0862・リョークスル帝国・帝都
Side:テイメリア・フェルス・ゴールダーム
辺境伯領の町で多少の情報を手に入れた私達は、中央である帝都を迂回しつつ進んで行きました。今は帝都目前ですが、ここまで来るのに15日ほど掛かっています。理由は帝都から真っ直ぐ西に<無敵の鋼鉄団>が奪った元侯爵領があるから。
ミクが連中を皆殺しにするのは最後にすると決めた為、それ以外の場所の悪人を始末していたのです。中には傭兵に対して特に気にしない領地もあり、全ての村や町が傭兵嫌いではないと分かっています。
誰でもそうですが、冷静に考えてみれば自分達の生活を助けてくれている者達です。居なくなられると困るという事情もあり、正直に言えば侯爵領は可哀想だけど……という感じでしたね。
自分達に災禍が降りかかっていないのに、勝手に敵視して出て行かれても困るという事です。辺境伯領の町の反応は、リョークスル帝国の中でも相当に厳しい方の反応でした。おそらく外から来た傭兵なので余計に警戒されたのだと思います。
帝都がどうなっているかは分かりませんが、おそらくそこまで酷い反応ではないでしょう。むしろ傭兵団に乗っ取られた領地を取り戻せなかったという、軍に対する風当たりも厳しいものがありましたし。
とはいえ国民の側に立ってみると、そんな実力しかない軍で本当に大丈夫なのか? と不安になるのは分かります。しかし国側が屈辱的とはいえ認めたのですから、今は<無敵の鋼鉄団>をどうこうする事は出来ません。
今度は国として約束を違えるのかという話になりますし、それをすると国家として少なくないダメージを受けてしまいます。何と言っても約定を守らない国家など何をしてくるか分からないのですから、他の貴族達も疑心暗鬼に陥るでしょう。
そうなれば喜ぶのは<無敵の鋼鉄団>です。他の領地欲しさに攻め入るでしょう。彼らは暴力で領地を奪う事に成功している以上、また同じ事をする可能性は高いのです。一度でも成功体験を得ると、同じ事を繰り返してしまう。そしてそれは止めようがありません。
「戦争でも同じさ。一度大勝すると、すぐに同じ戦法で勝とうとする奴が出てくるんだ。その時たまたま上手くいっただけだという事を忘れてね。一度成功体験で味を占めたヤツは必ず同じ事をやらかすよ。断言したっていい」
「そこまでなんですね。成功は1回だけで次は無理だ。そう考える人って居ないんですか? 全員が全員そうじゃないと思うんですけど……」
「もちろんマハルが言うようなヤツは居る。成功体験がチラついても振り切れるヤツはね。でも、部下達は分からないよ? 果たして成功体験という甘い蜜に耐えられるかと言ったら……」
「無理ね。下っ端になればなる程に不満は燻る。次も成功したら自分達はもっと良い思いが出来るとなれば、抑える事は不可能でしょうね。成功体験というのは大きければ大きいほど、その後は足を引っ張る事になるのよ」
「アレッサの言う通りで、あたしも随分と苦労させられたもんだ。だからこそ大勝を目指しちゃいけない。出来るだけ被害を少なくして勝つ。普通に勝つという事が何より重要になってくる」
「戦いに勝利するとは、次の戦いの準備を始めるという事。その勝ち方によっては次の戦いの重荷にしかならない。だから次の戦いの為にも普通に勝つという程度で抑えておく必要がある」
帝都の入り口まで来ていたので順番を待っていましたが、先ほどお金を支払い終わったので中に入ります。帝都の門番は私達に対して厳しい視線も向けてきませんでした。いつも通りの視線はありましたが、それぐらいです。
そもそも獣人種ではないので、人間の姿は彼らにとって魅力的には映りません。にも関わらず、何故か私だけはそういう視線を向けられるのです。ミクが言うには、おそらく【魅惑ノ肢体】が影響しているのだろうとの事。
アルファ・サキュバスとして、全ての種族を魅了する事が出来る様になっているのではないか? と言っていましたが……。種族が違っているのですからスルーしていただきたいところです。
「それは無理じゃないかい? そもそもチラチラ見られるのは今に始まった事じゃないだろうし、王族の所作をしてりゃ見られるんだから、特殊能力は関係なく見られるだろうに」
「……そうだったのですか?」
「子供の頃から散々仕込まれたものが無くなる筈がないでしょ。明らかに平民とは違う所作なんだから、見られるに決まってるじゃん。唯でさえ元々【所作】っていうスキルも持ってたんだしさ」
「【舞踊】もあったから、そっちの影響も受けてると思うよ。立ち姿とか動き方とかが優雅に見える形で動いているしね。特に見る者が見ればバレるし、平民でも隠しているけど貴族だろうと思うぐらいには違うから」
「そこまでバレてたら特殊能力なんて関係なくジロジロ見られるのは仕方ないんじゃない? 貴族がお忍びで旅をしているとか、そんな感じに受け取られたのかもしれないしさ」
「ん~………」
「悩んだって無駄だよ。今さら体に染み付いたものを無くせる筈がないんだし、そんな事をしても意味は無いからね。そのままで居るしかないよ。それに注目されるのは慣れてるだろうに」
「それはまあ、慣れていますけど……。私だけが注目されるのは何故? という思いがあったのです。ですが、それが所作から来ているとなれば仕方がないと諦められる……でしょう。おそらく」
「まあ、持たされた能力で注目を浴びるのは腹立たしかったんでしょう。自分が欲した訳でもないのにって感じでさ。でも自分が身につけたものが原因なら、流石に諦めるしかないもんねえ」
「そうですね。それを捨てる気もありませんし、思い出もあります。なので今までよりはストレスを感じなくて済むでしょう」
宿へと移動し3人部屋を2つとった私達は、いつものように部屋で適当な雑談をしています。今は午後ですが、夕方までは時間がありますからね。やる事はあまり多くありません。ゆっくりと休むぐらいです。
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Side:ミク
いつも通りに酒場で食事をし、酔っ払ったロフェルを連れて宿へと戻る。適当にベッドの上に寝かせ、ファーダとノノを先行させた。私は多少部屋の中で過ごしてから外に出るのだが、これは宿の従業員などが敵の場合に備えてだ。
特に危険な町などではノノを向こうの部屋に居させるんだけど、帝都では妙な視線も無かったし大丈夫だろうと思う。それにノノは宿の近くから喰っているので、時間を置くほどに安全になっていく筈だ。
ファーダはいつも通りにスラムから始めているが、ここのスラムも風俗街になっている。とはいえ最早慣れたもので、今までのようなストレスは感じていない。空間を超えて食べている事も理由にあるんだと思うけどね。
そんな中、そろそろ問題ないかと思い動き出すと。こちらに悪意を向けてくるヤツが現れた。何故かは分からないうえ、急に現れたので少々驚く。とはいえノノがすぐに遠隔で貪ったのでもう居ないが……。
後でレティーに聞けば分かるとはいえ不思議な感じもするし、ちょっと早めに情報を探ってもらおうか。
『そう思いさっさと食べて精査しましたが、どうやら<無敵の鋼鉄団>の者だったようです。この帝都には<無敵の鋼鉄団>の者達が居て、情報を送っているようですね。他にも色々と暗躍しています』
こっちに悪意を持っていたのが、<無敵の鋼鉄団>ねえ。何でピンポイントで私達に悪意をぶつけてくるのやら? 今まで関わった事も無いのにさ。




