0005・草原ダンジョン1階
ギルド前の戦いも終わり、何の得も無いままミクは宿に戻る。宿の前で【生活魔法】の【清潔】を使い、汚れを落としてから宿へと入った。ミクの体は汚れなど無いが、服は汚れるので落としておく必要がある。
宿の中に入りカウンターの少年に部屋を聞くと、鍵を渡された後、1階の一番奥の部屋だと説明を受けた。その部屋の前に行き、鍵で扉を開けて中へと入る。
体の汚れは既に落としている為、サンダルを脱いでベッドに横になったミクは目を瞑る。実際にミクが睡眠をとる事は無い。所詮、外に出ている体は分体でしかないからだ。別に本体も睡眠を必要とはしていないが。
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ミクが宿の前で使った【清潔】だが、あれは【生活魔法】に分類される魔法だ。
【生活魔法】にはそれぞれ、【種火】【灯り】【清潔】【血止め】の4種類が存在する。そして【生活魔法】というのは、何故か篭められる魔力が決まっている魔法となる。
なので、莫大な魔力を持つミクでも制御しやすく、持っていても不自然ではない魔法なのだ。つまり使っても特に疑問も持たれない魔法という事であり、それ故に神はミクに教えたと言える。
もちろんミクの事だ、一度でも使えば制御を完璧に行うだろう。だが、それならば自分達が教えずともいい。そういった考えから、神々はミクに徹底的に体の動かし方を教えたのだ。
ミクの人外パワーは僅かにでも制御を失敗すると、頭を撫でる筈が首をもぐ事になってしまう。神々にとっては人外パワーの制御の方が重要であり、そちらに長く時間を割く必要があった。
今では完璧な力のコントロールが出来ているが、始めた当初は出来なくてミクも随分暴れていた。もちろん神々には勝てず、最後には叩き潰されていたが……。
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目を瞑っていても眠る訳ではないミクは、分体との関わりを最低限にしておきながら、本体空間で別の分体を作りだし練習していた。内容は【身体強化】をしながらの戦闘と、デメリットについてだ。
【身体強化】を使うと、猛烈に疲れるのと腹が減るであろう事はすぐに気がついた。これこそがギルドマスターの言っていた三流の証の意味だろう。
つまり【魔素】という何処にでもある物を取り込む事で強化出来るのだが、その反面ブースターのような物であり、当然どこかの何かを消費する必要がある。
それが多量の栄養消費と、それに付随する筋肉や骨への負荷だ。当然強化されるのは筋力だけでなく耐久力もである。でなければ体が壊れてしまい使い物にならなくなってしまう。
そんなものは自爆技でしかなく、使われる事はないだろう。技術として確立している以上は、デメリットを超えるメリットがあるのだ。でなければ誰も使おうとなんてしない。
ただし筋力が増えた状態では、いつもの状態と体の動かし方が変わる。【身体強化】中の最適な動き方は練習しておかねばならず、それ故に本体は練習しているのだ。
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夕日が出てきたのでミクは起き上がり、サンダルを履いて準備を整えたら部屋を出る。宿の食堂に行き、壁に貼り出してあるメニューを見て、とある料理にする事にした。他の者も食べているので目立たないだろう。
「大銅貨1枚で具沢山な大麦粥を一つ」
「はーい。具沢山な大麦粥ねー」
そう言って店員の若い女性は厨房の方へと行った。お客もそれなりに入っており、繁盛しているのがよく分かる。ミクは料理が来るのをゆっくりと待ち、運ばれてきた大麦粥を食べ始めた。
特に何の変哲もない大麦の粥だが、野菜や肉も入っていて、そのうえ量が多い。野菜の中には歩いてきた森の中にも生えていた野草があったが、食べられるならば些細な事である。何より栄養価は高い。
この星には栄養の概念がまだ無いが、ミクは知識として知っている。当然その知識を与えたのは神だが、ミクは必要があったのか疑問を持っている。そもそも肉塊には健康を維持する必要もないからだ。
栄養バランスを考える必要など無く、病気も無ければ寿命も無い。喰い荒らし、無限に増えながら生き続ける肉の塊。それがミクという存在だ。そんな人外の存在に栄養の知識が要るのだろうか?。
考えても仕方ないが、雑多な知識を詰め込んだだけかと、神々に文句の一つも言いたくなったミクであった。言ったところで無視されるのは分かりきっているので、言う事は無いだろうが。
食事後、ミクは宿の部屋に戻り鍵を掛け、サンダルを脱いでベッドに入る。そのまま目を瞑り、後は分体との関わりを最低限にし、本体空間で暇潰しをするのだった。
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翌日。朝早くに起きたミクは、食堂に行って昨日の大麦粥を注文。大銅貨1枚を払って食べたら、カウンターに居た女将さんに小銀貨を1枚渡して、今日の分の部屋を確保しておく。
大銅貨7枚のお釣りを貰ったら、小袋を背負い鞄に入れて出発。ダンジョンへと向かう。
すぐに到着したものの、ダンジョン前はもう混雑していた。
ダンジョンにはショートカットの魔法陣があるものの、それは当該の階層まで進んで守護者を倒し、最奥の魔法陣で脱出しないと使えない。
どういう理屈かは分からないが、何故かダンジョンはその人物が何処まで進んだかを記録しているらしく、到達していない者は使えない。
ショートカットの魔法陣は、迷宮魔法陣というダンジョンに潜る為の大きな魔法陣の周りに配置されている。全部で九つあるのだが、守護者は10階層ごとに出現すると決まっている。
つまり90階までのショートカット魔法陣は存在するという事だ。そこから考えるに、この星最大のダンジョンは100階まであるのだろう。そこの守護者を倒せば完全攻略となる筈。
とはいえダンジョン攻略はミクの目的ではない。愚か者を貪り喰う事が使命であり、己の目的でもある。その事を今一度思い直し、ミクは中央の迷宮魔法陣でダンジョンへと進入した。
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記念すべき第一階層。ここは草原であり、各種の麦畑が広がっていた。その面積は約20キロ平方メートル。つまり、ゴールダームの町の大きさとほぼ同じ広さの空間だ。
ダンジョンとはこれ程に広いのかと勘違いしそうになるが、これほど広いのはゴールダームのダンジョンだけである。つまり、このダンジョンは深さも広さも惑星最大なのだ。
そんな草原と麦畑の中を歩いて行くと、元気に刈り取っている子供達が見えた。実はゴールダームでは子供達、特に孤児を働かせている。
とはいえ魔物は探索者が倒すので問題なく、安全な麦の刈り取りをしているだけである為、子供達は安全に働ける環境だ。
また、この仕事で孤児は飢え死にせずとも済む為、そういう意味では他の国より孤児達は恵まれている。麦を持って帰って自分達で食べる事も認められているので、孤児院に持って帰る子供も多い。
そんな景色の中を歩いて行き、ミクは2階層への階段へと進む。このダンジョンでは1エリア10階層で構成されている為、守護者を倒した後は自動的に脱出する事になる。
ある意味で、10階ごとに独立したダンジョンのようにもなっているのだが、途中で帰る為には歩いて帰るしかない。その帰り道で殺される者も多いそうだ。
こんな草原の中では襲ってくる者もおらず、特に倒して儲かるような魔物もいない。居るのはネズミの魔物ぐらいである。
なのでさっさとミクは進む事にした。途中で<クフィカ草>を捨てながら。
昨日ギルドで売るのを忘れており、先ほど確認したら新鮮さが失われていた。これでは薬効が半分も無いので、溜息を吐きつつ捨てたのだ。
ド忘れというのは、肉塊にもあるらしい。




