0852・ボンクル王国男爵領
Side:ロフェル
昨夜この町の悪人を食い荒らしたミクいわく、またもや貴族が悪人だったらしい。ただし今回は商人の不正を見逃して賄賂を受け取っていただけだったそうだ。いや、〝だけ〟って言っていい事じゃないんだけど、辺境伯に比べれば遥かにマシだと言える。
単に不正に安く買い叩いているのを見逃す代わりに賄賂を受け取っていただけだしねえ。もちろんそれで苦しむ農民が居るんだけど、私の元居た村もそうなんだよ。そうやって安く買い叩かれる農民なんて普通だし、よくある事でしかない。
違法な奴隷売買に比べれば遥かに小さい悪行だし、バカな事をしたっていう笑い話で済むくらいだよ。悪質度があまりにも違いすぎる。辺境伯の方は許されざる悪行で、子爵は小悪党ぐらい違う。もちろん小悪党でも悪は悪だから喰われるんだけど。
宿を出て朝食を食べた私達は出発し、次の町へと移動していく。途中の村の近くででファーダを出したらしいけど、その村にも悪人はそれなりに居るみたいだ。次はまともな貴族の治める町だったら良いんだけど、果たしてどうなるのやら。
…
……
………
次の町を治めているのは男爵らしい。ここもあまり治安が良くないのか、私達を妙な目で見てくる奴等が居る。ミクとファーダに今夜喰われるとはいえ、居心地の良いものではない。なのでさっさと宿に移動した私達は、3人部屋で一息吐く。
「この町も辺境伯の町と同じくらい悪人が多そうね。ジロジロとあからさまに下卑た視線を向けてきていたわ。アレで相手に気付かれていないとでも思ってるのかしら。考えている事が丸分かりな視線じゃない!」
「まあまあ。どうせ夜には居なくなる連中ですし、ここは抑えて下さい。それにしても治安が悪い国ですけど、これはどう考えても元々からですよね。最初のデジム王国が一番マシというのは何なんでしょうか?」
「あそこも中抜きしてる連中が居たけど、バレたら騎士と兵士に追いかけられていたし、悪行が当たり前って感じじゃなかったものね。そう考えれば、確かにデジム王国が一番良かったと言えるかな」
「一番良かったというか、一番まともというか……。ま、とりあえず今日で悪人は消えるから、気にする事は無いよ。どのみち何も出来ないだろうしね。白昼堂々と下らない事をするなら、威圧して黙らせれば済む」
「威圧で問題を起こさせなければ貴族も絡んでは来ないでしょうし、それなら余計な揉め事も無くて済むわね。どうせ今日までの命なんだし、忘れてしまえばいいだけか」
「ええ。実際、本当に今日までの命ですからね。それ以上は生きられない連中です。さっさと忘れてしまえばいいんですよ、覚える価値も考える価値も無いですし」
そうなんだけど、マハルって良い方がキツい時があるのよねえ。リンチを受けた時の事を未だに根に持ってるというか、そういう事をやりそうな奴等には冷酷になる。分からなくはないんだけど、本人が無自覚なのが何とも……。
ま、私もいちいち言わないし、むしろ同情的な方が面倒だから口には出さないんだけどね。
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Side:ファーダ
夕食も終わった夜。俺は宿の部屋を出てすぐ、外に集まっている愚か者どもを食い荒らしていく。バカな奴等が出てくるのはいつもの事だが、それにしてもこの国では多いと思う。特に何処かから攻められているという事も無いので、戦争関連は無いんだが……。
これが代わりかと言いたくなるぐらいには犯罪者が多く、別の意味で大変だ。幾ら俺達の食い物とはいえ、ここまで大量だと面倒になってくる。だからこそ現在【掌握】を使いながら空間ごと食い荒らしているのだが、慣れるまでは大変だな。これも。
【掌握】で確認し、悪の魂だと分かったら喰う。いちいち確認せねばならんが、侵入する手間を考えればマシか。それと慣れてくればもっと速く出来るだろうし、もっと速く喰えるだろう。そこまで苦労をする事でも無い。
問題は隠蔽しているとはいえ、魔力を使用している事を勘付かれる可能性がある事か。少なくとも俺から魔力は発されているので、隠蔽を突破できる者なら気付くのは確実だ。ただし俺は見えないだろうから、何も無い空間から魔力が出ているように見えるんだがな。
それはそれで奇妙というか、気付いた奴を引き寄せてしまう可能性があるので悩ましいところだ。面倒臭さをとるか、それとも隠れる事をとるか。
どっちにしたところで、一長一短がある事を理解したうえで使えばいいだけだな。どちらも使えると考えれば悪い事では無いのだし。
さて、スラムの大半を動かずに貪り喰った訳だが、動いていない分だけ早かったようだ。やはり侵入する形は時間が掛かり過ぎるな。これからは動かずに喰う方法に切り替えるか。
ミクの方も町中の殆どは終わったらしい。俺もスラムが全て終わったら合流しよう。どうもここの貴族の家にも悪人が結構居るみたいだからな。どれだけ腐っている国なんだ、まったく。
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Side:マハル
ボク達は男爵の町を出発してから話し合いをしていますが、あの男爵は酷かったようです。子爵は不正を見逃していた程度でしたが、先程の町の男爵は不当な重税を課していたようで、払えないと奴隷にして売り飛ばすような人物でした。
「流石にこの国って腐りすぎてない? 幾らなんでも中央の統制が効いて無さ過ぎでしょ! メチャクチャな連中ばかりじゃない」
「でもゴブルン王国でも重税かけてたバカが居たしねえ。その割には第3王子がクソだっただけで、王や他の王子は問題なかったけど」
「ワルドー伯爵ね。公爵が上で色々とやっていたけど、重税をかけていたのは伯爵だったわ。とはいえゴブルン王国でも違法な奴隷売買は無かったと思う。そんな事があれば噂として拡がる筈だけど、聞いた事も無かったし」
「流石に違法な奴隷売買って完全に悪党がやる事ですから、普通はそこまでの事をやったりはしないと思います。まあ、普通ではないから違法奴隷売買なんかに手を染めるんでしょうけど……」
「そうでしょうね。闇ギルドの連中がやるならまだしも、辺境伯という上級貴族がやる事じゃないわよ。どう考えても完全無欠の犯罪でしょうに」
「とにかく、この国を見て回らない事には何とも言えません。噂を集めたのとレティーからの情報では、特に戦争に負けてから酷くなったと聞きます。第3王子は然程優れた人物ではなかった筈ですが、それでも悲しみに暮れているのかもしれません」
「だからといって、一国の王が悲しみに暮れていて何も手に付かない何て事があっていい訳じゃないんだけどねえ。もちろん駄目な子ほど可愛いという言葉もあるけれど、それでも一国の王だろうに」
「それか、その間隙を縫って好き勝手をしている者が居るかでしょうね。それも高位の者でないと王の耳を塞いだり出来ませんので、かなり上の者だと思います。宰相クラスなら簡単でしょう」
「確かに出来るだろうけど、流石に犯罪貴族ばかりだと国が傾きそうだけどね? それぐらい分からなければ宰相はやれないよ?」
「その宰相が隣国のスパイとかだったら笑うけどね。<埋伏の毒>っていうんだっけ? ガイアで聞いたけど、そういう計略? 策みたいなのがあった筈よ」
「ああ、そういやそんなのあったねえ。……でも、その毒がどうやったら宰相になるんだい? 流石に無理だろう、どう考えても」
「そこまでは何ともねえ、ただ言ってみただけだし。でも<事実は小説より奇なり>っていう言葉もあった筈だから、現実に起こり得るかもね。間者が宰相をやってるって事がさ」
「そこまで優秀な奴なら普通は自国で使うけど……確かにアレッサの言う通り、現実には何が起こるか分からないから、色んな可能性を考えておくべきかね?」
「そもそもなんだけど、そこを想像する意味は無いよ? 私達が解決してやる訳じゃないし。暇潰しで想像するなら良いけどね」
確かによく考えたら、ボク達のやる事はボンクル国を通るだけでしたね。




