0841・テモニー王国伯爵領・領都前
Side:アレッサ
男爵の一族も皆殺しにしたし、現在は食料の買出し中。この町の者は私達に反抗しないから楽で良いわね。こっちはわざわざ町の者に何かする気も無いから、大人しくしていてくれるなら簡単で済む。
ここの商人はいちいちゴネなかったから、ミクが商売終わりに善人にしていくだけで終わった。何か問題があった訳でもなく、簡単に終わったので全ての兵士を引き上げさせる。最後にミクとファーダが地面を潰して堀にし、私達は先へと進む。
辺境伯領でも聞いたし男爵領の商人に聞いても同じだったけど、後4つの町を越えたらテモニー王国の王都のようだ。いちいち面倒臭いけど、何処まで進む事になるかは向こう次第ね。私達が何を求めて進軍しているかが分かれば終わるんだけど。
逆に分かっていないか、それとも相手が守るというなら蹂躙していくだけ。既にテモニー王国がやった事はヴィダ王国内でも噂として流れているだろうし、そのうちテモニー王国内にも流れるだろう。わざわざ話をしてやったんだしね。
ミクは商人にヴィダ王国の辺境伯領で、テモニー王国の軍が何をしたかを商人に教えている。善人になる前であっても聞いた以上は知っているし、善人になればその話を広げるだろう。商人は情報も取り扱ってるからね。
そしてその噂が広がれば、テモニー王国上層部の所為だという事も拡がる。もちろん喋った商人達に何かをするかもしれないけど、商人達が殺されれば噂に信憑性を与えるだけ。こっちには何も損が無い。相変わらず酷いやり口だと思ったのは、わたしだけじゃない筈。
それはともかくとして、これから先も進んで行きましょう。何処まで行く事になるのか楽しみね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:ロフェル
テモニー王国を攻め始めて既に15日。遂に王都前の最後の町である、伯爵家の領都までやって来た。これまでに辺境伯、男爵、子爵、男爵、伯爵、そして今回の伯爵で王都まで進む事になる。
途中で奇襲も何度かあったけど、毎回ミクかファーダが気付いて返り討ちにするか起こすので、結局相手の奇襲は一度たりとも成功していない。というか成功する訳がないと言った方が正しい。だって大半は喰われて終わってるし、事後報告なのよ。
奇襲の全てが夜間だったし、起こされたのも一度だけだったわ。相手が300と多かったから起こされただけで、他は暗殺者のようなものだったらしい。大した人数でもなかったので喰われて終了というわけ。
命令されて来た連中には御愁傷様と言うしかないけど、所詮は暗殺者なのでどうでもいいとも言える。相手も必死なのは分かるけど、ここまで頑なに拒むのは何が理由なのかしらね? その辺りが分かっていないのよ。話し合いとかしないから。
で、実は今、先代公爵と町の領主である伯爵との話し合いが行われている。それも町の前100メートルの場所で、互いに10人の護衛だけを連れての話し合い。
向こうは騎士だけど、こっちは半分以上は私達。向こうは傭兵である私達を警戒していないわねえ。見下しているのがよく分かるわ。
「こちらの国への工作活動、並びに辺境伯領の領都に行った無辜の民への虐殺。当然、許す事などある筈も無い。我が国を裏切ったフィルオル侯爵家も第2王子も捕縛して連れて帰らねばならん。ここで止まる事など出来んな」
「裏切られたのはそちらが悪いのであろう、己らの不手際をこちらに押し付けよ「言いたい事はそれだけか?」うなど……」
「言いたい事がそれだけなら、後は戦うのみよ。さっさと町へと失せろ。話す事など何も無い」
「………少々こちらも言葉が過ぎたようだ。つまり、そちらは裏切り者を捕縛するまで止める気は無いという事だな?」
「当たり前であろうが。その結果この国が傾こうが我らの知った事ではない。そもそも敵国など如何様になろうと構わぬわ。貴様らとてそのつもりで我が国に手を出したのであろうが。それがそっくり返ってきただけよ」
「王都へ私が話を届け、そのフィルオル侯爵家の者どもと第2王子を届けさせる。それ故に退けと言ったら?」
「ここで死ね」
「………」
どうやらこちらが一歩も引く気が無いと理解したようね。今さら遅いのよ。他国にあそこまで手を突っ込んで好き勝手をしておいて、今さら話し合いでどうにかしようと思う方が間違い。全ては遅いのよ。
先代侯爵と相手の伯爵が睨み合いを続けているけど、貫禄は先代侯爵の方が遥かに上ね。相手はどうにもならない事も理解したようで、溜息を吐いたわ。
「………………?」
「さっきの溜息が合図だったんだろうけど、惜しかったね。動こうとした騎士どもなら取り押さえさせてもらったよ。こちらを殺す気だったのは悪くないけど、あまりに舐めすぎじゃないかな?」
どうやらミクが透明な触手で騎士を押さえ込んでいるみたい。見えないからサッパリだけど、それ以外には考えられないから間違ってはいないでしょう。
「ほう。最初からそのつもりであったか、では伯爵よ。町へと1人で戻られるがいい。この騎士どもを皆殺しにした後、少し経ってから攻めさせてもらう。何、正面から力で蹂躙する為にワザと逃がしてやる。感謝せいよ?」
「くっ! お前達、何をしている!! さっさと動け!!」
伯爵が動かない騎士に命じると、その瞬間、騎士達の首から上が「ゴリュッ!」という音と共に無くなった。話し合いなので、プレートアーマーを着ていなかったからあんな音だったのだろう。騎士達の体が後ろに倒れ、首から血が噴出する。
「ひぃっ!!」
「貴様との話は唯の時間の無駄であったが、愚か者の足掻きと考えれば多少は楽しめたのでな。このまま戻る事を許す。ほれ、さっさと戻るがいい」
「くっ!!」
それだけを言って伯爵は町の方へと走って行ったけど、随分と遅いわねえ。碌に運動をしていないから、こういう時に速く動けないのよ。あの騎士達の中に優秀なスキル持ちが居たのかもしれないけど、ミクに喰われてあっさり終わったから活躍の場も無かったわね。
「うん? 向こうからそれなりの人数がやってくるぞ。総数は分からんが、数千は居るな。もしかしたら王都の軍か?」
「ほう。王都を戦場にする訳にはいかんので、ここでこちらを潰そうと思ったのであろう。浅はかなものよな。こちらは無辜の民を攻撃する気は無い。逆を言えば、野戦の方が戦いやすいのだ」
「さてさて、面白くなって来たね。まずはさっさと自軍の陣地へ戻ろうか。セリオとレティーにも戦ってもらえば簡単に蹂躙できる。その後に軍が攻めるって感じだね。混乱の中に突っ込んだ方が被害が少なくて済む」
「こちらも多少は犠牲が出て数が減っておるが、それでも1300以上は残っておる。普通ならあり得んが、そなたらが居ると何でもアリになるからの。こんな事も成立してしまうんじゃろう」
「敵国の中枢まで攻め込んでるのに、味方が100も亡くなっていないなんて、普通は誰に言っても信じないでしょうね。それくらいあり得ないんだけど……」
「あたし達ならそれが普通に成立するからねえ。で、ある以上は何の問題も無い。それに士気をあたしが上げなくても、最近は勝手に上がってるしさ。あいつらも慣れてきたのか困ったもんだよ」
「そなたが護国の英雄と呼ばれていたのが間違いではないと分かるの。正直に申せばわしも楽しませてもらっておる。何だかんだと言って戦争に出た事など無かったしの。それにわしは一兵卒の方が性に合っとる」
「だからといって毎回最前線で突撃するのは止めてほしいですけどね。もちろん護衛の騎士は近くに居ますが、何れ大失敗に発展しますよ?」
「なあに、なったらなった時じゃ。既にわしが死んだら一時的に軍権の全てを預けるという文も渡してあるしの。我が家の騎士達も知っておる」
「いやいや、知ってるって……」
「結局は同じよ。誰だって勝てる将の下で働きたいのだ。そして誰が勝たせてくれておるのか、兵も騎士も皆知っておる。わしはお飾りの総大将よ。しかし、勝てるならばそれで良い」
「ついでに自分も切り込みで楽しめるし?」
「その通りよ。うはははははは……!」
今までの鬱憤を晴らしているかの如き楽しみ方ねえ。まあ、悪いとは言わないけど、それが何処まで通用するのやら……。
ま、出来るだけ守ってあげましょうか。




