0839・テモニー王国辺境伯領・食料購入
Side:テイメリア・フェルス・ゴールダーム
私達は辺境伯の屋敷に行き、金銭を回収するべく現在家捜し中です。既に辺境伯の一族は皆殺しになっているのか、戦闘は行われておりません。また、一緒に居るファーダが何も言わないので、おそらく逃げ出した者は居ないのでしょう。
辺境伯の屋敷の中を調べ上げて金銭があれば回収、そしてまた別の部屋を探す。それらを繰り返すと、思っている以上の金銭がありました。貴族は主にツケで購入するので、あまり屋敷に金銭を置いていないものなのですが……。ここの辺境伯は違うようです。
「辺境だからこそ金銭が必要だったのではないか? 不意の何かが無いとは言えんし、何か依頼するにしても報酬は預けておかねばならんしな。それにツケで買い物をするよりは健全だと思うぞ?」
「それはそうなのですが、不思議だとは思います。特に徴税があってから支払うという事が多いですから、それまで待たせて当たり前という者も居るそうですし、中には全て払えずにそのまま繰り越すという者も居るそうです」
「まあ、ツケとして置いておく以上は、己の領分を超えているという判断もし辛い。実際、身の丈に合わない贅沢をしている者も居るだろうしな。自身の経済状況を把握していないという典型的な貴族が」
「その者達が金銭を使うからこそ経済が回っているとも言えるのですが、大半は商人に食い物にされているだけですので、どのみち健全な経済とは言い難いのですけどね。貴族に無理をさせるだけの経済など……」
物事の一表面だけでは語れないのですよね。貴族が贅沢をしていると言うべきか、それとも貴族は経済を回す者と言うべきか。もし平民の暮らしが厳しいのであれば、それは厳しい生活しか出来ないほどに買い叩く商人が悪いのですよね。
貴族が散財して使っても、間の商人が中抜きしていれば経済は上手くいきません。結局、経済を腐らせている原因の多くは商人でしかないのです。贅沢をしている貴族を目の敵にする者も多いですが、アレらは目立っているだけにすぎません。
金銭を回収しつつ話をしていると、先代公爵が屋敷の中を見回っているのを発見しました。護衛の騎士は数人ついていますが、大丈夫でしょうか?。
「特に問題ないが、それよりお主らは何をしておるのだ?」
「私達は辺境伯の屋敷の金銭を探しています。それを使って〝正当な〟取り引きをしようと思いまして……。金銭を使って食料を購入するのは、〝正当な〟取り引きでしょう?」
「輜重の補充というところだな。ついでに辺境伯家に食料を運ぶ馬車などがないかと探しにも来ている」
「成る程のう、確かにそれは〝正当な〟取り引きじゃわい。金銭を出して食料を購入するのじゃからして、何も問題など無いのう。ある方がおかしいわ。かかかかかかっ!」
楽しそうに笑っていて何よりです。私達はその後も少し話し、情報を共有してから金銭を探して歩きます。非常用だったのか、辺境伯の寝室と思しき部屋に金貨がありました。それも大金貨で20枚です。
これだけあれば十分な食糧が買えるでしょう。屋敷の中は見回ったので、そろそろ町中の食料を売っている店へと行かなければいけません。あまり町に長居すると、民が暴発する可能性もありますしね。
私達は辺境伯の屋敷を後にし、町中の食料店へと移動しました。そこにはミクが居て、既に何軒かの食料を売っている店を調べ上げていたそうです。【空間魔法】の【掌握】というものを使ったらしく、隠す事は不可能みたいですね。
そんなミクが、一番食料を持っているという店へと案内してくれたので、その店から強制的に食料を購入します。もちろん馬車は既に確保してありますし、輜重の者が町中へと入ってきていました。
「いえいえ。お売りするのは構いませんが、この程度は頂かねば商売はやって「死にたいのか?」いけませんので……」
「既にこの町は壊滅している。適正価格で売る気が無いなら今すぐ死ね。次にお前の息子を引き摺り出してきて同じように話をすれば済む。それで十分に真っ当な商売だ。な?」
「そのような事を仰るとは恐ろしいですな。やはりヴィダの者など野蛮で話にならん。お前達に売る物など何も無」
ドパァン!! という音が鳴り、男の頭が弾け飛びました。ミクが裏拳で粉砕したのです。この事から、先ほどの商人が悪人であったというのが良く分かりますね。ミクは適正価格と言ったにも関わらず、こちらに高値をふっかけるから殺されるのですよ。
ミクが後ろでヘラヘラしていた息子を引きずり出してきました。目の前で父親の頭が弾け飛んだのです。この者はどうなのでしょうね? とはいえあの意地汚そうなニヤニヤ笑いで大凡分かりますけど。
「さて、次はお前だ。こちらは適正価格で売れと言っているだけなのでな。それが出来なければ消えて行くだけとなる。分かりやすいだろう? それで、値段は幾らだ?」
「………」
「ふむ。お前も死にたいのか。ならば今すぐ殺してやろう」
「あ、ま、お待ちを! い、今すぐ適正価格にて計算して参ります!!」
「早くしろ。無能な商人など、この世に要らんのだからな」
ミクがそう言ったものですから随分と慌てていますね。しかし、あんなニヤニヤ顔をしていた男をそのままにして良いのでしょうか?。
「変えるのはいつでも出来る。この店を離れる直前に善人に変えていくから問題は無いよ。ここが悪徳商人の店だと初めから知っていたからね。だから最初にここへと来たんだよ」
「成る程。最初からここを血祭りに挙げるつもりだったんだな。その話があれば他の店も抵抗はするまい。殺されるか適正価格で物を売るか、どちらがいいか聞けば物を売るだろう。値を吊り上げようとするから死ぬのだ」
「敵国。しかも攻めて来て勝っている軍に対してまで下らぬ商売をしようとするとは……。強欲を通り越して、頭が悪いとしか思えません。それに頭が悪いからこそ殺されたのですしね」
「ま、阿呆というのはそんなものだよ。自分の力が相手に通ずると勝手に思い上がる。何の価値も無いというのに、その事すら理解しない。ま、だからこそ阿呆なんだけどさ」
「ここで食料を買ったら次だな。全ての金銭を使う必要は無いが、必要な食料は購入していかねば」
帰りの事もありますので、大量の食料を購入する訳にはいきませんけどね。この後の村などでも適正価格で食料を買って行きましょう。たとえ敵国とはいえ、軍に圧迫されて食料を売れと言われれば売るしかないでしょうしね。
それもこれもテモニー王国が攻めて来たのと、辺境伯領をあそこまでにしたのが悪いのですよ。怨むならテモニー軍を怨めばいい。報復している者を怨むのはお門違いです。
物事の発端を作りだしたのはヴィダ王国ではなくテモニー王国。虐殺をされた以上、報復が苛烈なものになるのは仕方のない事なのですよ。それに、逃げたフィルオル侯爵家と第2王子も見つかっていません。
その者達も見つけなければいけませんので、なかなかに大変です。おっと、騎士達や兵士達も手伝ってくれましたので食料を無事に運び終わりました。それでは次の店に行きましょうか。まだまだ金銭はありますので。
次の店に行こうとすると、ミクが息子の頭に手を翳しました。そういえば善人にするんでしたね。すっかり忘れていましたが、倒れた商人の息子を放置して私達は移動します。
善人になった者と話す事は無いですし、やっぱりあの悟ったような表情は好きになれません。




