0837・テモニー王国辺境伯領・侵攻
Side:シャルティア
ミク達と合流してから3日目の朝。あたし達はテモニー王国の辺境伯領前に来ている。朝から攻める為に結構な距離まで近付いてたんだけどね、相手は夜襲を仕掛けてきたりはしなかったよ。後、このタイミングなんで、昨日の夜にミク達は潜入して悪人の目星はつけたらしい。
相変わらず早いというか何というか、という状況に先代公爵も呆れているね。まあ考えたって無駄だと分かったのか、頭を左右に振った後に切り替えた。そうそう、ミクに付き合うならそれが正解さ。事後報告も結構あるし、言えない事もある。
「さて、これからテモニーの辺境を攻める訳じゃが……。フィルオル侯爵領の領都と同じく門を開けるのは任せてよいかの? そこで戦力を落とす訳にもいかんのでな」
「俺達からすれば然したる労力でも何でも無い。魔法一発で済むならさっさと撃つだけだ。2発撃ち込んで門の近くに居る連中も木っ端にして構わんならするが、どうする? 時間差で撃ち込めばいいだけだからな」
「………ふむ、門だけでなくその周りも片付けて貰えるなら攻め込むのも楽になるが良いのか? それなりに魔力は消費するのじゃろう?」
「大した量では無いし、2発なら確実に門を叩き壊せるからな。門の場所に2発目を着弾させれば、なるべく平民に被害が出ない形にできるだろう。テモニー王国はヴィダ王国の辺境伯領をああしたが、俺達が同じような事をする必要は無い。野蛮な獣ではないのだからな」
「それはそうじゃ。憎しみも怒りもあれど、我らは獣ではない。それをやればテモニーの者どもと変わらぬようになる。このまま攻め上がって王都まで叩き潰すのが目標だが、そこまでやるにしても同じ事はせぬよ」
「まあ少なくとも辺境以上に叩き潰さないと、テモニー以下になるから仕方ないね。こっちはそれ以上に攻め上がって、手を出してきた事を後悔させてやらなきゃいけない。不死玉を使ってくる可能性はあるけど、攻めには使い難いんだよねえ」
「敵に対して使うのであれば、野営中の敵に突撃させるくらいですか? 攻めにはそこまで使えませんね。前に居た突撃する自爆兵ぐらいですけど、あれもそこまで効果がある訳ではありませんし……」
「不死玉というより爆発物というべきだけど、それは目標が固まってないと使い難いんだよね。目標が分散していると効果が低下するし、使いどころが限られるんだよ」
未だ導火線すら作られてないから、火をつけるとすぐに爆発するなんていう使い難い物だ。そうなると爆発毎に味方も最低1人は死ぬ。とてもじゃないけど使い勝手が良い武器とは言えないし、野戦で使うような武器じゃないよ。
それを考えれば、まともな指揮官なら無理して使わないだろうさ。もし使うにしたって町中に入ってきた敵兵に使うくらいだけど、それをすると町の人にも被害が出る。どのみち使えないか、使って怨まれるくらいだろう。
場合によっては怨みをこっちに向けてくるかもしれないけど、そうして襲ってきたらその時は返り討ちだ。あくまでも家の中に閉じ篭もっている平民なら手を出さないだけで、こっちを襲ってきたら唯の民兵だからねえ。容赦をする必要も無い。
「ま、当然じゃ。さて、そろそろ良いかの? 派手にブッ放してくれて構わん。我らの怒りを体現するような一撃を頼む」
「分かった」 「了解した」
ミクとファーダが辺境の町に歩いていくけど、既に相手から罵詈雑言が飛んで来てるねえ。それはともかく辺境の町ならヴィダ王国に攻め込んだ事くらい知ってるんじゃないのかい? もしかして町の者には知らされてない?。
仮にそうであっても多くの兵が敵国へと行ったんだ、何しに行ったかぐらい分かるだろう。子供じゃないんだからさ。
ミクとファーダが立ち止まる。どうやらあそこから飛ばすらしい。前回と同じく門から100メートルくらい離れてるね。敵からの攻撃も届かない距離だ。そして右に居るファーダが大きな魔法陣を作り上げ、直径3メートルほどの【爆熱球】が飛んでいく。
かなりの速さで飛んでいく【爆熱球】に合わせて、今度はミクが同じ規模の【爆熱球】を作って飛ばす。敵はいきなり飛んでくる馬鹿デカイ火球に慌てふためいているけど、もう遅い。
ドゴーーーン!!! ………ドゴーーーン!!! と2発の【爆熱球】が着弾した音が鳴り、門の近くにもうもうとした土煙が立ち昇る。流石にこれが治まるまでは攻められないから待つしかない。
時間が経って土煙が晴れて見えたのは、門が無くなり辺りの壁などが吹き飛んだ光景だった。更に言えば敵の守備兵が碌に見えない。せっかくだから、あたしのスキルである【群狼王】を使うかね。
「門は開いた!! 敵兵の阿呆どもは地に伏している! これを好機と言わずに何を好機と言う! お前達の力を見せる時だよ! 全軍突撃!!!」
「「「「「「「「「「ワォォォォォォォォン!!!!」」」」」」」」」」
あん? 何で狼の吠える声………って、こいつら狼人族だった! もしかしなくても、【群狼王】の効果って狼系種族の方が高いんじゃ……。
おい、ちょっと待て。何で先代公爵が先頭で突撃してんだい! あんた総大将だろうが!! ……あーもー、仕方ないねえ。ガキどものお守は年長者の務めかい。行っちまった以上はどうにもならないし、今回に限っては好きにさせるか。
それにしても結構な魔力を消費するスキルだよ。おそらく想定以上の数の所為でこうなってるんだろうけど、それでも味方の兵全員を鼓舞する効果があるのは分かる。身体能力が上昇する効果は無いみたいだけど、この数でそれをやったら流石に魔力枯渇を起こす。
それでも士気が上がるっていう効果だけで十分過ぎるし、これだけの数の士気を上げられるっていうだけで破格の効果だ。多くの指揮官が士気を高める為にどれだけの苦労をしているか。それが魔力の消費だけで済むんだからとんでもないよ。
ま、そもそもあたしはミクの血肉や色んな物を貰ってて魔力が高いんだけどさ。それにしたって消費がそこまで多くないのがいい。更には消費し続けるってタイプじゃなくて、一度使えば繋がってる感じだ。
士気が低くなりそうなヤツに対して適宜使えば良いだけで、ずっと使い続けて枯渇するような事は起きないのが把握できた。全て纏めると、コレを使ってくる敵と戦うって悪夢以外の何物でもないよ。シャレにならない。
あたしがあたしのスキルに慄くなんて思ってもみなかったけど、コレは冗談抜きで使いどころを考えなきゃいけないヤツだ。今回は最後まで使わせてもらうけど、ヴィダ王国から離れたら封印した方が良いね。そもそもあたし達には要らないし。
それに皆には繋げてないんだよ。わざわざコレで士気を上げなくても、皆なら何の問題も無いから。っていうか、そもそも士気を上げる必要が無いから使う意味が何処にも無い。肝心の皆には使えないっていうのも……まあ、いいか。
とにかく士気の高い奴等が町中へと入って暴れているから、後は終わるまで待つだけだ。その間は暇だけど……何かこっちに来たね。どうやら輜重を狙って動いてるようだ。それぐらいは来てくれないと、あたしも鈍っちまうからねえ。
ちょいと運動でもするかな。
「おらぁぁぁぁぁ!! てめぇら如き蛮族が調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
「輜重に手え出そうってか? ブッ殺してやる!!」
「おらおらおらおらおらーーっ!!!」
「どうしたどうしたどうしたーーーっ!!!」
輜重の奴等が元気過ぎて、あたしの出る幕が無いんだけど……?。




