0086・久しぶりの少年
ミクは第2エリアを徘徊しつつ、犯罪者やそれに近しい者を殺害し、喰い荒らしていく。周りで見ている者が居ても【聖炎】の白き炎で誤魔化しつつ、一瞬で喰らい、場合によっては魔物の死体とすり替えている。
第2エリアの魔物には、牛系の魔物でホーンドブルという魔物がおり、こいつと犯罪者の死体を交換しているのだ。一瞬の早業であるが、ミクにとっては容易い事である。
そうやって進みつつの4階、見た事のある少年が犯罪者と戦っていた。彼の仲間も居るようである。その少年はミクに絡んだ事により、ストンピングで内臓に深刻なダメージを受けた少年であった。
「クソッ! こいつら犯罪者の癖して強いぞ!」
「だから止めとけって言ったのに、何で無駄に喧嘩を売るんだよ。こいつらの目的はオレ達じゃなかったろうが!」
「何言ってやがる、こんな犯罪者どもが本当にオレ達を逃がすと思ってんのか! 必ず後ろから襲ってくるに決まってる!」
「ハッ! ガキが随分と怯えてやがるようだな! まさか襲われるかもってだけでオレ達に手ぇ出すとは、なかなか面白ぇ坊主だ!」
「うるせぇ! ガキ扱いすんじゃねえよ!」
「そんな事言ってる場合か! ウチには女性が2人居るんだぞ! お前は仲間の事も考えてねえのか!!」
「ガハハハハ!! オレ様達にとっちゃ、自分から潰されに来たバカにしか見えんぜ! 潰されに来たんだったら、さっさと潰れろや!!」
「キャーーー!!」
「クッソ、何でこんな事になってんだよ!!」
少年の仲間が悪態を吐きながら戦っているものの、押し倒された女性が無理矢理に手篭めにされかかったその時、犯罪者の頭が貫かれた。
貫いたのは槍の穂先であり、やったのはミクである。犯罪者は13人居て、少年達は6人のチームだった。
人数には倍以上の差があり圧倒的に不利であったものの、ミクが参戦すればあっさり引っ繰り返せる人数でしかない。だから介入する事にしたのだ。
「大丈夫? まだヤられたりは、してないみたいだけど」
「えっ、あっ、ハイ! 助けていただいて、ありがとうございます!」
「別にいいよ、通りがかっただけだし。この程度の人数ならすぐ終わるから、ゆっくりしてて」
「は、はい!」
ミクは右手で槍を持ちながら他の犯罪者らしき連中に近付き、歩いている態勢から怖ろしい速さで突く。それも手打ちではなく首を貫く一撃だ。目の前で見ていた犯罪者も少年達のチームも驚いている。
「驚いてて良いの? 隙を晒していると死ぬよ?」
そう言って、ミクは左手でバルディッシュを取り出す。明らかな重量物を片手一本で振り、頭頂から股間までを真っ二つにする。その瞬間、そこに居る犯罪者全員がミクの実力を理解した。絶対に勝てないと。
「クソッ! 何だこのバケモノ女は!? 何でこんな所に居やがるんだ! ここは第2エリアだぞ!!」
「んな事知るか!! ヤベェ! 物凄い速さで仲間が殺されてるぞ! どうすんだ!?」
「それこそ知るか! 自分で考ぶぇ!?」
「おい! おヴぁ!?」
右手の槍で首や心臓をあっさりと貫かれ、左手のバルディッシュは小枝のように振り回され首を刎ねる。その結果、あっと言う間に死体だらけの有様となった。
少年達のチームは、助かったにも関わらずあまりの暴虐に言葉も出ないのであった。尚、それは男性のみである。
「ありがとうございます! 私達今回はもう駄目かと思いました!」
「本当にありがとうございます! これ程までに強い方だとは思っていませんでした。ガッツォの奴が喧嘩を売ったって聞きましたけど、自分の実力も理解しないバカで済みません!」
「え? ……ああ、あのザコ少年か。言われるまで忘れてたよ」
「本当に口だけのザコなんだと理解しました。私達、もうチームを抜けます。あんなのと組んでたら命が幾つあっても足りないし!」
「そうそう。同じ村の出身だからってガッツォを庇ってるあいつらも、もうウンザリ! 危険ばっかりで大した得も無いし、今日はこんな危険に突っ込む。勝手に自分達だけで死ねばいいのよ。私達を巻き込まないで!」
「本当にそう! 何でいちいち私達が危険な事に巻き込まれなきゃいけないのよ。勝手に突っ込んで、勝手に死ねっての。こっちを巻き込むな!」
「「「「………」」」」
「まあ、そこは好きにしてくれればいいんだけど、何なら地上まで送って行こうか? 私も昼食に帰るし」
「「お願いします!」」
ここではガッツリ見られているので、ミクは犯罪者どもの武器などを剥いで手に入れ、それが終わったら女性達を連れて移動していくのだった。
未だに呆然としている男達を置いて。
そのまま最短距離を歩きつつ、女性2人に【身体強化】を教えるミク。流石に重量物を振り回している事を問われれば、【身体強化】と答えるしかなく、その話になると教えてほしいと言われたのだ。
地上に帰るまでならと言い、手を繋いで魔力の動かし方を教え、それとは別の魔素を動かす方法も教える。この女性2人は工夫や努力をしているものの、魔力も魔素も使い方を知らなかった。こういう探索者は多いのかもしれない。
そんな事を思いつつも地上に出るまでしっかり教え、後は練習あるのみだと言っておく。ずっと教えてくれと言われても困るからだ。そして女性2人もそこまで厚顔無恥ではなかった。
地上に着いて、さて帰ろうかと思っていると、後ろから声を掛けられる。ちょうど地上に戻ってきたらしい。
「ミクじゃないか。いきなり地上に戻ってきたからビックリしたよ」
「シャルか。その調子だと初心者エリアは突破したみたいだね。とはいえ、実力を考えれば当たり前の事ではあるんだけど」
「簡単すぎて、さっさと終わらせたよ。妙に広いから無駄に時間が掛かったけど、午後からは第2エリアだね。サクッと突破して、明日からは第3エリアといきたいねえ。……そういえば、初心者エリアに犯罪者が居たけど?」
「私が攻略した時には居なかったけど、偶然だったのかな?」
ボス戦の時に襲われた事は、ミクの記憶からすっかり消されているようである。覚えていても仕方がない事ではあるのだが……。
2人は雑談をしつつも歩き始める。片方は光をも吸収しそうな漆黒の髪の美女、片方は暗いながらも銀髪で褐色肌の美女。絵にならない筈もなく、周り中から注目を浴びている。
ミクは注目される理由を理解せず、シャルは「こういうのも、いいもんだねえ」と内心で優越感を持っていた。
そんな絵になる2人はそのまま歩いて行き、<妖精の洞>へと入る。こんな美女2人がスラム近くの宿に泊まっていると驚く連中。後ろからつけている奴が大勢いたのだ。
ただし一部の連中は宿を見た瞬間、「アレの関係者はマズい」と理解し、すぐさま逃走した。
2人は宿の食堂に入り、適当に昼食を注文。ミクは大銅貨1枚を支払って大麦粥を頼む。出てくるまで雑談をするのだが、初心者エリアの事を聞くミク。
「初心者エリアで犯罪者が居たって言ってたけど、そんなに分かりやすく犯罪者だったの?」
「分かりやすいどころか、襲われてたのを助けたくらいさ。若い子は感謝してくれたけど、あたしとしては体の使い方の練習にちょうど良かったってところかね? 思っている以上に別物だったのも含めて、苦労しそうだよ」
「今までとは違うんでしょうけど、そんなに違うものなの?」
「そりゃ違うさ。いや、違いすぎると言ってもいい。とんでもない程の違いさ。元々は何となく分かってたけど、戦闘となるとここまで変わるなんて思ってもみなかったよ」
どうやら驚くほど違っていたらしい。今後の参考にと、ミクは詳しくシャルから聞いていくのだった。




