0855・リョージア王国
Side:テイメリア・フェルス・ゴールダーム
私達がパルオード国に入ってから一ヶ月。非常にゆっくりとこの国を移動しつつ、束の間の休暇のように楽しんでいました。海の近くで漁に参加したり釣りを楽しんだり、長く楽しんでいたものの、流石にそろそろ終わろうかとなりました。
色々な町の悪人はミクとファーダが食い荒らしましたが、その数は非常に少なかったそうです。そういう意味ではパルオードは素晴らしい国だったと言えるでしょう。しかし流石にこれ以上は留まっていられません。
なのでボンクル国の王都付近へとミクが【転移】し、そこから東へと行く事になりました。ちなみにパルオード国から北には国がありません。土地はあるのですが、冬には大量の雪が降る寒い場所であり作物も碌に育たない為、わざわざ開拓はされていないそうです。
住むのに大変な土地なうえ、そもそもパルオード国に住めば済むのでしょう。人が溢れてもいないのに、わざわざ住むのに大変な場所を開拓しよう等とは思わないものです。なので私達も調べようとは思いませんでした。
自然が広がっているだけなのであれば、そこに悪〝人〟は居ないのですから、わざわざ私達が行く意味もありません。なので戻った訳ですね。
一ヶ月ぶりに戻ったボンクル国は未だに混乱しているようでしたが、私達には関わりの無い事でしかありません。なのでスルーして東へと抜け、12日掛けて新たな国へと入りました。
ボンクル国は東に長い国土だったようで、次の国に入るのに時間が掛かりましたが、その分だけミクとファーダは様々な悪人を喰う事が出来たようです。
ボンクル国の東にあるのはサリーダ王国というそうですが、ここはちょこちょこと名前が変わっているらしく、次はどんな名前になるのか分からないと国境の町の住民が笑っています。
「前は何つったかなぁ……んー………すまねえ、思い出せねえわ。何とかっつー名前だったけど、今はサリーダ王国っつう名前になってるな。とはいえオレ達みたいな平民には何の関係もねえよ。上が変わろうがオレ達には関わりねえし、持っていかれる税も大して変わんねえからさ」
「国が変わっても根幹が変わらないから据え置きなんでしょうね。変えると面倒という事情もありそうですけど……」
「そんな難しい事は分かんねえけど、何かあったら争うのだけは止めてほしいもんだ。オレの知りあいも傭兵で稼ぐんだと町を出て行っちまったけど、何処で何してるのかも分からねえ。死んじまったかどうかも不明だ」
「そういうのは大抵死んでるわね。極々たまに生きて帰ってきたって聞くけど、大半は亡くなってたって聞くわ。あんまり言っちゃいけないんでしょうけどね」
「いやー、そうやってハッキリ言ってもらった方が助かる。もう何年も前だったし、いきなり傭兵になるって言って町を出てったからなぁ。何でも有名な傭兵団に入れてもらったそうだけど、その傭兵団の名前は聞かなかったんで分からねえんだ」
「それじゃ無事かどうかも不明ねえ」
町の人から色々と聞いていますが、町の方は基本的に国に対して無関心です。ころころと変わってしまう国に愛着を持つのは難しいのでしょう。国は国、民は民。そのような形になってしまっており、両者が隔絶している気がします。
何とも歪なような気がしますが、国がどうなろうと民は変わらないと言った感じでしょうか? ……やっぱり何度考えても歪なような気がします。正しい国の体を為していないような?。
まあ、それぞれの場所に様々なあり方があるのでしょう。私達がそこまで深く関わる必要も無いですし、この国もそこまで戦火に巻き込まれたりはしない感じです。民の方が冷めているみたいですしね。
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Side:マハル
サリーダ王国の東にあるトルウェル国を東に行くと、そこはテモニー王国でした。なのでボク達はトルウェル国に戻り、そこから北へと行きます。その国はリョージア王国。リョーク大帝国の後継を名乗っているそうですが、そんな国は沢山あるそうで、その1つとなります。
どうやらここからは本当の戦国乱世みたいで、そもそもこの国の王はリョーク大帝国では高位貴族だったと聞きました。だから正統性があると謳っているそうですが、そもそも高位貴族程度に正統性は無いでしょう。
あるなら皇族などになるでしょうが、貴族では有象無象の1人にしかなりません。それはともかくとして、「この国は荒れているから行くのを止めた方が良い」。そう助言を受けたくらいなのですが、むしろボク達としては荒れているから行くんだという感じですね。
今はリョージア王国の辺境の町に居ますが、どうも辺境伯領じゃないみたいです。聞いたところ、リョージア王国を建国する際に力を貸した者に与えたそうですが、能力があるかどうかで決めた訳ではないようで……。
「ここからは早く離れた方が良い。税は重いし好き勝手な事を貴族がしてる。町の女を連れ去ったりとかメチャクチャだ。まともな貴族でもねえから早く離れろ。じゃないとお前さんらも無理矢理に連れて行かれるぞ」
「分かった。情報感謝する」
ミクさんが小銀貨を渡すと、男性は受け取ってそそくさと何処かへ行ってしまいました。ボク達はすぐに移動を開始し、この町のスラムへと逃げ込みます。荒れている国では、むしろスラムの方が身を守れる可能性が高いんですよね。
兵士や騎士が悪行を為していると面倒な為、最初の1日目はスラムで寝泊りした方が安全なんです。その間にファーダさんが喰らってしまえば、それ以降は安全になりますので良いのですが、最初の1日目が大変なんですよね。
そんな事を思いつつ、ボク達はスラムの適当な建物に入って休憩をとり、その間にファーダさんがスラムの掃除を始めました。起きている者達も多いですが、一瞬で消えていくので昼間でも問題無いようですね。
「荒れている国だとスラムの方が安全っていうのも皮肉よね。正直に言って表が荒れすぎているから、裏の連中の方が秩序があるんだもの。表と裏が逆転してしまっているじゃない。どれだけ情けないか理解していないのかしら?」
「表が盗賊だと考えれば、理解がどうこう以前の話だと思うよ? そもそも盗賊が表を闊歩してるんだから、その時点でまともじゃないだろ。スラムの奴等は自分達の流儀に五月蝿いから、その流儀が秩序になってるんだよ」
「法が働いておらず、好き勝手をしているのが当たり前となっているのでしょうね。頻繁には争いも行っていない感じですし、本当に大陸中央部は荒れているのでしょうか? もしかして別の意味で荒れているのでは?」
「まともな秩序が無いという意味で荒れてる? それとも人心が乱れているという意味かしら? どのみち荒れている事に変わりはないけれど……」
「リョーク大帝国が崩壊して30年以上だろ? ある程度の形にはなってしまってるんじゃないかい? こうなるまでにどれぐらいの血が流れたかは知らないけどね」
「それよりもさ。不思議なんだけど、この国は本当に荒れているのかしら? もちろん戦争的な意味でよ」
「どういう事ですか?」
「私この国が荒れているような気がしないのよね。30年ってさっき言ってたけど、その30年で中央部では粗方の勢力圏が決まったんじゃないかと思うのよ。つまり版図が固まったって感じ?」
「はあ……。それは先ほどシャルが言っていましたけど?」
「だからさ、戦争で考えると、むしろ大陸の外側に波及していったんじゃないかって思うのよ。私達この大陸に来て立て続けに戦争に巻き込まれてたけど、それは中央部が終わったから外側に影響が出てたんじゃない? って事」
「つまり良いか悪いかは別にして、中央部はある程度固まってしまったので外側に飛び火し、それに私達は巻きこまれていたと?」
「そうそう、そういうこと!」
そうか、その可能性もあるんだなぁ。確かに30年って長いし、そこまで戦争を続けてたりしないか。




