0895・牢屋で魔法銃の話
Side:ミク
「<ヴェノム>の男が言ってたけど、<ファイアスター>っていうのは有名な銃火器のメーカーなの? 私は知らないんだけど」
「一応そうなっとる。元々は細々と銃や弾を売っとる程度の店でしかなかったんじゃがの。さっきの話を聞いとっただろうが、ちょうど30になった頃に商売が傾きかけた時期があるのだ。その時に妻と子に出て行かれてな、その後に開発したのだ。回転弾倉を」
「あれ? ……っていう事はリボルバーを開発した人って事? そりゃあ、売れるでしょうよ。儲かるでしょうし、あの男が怨みを持つのも分からなくはないわね。儲かる前に捨てられたとでも思ったら、その分の怨みと憎しみも向くでしょうし」
「本当に何故こんな事になったのかワシにも分からん。元々忙しい割に大した売り上げもなかった店じゃし、25歳を超えてから迎えた妻だったのだ。だからこそ将来を悲観して出て行ったのだと思っておった。なのに何故見捨てられたなどと……」
「既に古い話だから分からないかもしれないけど、こういう時は親族か従業員が関わってるっていうのがよくあるパターンね。もちろん、あくまでも可能性でしかないけど」
「1人目の妻はワシが良く行く食堂のウェイトレスだったのだ。そして2人目の妻は回転弾倉を作り上げた仲間じゃ。……そして1人目の妻が出て行ったのは回転弾倉を試作しておる時だった」
「……それって、回転弾倉が画期的だと分かってた2人目の妻が追い出したとか無いでしょうね? そうすれば自分の子に莫大な富を持たせられるし、自分も優雅に暮らしていけるもの」
「………分からん。しかし2人目の妻は最後に加入した仲間じゃし、その2ヶ月ほど後に1人目の妻は出て行ってしまっておる。もしそなたの予想が正しいなら、ワシは最低の女に騙されたという事か?」
「あくまでも可能性よ。本当にそうかは定かじゃないわ。それに孫も居る以上、それを明らかにしないという選択肢もあるわよ? 仮に予想が正しくても、子供と孫に罪は無いでしょ」
「それは、そうじゃが……」
老人は下を向いて悩み始めたね。困った事に私は問い詰める気は無かったんだよ。そもそも聞きたい事は他にあって声を掛けたのに、まさかそっちの方向に話が転がるとは思ってもいなかった。
思考の迷路に潜られても困るし、さっさと話題を変えた方がいいね。1人で考えてもおかしな方向に行くだけで、良い事なんて何もないしさ。
「ちょっと悩むの止めて私の話を聞いてくれる? そもそも私は<ヴェノム>の男も、そっちの奥さん関係の話もどうでもいいの。それよりも聞きたいのは、魔法銃に関しての事」
「………魔法銃? なんじゃそれは?」
「あれ? 知らない? ……<荒野の暴れ馬>とか名乗ってた盗賊団を潰した際に、魔法が出る銃のような物を持ってたんだんだよ。まさか知らないなんて思わなかったけど、ちょっと待ってね」
私は一瞬でアレッサのバッグを出して本人に渡す。アレッサはすぐにアイテムバッグから魔法銃を取り出して老人に見せた。渡された老人はしげしげと見つつ引き鉄に右手の指を掛けると、途端に【火弾】が発射された。
鉄格子の外に向かって飛んだので被害は無かったが、危ない事をしてくれるね、まったく。本当に銃火器メーカーの会長なのやら。
「すまん、すまん。まさか安全装置も無く魔法が飛び出すとは思わんかった。それにしても本当に魔法が出る銃があるとは思わんかったわ。これは<荒野の暴れ馬>とかいうのが持っとったんじゃな?」
「そうだよ。間違いなく<荒野の暴れ馬>が持っていた物だ。私達はそいつらからリボルバーやショットガンも頂いたから良く覚えてる。でも、それがどうかした?」
「いや、そこはあまり関係は無い。重要なのは盗賊団が何処かから奪ったという事じゃ。もしかしたら国の研究結果か何かかもしれん。それもウェルキスカ王国の研究ですら無いのかも……」
「仮にダスガンド帝国が作った物として、戦争になったらどれぐらい危険性が出てくるものなの? それと他のメーカーって事は無い?」
「分からん。とはいえ<ロール&オディオ>、<ハードバレット>、<ウィンセスト>も普通のメーカーじゃ。わざわざ魔力の少ない平民向けに魔法の放てる銃なぞ作らんじゃろう。貴族向けならば尚の事、作る意味などあるまい」
「なんで?」
「自前で魔法が使えるのに、わざわざこんな物を作る意味が無いであろう。貴族なのだから普通に魔法を使えば済むであろうし、そうでなくても護衛に使わせれば良いだけだ」
「ですが私は使えませんし、使ってみたいなと思う事はありますよ? 何処の貴族家かは申せませんが……」
「まさか貴族家の方だったとは、申し訳ありません。魔法の使えない平民の言い種ですので、お許しくだされ」
「いえ、それは構わないのですが、貴族とて誰でも魔法を使えるという訳ではないのです。我が家などは魔法の使い方すら伝わっておらず、既に家族は誰も使えません。護衛の一族は使えますが、今さら使い方を教えて欲しいとも言えず……」
「護衛の一族もそれで食っておりますからな。彼らの飯の種を寄越せと言うのも難しかろうと思います。仕方がないでしょうな」
「それで魔法銃は使える? 使えない?」
「ああ、そうであったな。戦争ではまず使えん。平民の魔力は少なく、数発撃てば使えなくなるじゃろう。弾代が掛からぬというメリットはあるが、貴族家の方でもない限りは使い道が無い武器でしかない。戦争で出てきても大した脅威にもなるまいな」
「それなら大丈夫そうね。魔法銃なんて作っても仕方がないんだろうけど、コレを作ってるって事は何かを狙ってるのかしら?」
「仮に何かを狙ってるとしたら大型化? 大砲クラスにまでしたら、戦争には使えるんじゃないかな。それも貴族の活躍の場にならない?」
「………仮に大砲まで大型化できるなら、確かに役に立つと思う。射程も銃より伸びるかもしれんし、そうなると驚異的な武器であろう。ただし、戦場でそんな事をしていたらスナイパーライフルで狙われるだろうがの」
「成る程、確かにそれがあったわね。となると、本気でコレを作った理由が分からないわ。まさか冗談で作った訳じゃないでしょうし、いったい何の理由があったのかしら? そのうえ盗賊に奪われてるしさ」
その時、今までジッと見ていたカルティクが不意に一言を漏らした。
「もしかして、暗殺用?」
「………可能性はある。デリンジャーでも暗殺は可能だが、それよりも音もせず静かに暗殺できるかもしれん。火の魔法ではなく、風の魔法で押し出すようにすればいい。例えば毒針などを発射するようにすれば……」
「音の殆どしない暗殺武器の出来上がりって訳ね。派手な方じゃなくて暗殺武器として使われたらどうなの?」
「驚異的じゃの。暗殺するだけならそこまでの威力は要らんのでな、平民でも使える武器となる。相当にマズいのう、この研究は。ウェルキスカ王国がしておるならば構わぬが、もしダスガンド帝国であれば……」
「確実に要人暗殺を目論むでしょうね。唯でさえ野心たっぷりの皇帝なんだもの、喜んで使わせるでしょうよ。自分が暗殺される事も知らず」
「ん? そういう予定でもあるのかの?」
「いや、無いわよ? ただ歴史的な事として、こういうのは使わせた者に返って来るのがお約束よ。クーデターで国を乗っ取ったヤツが、後年クーデターを起こされたりね」
「ああ、ビヤルホンドのクーデターか。確かにそういう事はあるのう」
どうやらこの星にもやらかした阿呆は居るらしい。何処も変わらないね、本当。




