0863・リョークスル帝国・旧侯爵領へ
Side:ミク
私達に対して悪意を向けていたのは、<無敵の鋼鉄団>の傭兵だった。何故そんな事をするのか、何故関わった事も無い私達に悪意を向けてきたのか。それが不思議だったけど、答えを聞いて納得した。
『どうやら<無敵の鋼鉄団>は近々動き出すつもりだったようですね。何処を攻めるかまでは下っ端だから知らなかったようですが、その際に邪魔になりそうな者を探る仕事をしていたようです』
私は宿の部屋から外に出つつ本体空間に居るレティーと話す。近くの悪人から順番に空間を超越して貪ると、レティーが更に脳から得た情報を語っていく。
『<無敵の鋼鉄団>はテモニー王国に居た<戦場のドラゴン>も探っていたようです。どうにかして戦力を増強する為に、大きな傭兵団は取り込みたかったようですね。駄目なら削って加えようと考えていたみたいです』
『そういえば、そんな奴等が居たっけ? で、そいつらといったいどう関わりがあるの?』
『<戦場のドラゴン>が壊滅した事を知った<無敵の鋼鉄団>は、我々を警戒しているようです。動き出す際に邪魔になる可能性がある。そう考えているみたいなのですが、私達の情報は<戦場のドラゴン>の<突撃槍>から手に入れたようです』
『<突撃槍>…………誰それ?』
『簡単に説明すると、ティアが両腕を切り落として焼いて放置した男です。【夢幻搾精】を使わずに戦ったようなのでスキルなどは漏れていないようですが、こちら側の強さはある程度知られていると見て間違いありません』
『ふーん。ついでにこっちを敵視している感じだし、ある意味でちょうどいいね。叩き潰しながら進むと逃げるかもしれないのが難点だけど、簡単には逃げないだろう。最悪はノノに見張っていてもらうしかないね』
『他にも<無敵の鋼鉄団>の者は居る筈なので、何か分かったら優先的に食べてお知らせします』
『うん、お願いね』
さて、<無敵の鋼鉄団>の一味だったという事と、近々動き出すのに私達が邪魔だという事は分かった。流石に狙いが帝都という事は無いだろう。前に軍に勝てたからといって、帝都に攻め込んで勝てると考えるほど阿呆じゃない筈だ。
だったら何処を狙うのか………違う違う。何処を狙うかなんてどうでもいいんだよ。重要なのは<無敵の鋼鉄団>の団長を逃がさずに始末する事だ。私達が帝都に居る事を向こうは知らないだろう。こっちに悪意を向けていたヤツはノノが喰ったし。
問題は日中に既に情報を送っていた場合だ。それをされていると情報が渡っている可能性がある。とはいえ、そこの詳細は不明だから考えたって仕方がない。<無敵の鋼鉄団>の連中がどれだけ居るかも分からないんだしね。
レティーに聞いても分からないし、そもそも喰ったヤツが全ての者を把握していたとは限っていない。なので暫定でしかない情報だ。それでもスラムに居るみたいなので、そっちはファーダに任せる。
私も混ざって帝都の悪人を喰らいつつ、急いで悪人を処分していく。出来るだけ明日には残したくないのだけど、流石に帝都ともなれば悪人の数も多く時間が掛かりそうだ。ノノが居るとはいえ、それでも2日は見た方がいいね。
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Side:シャルティア
帝都に来てから3日目。あたし達は帝都を出て西へと進んで行く。ここから先に進んで行き帝家直轄領を抜けると、<無敵の鋼鉄団>が奪った旧侯爵領へと出る。
ミクに聞いたけど近々何かの動きをするらしいし、そうなると結構な兵隊を動かすんだろう。そういう戦場になりそうな場所へとこれからあたし達は進む事になる。既にノノは先行して<無敵の鋼鉄団>の団長を見張っているらしい。
当然といえば当然で、あたし達は旧侯爵家の者であろう死んじまったヤツの復讐を請け負ってる。それを果たす為にも行かなきゃいけないし、復讐相手を逃がす訳にはいかない。確実に息の根を止めないとねえ。
だからこそ逃げられたら困るっていうのと、だからこそミクはノノを先行して派遣したんだけど……。
「こう、せっかくのモフモフが居なくなると、急に手持ち無沙汰になるわねえ。いつもならモフモフしてたのに、ノノが居ない所為で何かイマイチ……」
「そもそも最近ですよ、ノノが加入したのは。さも今まで当たり前に居たというような言い方をしていますけど、居なかった方が長いですからね?」
「それは分かってるんだけどねえ……。ノノの毛って結構長いのに、ミクと同じく肉の一部だからか抜けたりしないのよ。ついでにいつでもサラサラで綺麗だし。あの手触りが無いと手の持っていきどころが、こう……」
何かモフモフに依存しているみたいで、何と言って良いか分からないよ。そこまでハマるものかと言いたくなるけど、確かに手触りは凄く良いんだよねえ……。きっとあれもワザとなんだろうけどさ。
それよりも、そろそろ町に着きそうだから周囲を確認するか。場合によってはここにも<無敵の鋼鉄団>の傭兵が居るかもしれないからね。まだ帝家直轄領とはいえ油断は出来ない。
今回は特に気を引き締めないといけない。なぜなら1000人単位の傭兵団であり、今までとは違って数が多い。そのうえ向こうはこっちを認識している。今の状態で既に色々と不利な条件が重なっちまってるんだよ。
それでも負ける事は無いだろうけど、誰かが傷付く恐れはある。なので早めに対処するのが肝要だ。それはあたしの役目だろうし、気合い入れて頑張るとするか。
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Side:ノノ
我は<無敵の鋼鉄団>が居座っている町に来ており、既に<無敵の鋼鉄団>の団長も把握している。というより、今は執務室で仕事をしているが、我はその部屋の中に普通に居て監視中だ。バレてもいない。
まあ、いつもの猫の姿ではなく透明ムカデの姿なので、小さい上に目で見える事はあるまい。よほど特殊なスキルでも持っていれば見えるだろうが、そんなものでも無ければ見る事は不可能だ。
とにかく1日中ずっと見張っておれば良い訳だから、我にとって難しい事でも何でもない。それはともかく、この男どう考えても……。
「失礼します。団長、資料をお持ちしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ。それと、各村における生育状況は? 芋を増やさせたけど、それに対する反発は?」
「各村における生育状況は概ね良好です。団長の言っていた肥料? というのが効果を挙げているようですね。それと芋に対する反発は根強くあります。とはいえ、小麦よりも出来やすいので助かってもいるようですが……」
「そうか。小麦は売れるから作りたい気持ちは分かる。とはいえ、まずは村人が食える事が先だ。唯でさえこの国は小麦に対する税率が高い。芋なんて貧民の食い物だからか税が驚くほど安いしね。これを奨励しない理由は無い。んだけど……」
「どうも今まで小麦を作っていたので、これからも小麦を作りたいという思いが強いようです。というより、他の物を作って失敗するのが怖いという事でしょう」
「小麦でも年によっては失敗するし、税で7割も持っていかれるんだけどね? それでも今まで作っていたという理由だけで小麦かー……。先は長そうだな」
「団長が侯爵家を攻め滅ぼすと言った時には何事かと思いましたけど、あそこまで侯爵家の内情が酷いとは思いませんでした。民に対してやりたい放題していましたしね。あれなら団長が討つと言われても納得です」
「本当に酷かったからね。小麦の税率を勝手に8割にして1割分中抜きしてたし、芋でさえ5割も取っていた。元々聞いてたけど、あの帳簿を見た時には狂ってると思ったよ。あれでは緩やかに破滅していくだけだ」
「前の当主が病気で急逝した為、叔父に代替わりして5年でしたか? 自分が当主になったら、いきなりですからね。周りに唆されたのか、それとも先も読めないマヌケだったのか。どのみち団長が泥を被らなければ破滅していたでしょう。おっと、私もまだまだ仕事があるので失礼します」
「ああ、そっちも頑張ってくれ」
部下を見送り扉が閉まった後、団長と言われた男は溜息を吐きながら茶を飲む。カップを下ろした後で口からつい出てしまったようだ。
「どこで失敗したかな? <無敵の鋼鉄団>を作った時か、それとも正義感を出して侯爵領を奪おうと決めた時か……。余計な事をするんじゃなかったとしか思えないな。たとえ古臭い国だからといって、元大学生には荷が重いよ」
やはり転移者か。黒髪黒目な挙句に〝人間〟などおかしいと思ったのだ。




