0880・尾行者の後ろには?
Side:ノノ
今、我とファーダは尾行してきた奴等の近くに居る。透明な姿に変わっておるので奴等には見えていないし、気配、魔力、精神、生命、存在を隠蔽しているので見つかる事も無い。そもそもこの者どもに我らを見つける術などなかろう。
それはともかくとして、こやつらは別の宿に泊まっていたので、我らはその部屋に侵入して話を聞いておる。侵入方法? 小さなムカデになって隙間から入っただけだ。ドアに隙間があったのが運の尽きというところであろうな。
「ターゲットの泊まっている部屋は分かった。とはいえ……どうやって殺って逃げる? 殺す事は容易いが逃げるのが難しいぞ。だいたい金を渡せばどうにでもなる筈が、何故か宿の奴は断固として首を縦に振らねえ」
「他の奴等も変だ。何故か真面目なヤツばかりになっちまってる。前に住んでた奴等は居なくなったのかと思えば、顔は全く変わってねえ。となると同じヤツの筈なんだが、何故か真面目で融通が効かねえし……訳が分からねえ」
「問題はオレ達の仕事が出来るかどうかだ。真面目なヤツが増えたかは関係ねえ。で、実際にどうなんだ? 逃げるのが難しい以前に、まず宿に入れるのかよ?」
「それも難しいな。無理矢理に押し入れば入れるだろうが、侵入者として撃ってくる可能性がある。それにターゲットの部屋まで行って殺れても、他の部屋に泊まっている奴等が出てきて殺されるかもしれねえ」
「どうすんだ? オレたちゃ既に貴族様から前金貰ってるんだぞ。これで出来ませんなんて理由で戻ったら、オレ達が殺されっちまうじゃねえか。オレ達はターゲットを殺すしか道はねえんだぜ?」
「んな事は分かってる! オレだって分かってんだよ。予定通りなら何の問題も無かった筈だ。何でこんなに真面目なヤツばっかになってんだ? 本当に意味が分からねえ」
「ダンジョンマスターが泣き付いたらしいが、貴族様にとっちゃ大事な商売道具だからな。オレ達のような安い命を幾ら使い潰しても守らなきゃなんねえんだろうさ。クソッ、ここまでマズい仕事は初めてだぞ!」
やはりダンジョンマスターが絡んでおったか。ファーダと【念話】で話し、一斉に我と共に魅了の香りを触手で注入する。宿の部屋に居た5人は魅了状態になったので、我らは姿を現す。
「さて、お前達に問おう。誰に雇われてミク達を襲いに来た? そして背後に居るダンジョンマスターとは何処の誰だ。答えろ」
「オレ達に命じる形で依頼してきたのは、この辺りを治めるハブロンデル男爵だ。そしてその裏にはダンジョンマスターが居るんじゃねえかと思ってる。どうやらターゲットがダンジョンマスターを殺そうとしているらしい」
「おかしいな。前に尾行してきたヤツには「こちらに手を出さねば何もせん」、そう伝えさせた筈だぞ? その割には今度は命を狙いに来ているな?」
「すまないが、オレ達は聞いていないし知らない。「ダンジョンマスターを殺そうとしている奴等を殺せ」、そういう依頼だったので請けただけだ。報酬が高かったから請けたんだし、それ以外に理由は無い」
「ああ。そもそもダンジョンマスターが本当に男爵に泣き付いたのかも知らねえ。もしかしたら、ダンジョンマスターから話を聞いた男爵が勝手に殺そうとしたのかも……」
「成る程、その可能性もあるのか。ところで男爵は何処に住んでるんだ?」
「男爵は1南、東ガウトレア第1南町だ。つまりこの町から北に行った所にある町だな。あんまり変わり映えしない田舎だけど、男爵が住んでるんで面倒臭い町だよ。ま、オレ達の故郷なんで離れたりはしねえけどさ」
「男爵もそうだけど、息子と娘が面倒くせえんだよな。あいつら町中に出てきては、町の子供にちょっかい掛けやがる。今の男爵もオレ達がガキの頃に同じ事してやがったけどよ。平民のガキだからって銃口向けたりしやがるからな」
「弾は入ってねえっつったところで子供達には恐怖でしかねえっての。にも関わらず嬉しそうに銃口向けるんだから正気じゃねえよ。あいつらの一族は全員が頭おかしいぜ」
「そうか、分かった。とにかく俺が男爵とやらに言い含めておいてやるから、今日は寝て明日にでも第1南町に戻れ。その間に男爵には依頼そのものが失敗しても問題無いように説得しておく」
「本当か? 相手はお貴族様だぞ?」
「問題ない。お前達、俺が信じられないのか?」
「い、いや、そんな事はねえぜ。オレ達があんたを信じないなんてあり得ねえよ。確かにあんたが行くなら大丈夫だろうな。それじゃ、今日はもう寝ちまうか」
「そうだな。オレ達だって失敗扱いになって狙われたり、刺客を送られて殺されなきゃいいだけだからな。別に何がなんでも成功させなきゃいけない訳じゃねえ」
「ああ。もうさっさと寝ちまおう。失敗でもお咎め無しなら、いちいち危ない事はしたくねえ」
よしよし。男どもはベッドに寝転がったな。我らはさっさと部屋を出ると、男達はドアに鍵を掛ける。そして透明になり少し待つと寝たようなので、ファーダと我で善人にしておく。こいつらはそもそも悪人なのだから当然だがな。
それが終わったら我らは宿の外に出て鳥になり、北の町へと飛んで行く。第2南町の周辺の村は善人化したものの、町までは善人化していなかったのだ。しかし、そこまで急ぐ必要も無いと思ったからなのだが、甘かったか?。
そのような事を考えつつ第1南町へと着いた我らは、真っ直ぐに男爵の屋敷へと行く。まずは男爵をどうにかするしかないし、本当にダンジョンマスターが関わっているのかは分からんからな。
屋敷の屋根に降り立った我らは早速悪人を善人化していく。その中でも男爵らしき人物には手を出さず、他の家族や使用人の中に居る悪人を変えていくのだが、思っていたよりも悪人が多いぞ。
仕方なく2人で手分けして終わらせ、最後に男爵の寝室へと行く。妻の方には眠りの香りを、そして男爵には魅了の香りを注入する。その後に男爵を起こして話を聞くのだが、どんな話が出てくるのやら。
「男爵。お前は第2南町のハンターに対して殺人依頼を行っただろう? それは何故だ」
「……ああ、あの事か。アレならダンジョンマスターが茶飲み話の際に、レイスを葬る魔法を放つ者が居たと言っていてな。相手の事を調べさせたら、手を出してくるなと警告を受けたと聞いたのだ」
「それが何故殺人という依頼に繋がる? 意味が分からん。手を出してくるなと警告を受けただけだろう。あくまでも警告だけなのに、何故わざわざ殺人依頼など出した?」
「ダンジョンマスターを殺せるという事は、この領の収入源の1つであるダンジョンを好きに出来るという事だ。そんな脅しが出来る者自体、存在してはいかん。それがいつ脅しでなくなるか誰にも分からんのだからな」
「つまり脅しが脅しで無くなる前に、危険の目は摘むという事か?」
「その通りだ。当たり前の事だろう」
「当たり前と言えば当たり前だが、それが失敗したら脅しでは無くなると思わなかったのか? お前の失敗でダンジョンマスターが危険に晒されるとは………思わなかった訳だな?」
「あのようなゴロツキが失敗しようとも構わん。駄目なら騎兵団を差し向ければ済む。これから先の男爵家の為にも、危険の芽は確実に摘まねばならんのだ」
こいつは阿呆だな。こやつのやっている事は<藪を突付いて蛇を出す>ではないか。危険の芽を摘むと言いながら、余計に危険に晒しておる。己の頭が悪いとすら理解しておらんタイプだな。
やれやれ………。本当の意味で頭の悪い人間にありがちな行動か。




