0082・ゴールダームに帰還
ミクがヴェスに持たせたのは、作ってやったワイバーン素材の短剣3本に、ワイバーンの牙と骨で作ったメイス。そしてワイバーンの皮を3重に貼ったラウンドシールドだ。
ワイバーンの肉体を手に入れたヴェスは、元の体と比べて3倍以上のパワーを手に入れている。そのうえで【身体強化】も使え、前の肉体よりも魔力量が多いのだ。並の武器では壊れてしまう。
結局、ミクと同じように耐久力優先の武器にせざるを得ないのだった。
「まさかパワーが有り過ぎて困る事になるなんてねえ……。かつてのあたしに話したら鼻で笑うだろうけど、今はこれが事実なんだよ。凄い体だけど、妊娠はできないし老化もしないっていう訳の分からない体だから、当然の事なのかね?」
「老化しないだけだから、病気や怪我が原因で死ぬ事はあるけどね。可能性としては病気の方が高いかな? ワイバーンの体は人間種の体より頑強だから、内側からの方がダメージを受けやすい。気をつけた方がいいよ」
「元々は長命だけど人間種だよ? ケガや病気には人一倍気をつけてきたさ。まあ、ミクからしたら足りないんだろうけどねえ」
「それにしても面影がまるでない姿になるとは思わなかったよ。面影として残ってるのは頭部の狼耳だけだね、他は別人だ。それはともかく、そろそろゴールダームに到着するけど、新しい名前は決めた?」
「新しい名前……これからその名前で生きていくんだし、変なのは困る。それに今までと似たのじゃ勘繰るヤツも出かねない。………仕方ない、シャルティアと名乗ろう。あたしの子供に付ける筈だった名さ」
「子供に付ける筈だった……?」
「死んだり、流産した訳じゃないよ。あたしは長命種だから子供が出来にくい。出来た子供は2人で、両方男だったのさ。つまり女の子の名前を用意してたんだけど、使わなくてね。その名前がシャルティアなんだ」
「ふーん、じゃあシャルだね。っと、そろそろ門が近いから普通に入ろうか」
ミクは門番に挨拶しつつ登録証を出し、ヴェスことシャルはお金を払って門を通過した。ミクはシャルのアイテムバッグに大銅貨100枚と小銀貨50枚を入れており、後は自分でお金を稼ぐように言っている。
「とりあえず、まずはイリュの所に行って部屋のとり直しだね。一月分は払ったけど終わってるだろうし、終わってなくても新しくとり直そう。シャルも自分で契約するようにね」
「言われなくても自分の事は自分でしてきたから大丈夫さ。それよりも<鮮血の女王>の下で世話になるってのも、奇妙な話だ」
「そういえば聞いてないんだけど、そのイリュの二つ名はなに?」
「知らないのかい? スラムの裏組織や闇ギルドの連中を皆殺しにしてきた絶世の美女。それが<鮮血の女王>さ。本人を知っている者は殆どいないけど、あたしはその一人なんだよ。かつて戦闘になって逃げたからね」
「貴女が乱入してきた挙句、勝手に逃げてっただけでしょうが」
<妖精の洞>のカウンターには、ぶすっとした顔のイリュが頬杖をついていた。そんなイリュは話し方とミクが居る事で、何となく褐色肌の美女が誰か理解したらしい。
「<雪原の餓狼>が、また随分な変装をしてるじゃない? いったい何があれば、そんな変装をする羽目になるのかしらねー……」
「一応言っておくけど、あたしはもう<雪原の餓狼>じゃないよ。スヴェストラ・オルネイ・カロンヴォルフは死んだんだ。王都フィラーで近衛騎士団に殺されたよ」
「はぁ? ………えっ、冗談じゃなくて本気?」
「本気も本気、唯の事実さ。おっと一ヶ月一人部屋だけど、幾らだい?」
「ミクと同じ1100ゼムよ……小銀貨11枚ね、まいどー。……いや! そうじゃなくて! 死んだってどういう事よ?」
「どういう事も何も、死は死だろ。それ以上も、それ以下も無いよ。まあ、最後はミクに首を切り落とされたけどね」
「ああ、怒らせたんだ。バカねー、やりたい事があったのかもしれないけど、死んだって逃げられないっていうのに……」
「本当に逃げられないとは思わなかったんだよ。まさか体を作って、そこに首をくっ付けられるなんて、誰も想像さえしないさ」
「………」
流石のイリュも呆然としていた。まさか目の前に居る<雪原の餓狼>が、首を落とされて体をすげ替えられたなんて、想像を超え過ぎている。意味が分からずに呆然としていると、ミクが食堂に行く事を提案。
朝だったので、食事という建前を行いたかったミクは、2人を連れて食堂へと移動させる。なお、カウンターには別の従業員が入った。
3人が注文をし、ミクが小銀貨1枚で3人分支払うと、朝食を待ちつつ口を開く。
「まず1つずつ話していこう。まずは国境の町で代官を食べた後、次の村とその次の町の間で盗賊団を潰した。ウェストライダ家とかいう家の奴っぽかったけど、これはどうでもいい」
「いやいや、どうでもいい訳ないでしょ。ウェストライダ家っていえば、テリオルヴ家と似たような形で裏切られた家じゃない。何年前か忘れたけど」
「だいたい200年ぐらい前だよ。本当に碌な事をしない奴等ばっかりさ」
「で、その後は王都への道上にある村や町で、腐った代官や貴族を喰いながら移動。王都へと着いた」
「で、王都でも出来る限り早く喰ってもらわなきゃいけない貴族を、ミクに言って喰ってもらった訳だ。とにかく国にとって邪魔な奴等を潰しておかないと、奴等は国を腐らせ続ける」
「まあ、気持ちは分からなくもないわね。人間種って本当に腐ってる奴等ばっかりだし」
「そういえばシャルってフィグレイオの王が暗愚じゃないのを知ってたんだよね? その割には何であんな強引な手段をとったの? まあ、あんなっていうか、私を使う事だけど……」
「このチャンスを使わなきゃ次は無いって思ったからだね。だからこそミクに喰われる覚悟でやったのさ。本来ならあたしはミクに食われて死ぬ筈だったんだよ。予想以上に王と宰相が強引に動いた結果、ああなっちまったけど」
「成る程、シャルにとっても想定外だった訳ね。急に事態が動いたから、おかしいと思ったんだよ」
「どういう事?」
「まあまあ、聞いてりゃ分かるさ。で、王都で喰ってもらった次の日から、表の依頼であるダンジョン攻略に乗り出してもらった。その後は順調にダンジョンを攻略して、3日目か4日目に80階の攻略を達成。ワイバーンを持って帰ってきた」
「いやいや、ワイバーンって……と思ったけど、ミクなら楽勝か」
「楽勝すぎて、深夜に12回ぐらい殺してきたよ。おかげでワイバーンの素材は大量にある。シャルが着ているジャケットもワイバーンの皮だね」
「………あ、頭が痛い。っていうか、シャルってなに?」
「あたしの名前さ。こうなった以上、元の名前は使えないからね。だからシャルティアって名乗る事にしたんだよ。ちなみに娘が生まれてたら付ける筈だった名前」
「ふーん、分かった。私もシャルと呼ぶ事にするから、私の事もイリュって呼びなさい。古い二つ名の方で呼ばないようにね」
「分かった。あたしも二つ名はあまり好きじゃないからね、気持ちはよく分かるさ」
「で、話の続きだけど、ちょっと端折ったから戻すと、2日目の夜にも貴族を喰ったんだ。でも、それ以降は目を付けられたとかで、一旦止めてそれっきりだったよ」
「それ以上は、確実だと言える程の証言や証拠が無かったんだよ。あたしだって気に入らないっていうだけで喰う相手を指定した訳じゃないよ」
そりゃそうでしょ。そう思いつつ、黙って聞いているイリュであった。




