0081・肉塊を謀った者
「ハハハハハハ! まだまだ足りないねえ! あたしを殺したいなら、もっと連れてきな!! 纏めて道連れにしてやるよ!」
「怖れるな、皆の者! 素早く包囲せよ! どんな達人でも一斉に攻撃されれば勝てぬ! 周りを囲み、一気に決着をつける!!」
「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」
命令通りヴェスの周りを囲む騎士達。煌びやかな鎧を着ている事から、おそらくは近衛騎士だと思われる。そんな騎士に囲まれながら、ヴェスは一人で戦っていた。ミクが確認したところ、殆どの使用人は居なくなっており、反応が一切無い。
元から計画的だったのか、それともヴェスが逃がしたのか、その辺りは分からなかった。分かるのは使用人が居ない事だけである。
「それにしても、あたしの家の使用人が既に抱きこまれてたなんてね! あんた達もやるようになったじゃないか! まあ、宰相が裏で糸を引いてたんだろうけどさ!!」
「スヴェストラ将軍! 貴女がやった事は決して許されぬ事だ! 法を守り秩序を維持せねばならぬ軍の要職にある身で暗殺を謀るなど!」
「だったら何だい? これから先も国を腐らせる毒虫どもを生かし続けるのかい? そりゃあ素晴らしい正義だ! 素晴らしすぎて反吐が出るねえ!!」
「何ですと!? 我らの職務を侮辱する気か!!」
「だったら答えな! お前達がやってきた事で、どう国が良くなってきた? 誰を救えた? お前達の正義とやらで国が良くなったのかい? 今すぐ答えな!!!」
「………」
「そうだろうが!! お前達のやった事は何もしない事だ! 法を守るとは名ばかりの、何もしない事をお前達は選んできたんだよ!! その結果が腐っていく国だ!! お前達の正義が作ったのは、腐った国なんだよ!!」
「………だが! それでも我々は貴女のやり方を認める訳にはいかない! 我々は法「当然だろうが!」を守り……」
「お前達はそれで良いんだよ! あたしが自分の命の行く先も分からずに、事を起こしたとでも思ってんのかい!!」
「し、将軍……まさか………」
「あたしが行動の末路も分からないような者だと思われてたとはね! 随分と舐められたもんさ! お前達如きに言われなくとも、末路なんぞ最初から分かってるんだよ! あの王が暗愚のフリをしてたのも、最初からねえ!!」
「なっ!? それは近衛の一部や宰相閣下しか知らぬ事のはず!!」
「あたしの目が節穴だとでも思ってんのかい! それでも誰かがやらなきゃなんないんだよ! 誰かがやらなきゃ、国が腐っていくのを止められないだろうが!!!」
「将軍………」
「包囲したまま、何を遊んでいる! 近衛騎士団長!! 敵は殺せと教えただろうが!!!」
「クッ……お前達、敵を絶対に逃がすな! 一斉攻撃……始め!!」
「「「「「「「「「「うぉぉーーー!!!」」」」」」」」」」
近衛騎士団長が泣きながら命令を下し、近衛騎士達も泣きながら攻撃を仕掛けている。ヴェスは最後まで抗ったものの、多くの剣で切られ刺され、ついに地に伏した。
ここだけ切り取れば美談なんだろうが、ミクに対して依頼料を支払っていないうえ、結局はミクを利用して自分のやりたかった事をやっただけである。
見ていて段々とイライラしてきたミクは、屋敷の片隅でオークの姿になり突進。ヴェスの首を切り落とし、ワイバーン製の短剣を一瞬で回収。近衛騎士達が呆然としている隙に、貴族街から逃走を図る。
逃げながらもヴェスの首を本体空間に転送し、本体にくっ付けて延命。命を取り戻させた。
分体はそのまま王都フィラーを出て逃走し、途中でピーバードになって飛び立つ。
一路、ゴールダームへと移動するミクであった。
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「で、あたしが首だけになってる理由を聞きたいんだけど、いいかね?」
「お前が死ねば私に依頼料が入らんだろう? 更には王がまともだと知っておきながら、暗愚な王だと言っていたりというのもあった。私を謀った以上、お前はそのまま素直に死なせてはやらん」
「……まあ、怒るのは分かるんだけども……。首だけで生かされるとは思わなかったよ。しかもこの肉の塊がミクなんだろう? いやー、神様もとんでもないものを生み出すもんさ。自分が色々騙してたのが、ここまでシャレになってないとは計算外だった」
「とにかく素直に話せ。話さんなら脳を弄って無理矢理喋らせるぞ」
「いやいや、ここまでにされてるんだから素直に喋るさ。あたしの目的はフィグレイオにとって不必要であり、国を腐らせる連中の抹殺だ。対価はあたしの命であり、その理由は寿命が遠くないから。冥狼族の寿命は500年ほどなんだよ」
「つまり、早ければ数十年、遅くとも100年未満で死ぬ。そこでお前は、国に対して自分が出来る事を考えた……という事か」
「その通り。国が傾きかけている、その兆候があったのは事実だ。そして証拠が無いという理由で好き勝手をされていたのも事実なんだよ。長きに渡って忠義を尽くしてきたんだ。死ぬ前になって傾いていく国を見ているとねえ、我慢出来なくなったのさ」
「自分が死ぬならば、せめて国を良くしてから死にたいという事なのだろうが、何故私を謀った?」
「死ぬからね。たとえ神の創りたもうた怪物であろうとも、死んだ後のあたしまで好きに出来るとは思わなかったのさ。聞いてはいたよ? でも本当だとは思わない。今はこんな状況だから、完全に理解したけども」
「まあ、首から上だけだからな。………よし、決めた。お前は私を謀った罪に照らし合わせ、ゴミの抹殺に協力させる。<隷属の紋章>を使うから逃がさんぞ?」
「は、はは……お手柔らかに頼むよ」
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ピーバードがゴールダーム近郊に下りると美女の姿になり、その美女は下着を履いて服を着た後、アイテムバッグやブラッドスライムなどを体から出していく。
そしてその後、右腕が肉の塊になり、中から暗い銀髪で褐色肌の美女が現れた。そう、顔が変わって体も変わっているが、ヴェスである。
「これがあたしの新しい肉体ねえ。………体がワイバーンで出来ているっていうのも不思議なもんさ」
「使ったのはワイバーンの骨、肉、内臓、そして私の肉と血が少々。特に私の肉と血を使う事によって、拒否反応その他を完全に無くして融合させてあるの。この程度のキメラ技術は神から習ったから難しくはないね」
「神様も何を考えてミクにそんな事を教えたんだろうね? それにしても、元の体と違って背が高いし胸は大きいしで、体の使い方から練習しないといけないか。まあ、この体の能力は異常に高いから、そういう意味でも練習は必須だろうさ」
「それはそうでしょ。人間種の肉体じゃなくワイバーンの肉体だし、私の血肉まで融合してる。今までのようには行かないよ。とにかく貴女には探索者になって、ゴミどもを殺す仕事をしてもらう」
「何度も言わなくても分かってるさ。ほとぼりが冷めた頃に祖国に戻っても良いんだろう?」
「その頃にはスヴェストラ伯爵なんて忘れ去られてるだろうけどね」
「それで……それでいいんだよ」
ヴェスの目には深い悲しみの色があったが、それを振り切るようにフィグレイオの方角を見るのを止めた。そしてミクが作った下着を履いていく。
何とも締まらない光景であるが、肉塊を謀った者には相応しい光景とも言えるのかもしれない。
ミクが作ったワイバーン皮のズボンや麻の服を着て、ワイバーン皮のジャケットを羽織る。そしてワイバーン皮の防具一式を着けたら、最後にアイテムバッグの小さい物を背負う。その中にはミクがお金を入れてやっていた。
全ての準備が整った2人は、朝焼けの中をゴールダームへと歩いていくのだった。




