かに姉妹の部屋に行ってもらっている。理由は快眠の香りだ。特に姉であるカレンは融通の利かない頑固な面があったので、ちゃんと眠らせてストレスを減らすようにしておく。
あれこれと考えていると眠れない事も多いし、その所為で明日の雰囲気が悪くなっても困るからね。出来れば気分良く過ごしてほしい。その方が面倒臭くなくて助かるから。
子供だからこそ納得がいかなかったんだろうけど、世の中に矛盾なんて山ほどあるし、人間種なんて欲望塗れで当たり前。だからこそ私が生み出されたのだし、私という存在が人間種が悪徳寄りである事を証明していると思う。
人間種が善徳に寄った存在であれば、そもそも私は創造されていない。まあ、この事は言えないし、言ったところで意味も無いんだよね。仮に事実だと分かっても、それで人間種という存在が変わる事なんて無いから。
私も下らない事を考えてないで、適当な暇潰しでもするか。無駄に考えたところで答えないんて出ないし、楽しくも無いからね。漫画を読んでた方が遥かにマシだよ。




