0893・乗合馬車
Side:カルティク
カレンがミクの魔法を見て「綺麗にする魔法なんてあったのか」と言い出した。ミクも不思議に思ったようだが、私達も不思議に思ったので聞いてみる。もしかしてこの星の魔法って思っているよりも少ない可能性があるわね。
「綺麗にする魔法なんてあったのかってどういう事? もしかして見た事が無い?」
「はい。父の護衛をしている者も、確か火の玉を飛ばしたり、土の塊を飛ばしたりするだけです。他の魔法というのは見た事がありません。強力な魔法を使える方は炎の柱を立たせる事が出来ると聞いた事があります」
「炎の柱1つなら【炎柱】の魔法ね。それも簡単な魔法に分類されるんだけど、それが強力な魔法……? 流石に魔法のレベルが低すぎるっていうか、そもそも【浄化魔法】が無いっていうのもどうなの?」
「まだ無いと決まった訳じゃないでしょ。エリーが解体所で見たって言ってたし、部屋の中全体じゃなくて一部ならあるんでしょ。とはいえこの星の不死者に効く【浄化魔法】があるかどうかは別だから、微妙な話ではあるんだけど」
「そもそも不死者が普通に生きている以上は、無理に【浄化魔法】を使うのも危険だものねえ。迂闊にやったら滅ぶかもしれないし、流石に友好的な連中にそれは良くないわ。敵対するなら滅ぼしてやっても良いんだけど」
「そうね。敵対的な奴に容赦をする必要も無いから当然だけど、友好的な不死者にまで効くなら考えなきゃいけないわ。迂闊にミクが【浄滅】なんて使ったら、確定で消えてしまうじゃない。そうなると面倒な揉め事になるかもしれないわ」
「特に解体師に多いって聞いたし、社会の一翼を担っている以上は勝手に減らせないわね。必ず余計な事にしかならないし、代わりの解体師をどうするのって話にしかならないもの。私達に責任とれとか言われても困るから、実験も無しにしておきましょう」
「っと、そろそろエリーが限界みたいだから、食堂に行きましょうか。怒られちゃうわ」
確かにエリーがお怒りみたいだから、そろそろ移動しましょうか。へそを曲げられても困るからね
宿の部屋を片付けて出発し、食堂に入って朝食を注文する。既にお腹が空いていたエリーは今か今かと待っているけれど、出来上がらなければ運ばれては来ない。それでも早くに運ばれてきたのですぐに食べ始めた。
私達もさっさと朝食を終え、姉妹の食事が終わると店を出て町の人に聞く。当然聞くのは乗合馬車の事だけど、西へ行く乗合馬車はもうすぐ出発だというので慌てて走る。
まだ出発していなかった乗合馬車の御者に6人分の代金を払い、私達も乗り込んだ。中にはハンターらしき者が3人に老人と子供などが乗っていたが、私達で満員になったので出発する。色々な意味でギリギリだったみたい。
ハンターの男は肩から斜めに下げたガンベルトを着けており、そのベルトにリボルバー用の弾が複数差さっているのが見える。ああいうタイプの物もガイアで見た事があるわね? もちろん西部劇の1コマだけど。
昔はああやって複数の弾を持ち運んでいたんだと思うんだけど、私達の場合はアイテムポーチがあるから必要ないのよね。とはいえ剣帯タイプのホルスターぐらい買っておいた方が良いのかしら? 私達って傍から見たら丸腰にしか見えないし。
「今日は馬車だから楽だね、お姉ちゃん」
「そうだけど仕方ないでしょ。今までは町まで歩くしかなかったのも分かってるでしょうに」
「そうだけど、大変だったんだもん」
まあ、子供の足じゃ大変だったでしょうね。それでもミクが権能で癒してくれてたから遥かにマシよ? 普通なら足の疲れが癒えないまま次の日も歩き詰めになるんだからね。それに比べれば毎日完全回復なんだから十分過ぎるでしょ。
そんな事を考えつつも、ミクとの【念話】を行う私達。流石に色々と予想が出来てしまうのよね。
『ハンターらしき男達3人から悪意が飛んできてるから間違いはないね。こいつら馬車を制圧するつもりか、それとも途中で乗員を脅して金品を奪おうとしてるんだと思う。乗っているのが老人や子供だからね。盗賊じゃないんじゃないかな?』
『私達か姉妹を狙ってきたってパターンは無い? 昨日の<栄光の大帝国>とやらが本部に情報を送っていたとかは?』
『それは考えられなくもないけど、仮にそうだったとして、こんなにすぐに襲われるかしら? 幾らなんでもタイミング的に早すぎるでしょ。仮に襲撃があったとしても、<栄光の大帝国>絡みはもっと遅いと思うわよ?』
『そうだね。流石に昨日の今日で盗賊団を嗾けるのは難しいと思う。ガイアみたいに簡単に連絡出来るならまだしも、この星でだってまだ電話すら無いよ。伝書鳩の方じゃないかな、在っても』
『となると、こいつらは唯のチンピラってところかしら? でも昨日ミク達が悪人を善人に変えた筈よね? 何でこんな奴等が居るのかしら……』
『さて、そこまでは分からない。もしかしたら朝早くに町に来たのかもね。宿に戻ってからは宿と周辺しか監視していないから、朝早くに町に入ってきたら私にも分からないよ。特にこの星は柵とか壁とか無いし』
『そうね。門も無いから監視そのものもされていないし、そうなると誰がいつ入ってくるかなんて分からないわよ。荒れている星の割には無用心よねえ。ま、今さら石やレンガを積んで壁を作るのもコストが重いでしょうし、金銭的に無理じゃない?』
『だと思うわ。だからこそ放置されてるんでしょうしね。それよりこの男達動かないけど、どうなってるのかしら?』
『さあ? 悪意を垂れ流してるけど何故か動き出さずにジッとしてるし、もしかしたら悪意を持ってるだけ?』
『それは無いでしょ。今はまだ動くタイミングじゃ無いんでしょうね』
そうやって私達が暢気に【念話】で話していると、ついに男達が動いて発砲した。空に向かっての発砲だったので音だけだが、馬車の幌に穴が開いてしまったみたい。
「お前ら動くんじゃねーぞ! いいな、絶対に動くなよ!!」
「おいジジイ! てめぇが<ファイアスター>の会長だってのは知ってんだぞ!! オレ達と共に来てもらうぜ? そこの孫も連れてなぁ!」
「な、何を言っておるんじゃ、おぬしらは。ワシがいったいな、ぐぉっ!?」
男の1人が老人をいきなり殴りつけたわ。随分と荒っぽい奴等ね。孫と言われた男の子も怯えてるじゃないの。まだ7歳か8歳ぐらいだし当然だけど、その怯えが姉妹の方にも伝播してる感じね。
「ジジイ! オレ達が知らないでこの馬車に乗ったとでも思ってんのか!! てめぇの身柄が目的で乗ってんだよ!」
「天下の銃火器メーカー<ファイアスター>の会長と孫だ! 高い金で取り引き出来るだろうなぁ!」
「そこの女どもも動くんじゃねえぞ! 大人しくしてりゃ、傷も付けずに高値で売ってやるからよ」
私達としてはどう出るべきか。そんな事を考えていると、前の方から馬に乗った連中が大量にやってきた。数としては40~50人ほどかしら? どうやらこいつらの仲間のようね。
男達3人の注意が前方に逸れた瞬間、私達は自分達のアイテムバッグをそれぞれの空間に入れた。アレッサのアイテムバッグだけはミクが本体空間に収納したけど、それ以外はそれぞれの空間へ収納して奪われなくしておく。
イリュが持つスキル【亜空間】と、私が持つ【闇影空間】は専用の空間を作り出せるスキルだった。常時展開する事が可能なもので、私達は既にアイテムバッグ要らずになっている。
とはいえ見せておかないと怪しまれるから、アイテムバッグは持つんだけど、実際にはもう必要が無い。だからアイテムバッグの中身は殆ど無かったりする。せっかくだから、誰かに譲ろうかとも思ってるんだけど、今のところは保留中。
それより前から何人か近付いてきたわ。この盗賊団か何かのボスかしら?。




