0836・北の辺境伯領・合流
Side:ファーダ
あれから2日。俺達が後片付けをしていると、近くの貴族からの物資が色々と届き始めた。どうやら可能な限り早く届けてくれたらしい。あまり時間など掛けていられないからな、出来るだけ早く送ってくれたのだろう。
ここでしっかりとアピールしておかないと、役に立たない奴だと思われるしな。貴族という立場で考えると、それは決して許してはいけない事だ。だからこそ自領の商人にすぐに運ばせたのだろう。手紙を送ってきたのは公爵でもあるし。
色々な意味で無視できないし、辺境伯領が壊滅した事も書いてあった筈。その状況で協力しない、もしくは協力を渋るとなれば、敵認定されて攻められても文句は言えない。実際に辺境伯一族が皆殺しにされていた以上は、王軍の残りが攻める恐れは十分にある。
愚かな貴族なら潰す格好のチャンスだ。こんな時に動けない貴族などそもそも要らんだろう、国家としても。その程度の機微ぐらい分かってこその貴族だしな。……分かるよな?。
俺達のやるべき片付けは殆ど終わっているのだが、瓦礫の撤去自体はそこまで進んでいない。既に亡くなっている者ばかりで、生き残っている者も多くないからだ。瓦礫の下に死体があっても、死体であるが故に今すぐ助けなければいけない訳じゃない。
生き残っている者の家族の遺体は見つけたが、それ以外の遺体は無理をする必要が無い。そもそもここに居る兵士も騎士も、これからテモニー王国を攻める為に必要なんだ。ここで体力を無くされても困るし、怪我をされても困る。
そんな事を考えつつ輜重の者達が記録をしたり確認したりしているのを見ていると、遠くの方からミク達が来るのが見えた。王都に転移してから走ってきたのは知っているが、相当に早かったな。やはり俺達にとっては大した距離じゃなかったか。
行軍が遅いだけであって、俺達の足なら2日で届く距離だとはな。とにかく皆に伝えるかと思い、俺は辺境伯領の無事だった建物で休んでいる皆の下へと戻った。
「皆、ミク達がやってきたぞ。王都に【転移】したのは説明したが、やはり2日というか1日ちょっとでここまで来れるようだ。軍が遅いのであって距離は大した事が無いようだな」
「【身体強化】で走ってきたのでしょうし、そこまで遠い距離かは分かりませんよ? まあ、それでも私達にとって大した距離ではありませんが。それはともかく、ここが分からないでしょうから外に出て迎えましょうか」
「そうだね。ここでウダウダするのも疲れてきたところさ。早く出発したいもんだけど、輜重が送られてくるのを待つ必要があるからね。後は敵国の町を攻めて必要な分を確保していくだけだけど」
「だね。平民を襲う気は毛頭無いけど、食料ぐらいは頂いていかないと割に合わないからさ。ここのような悲劇を作る事は良くないけど、だからといってこっちが遠慮してやる義理は無いし」
「その折衷案が食料の強奪ですね。とはいえ全部持って行く訳ではありませんし、そんな事をしても荷物が増えすぎるだけです。ついでに馬車とそれを牽く家畜も手に入れないといけませんか……」
そんな話をしつつミク達を出迎えに外へ出て行く。ミク達もここに近付く際に減速したのか、今はゆっくりと歩いているようだ。向こうがどうなったかは知っているし、既に皆にも話してある。こっちの事も伝えてあるので知っているだろう。
歩いて来るミク達と合流したので、俺達が使っている建物へと案内しようとしたら先代公爵が来た。どうやらミク達が来るのを見張らせていたようだな。ま、警戒では無いのは分かっている。そんな事をする理由が無いからだが。
「そなたらが来た事で準備は終わりそうじゃ。明日にはここを発ちテモニー王国へと攻め入る。敵は蹴散らして進むし、進路上の町は全て陥としていく。民への乱暴は硬く禁じておるが、代わりに敵兵や貴族には容赦をするなと命じておる」
「ここまでの事をされたら当たり前だろう。戦争なんだから騎士や兵士に貴族が死ぬのは当たり前だし、そこに参戦した傭兵が死ぬのは当たり前だ。だが平民を殺せば盗賊と変わらないし、それはやってはいけない事さ」
「うむ。出来得る限りの厳しき命令を出しておくが、それが完璧に守られる保障は無い。もし破られたとしたら、後で厳しき沙汰を下さねばならん。それを見せしめとして我らは先へと進む形となるであろう」
「見せしめはどんな事にも必要。それが無いと理解出来ない以上は、見せて理解させるしか無い。アレッサが吸収してレティーが処理する? もしくは乾涸びているからよく燃えるだろうし、燃やしてしまおうか?」
「それなら【夢幻搾精】で搾り殺してから血をアレッサが奪い、その後で燃やして処理すればいいだろう。レティーが脳を喰った方が良いかい? 味方のはみ出し者だから、レティーが脳を喰って調べる必要は無い気がするけどね」
「脳を喰って調べる?」
先代公爵が理解していなかったので、脳の簡単な説明とレティーの能力の事を説明しておいた。先代公爵がその能力に唖然としているが、俺達でさえ持っていない能力だ。気持ちはよく分かる。
「見せしめとしても殺すのは良くない事じゃ。却って士気が下がってしまう。それをするぐらいなら善人に変えてくれんか? そなたは多くの者の前では本性を晒す気が無いのじゃろう? ならば絶対に悪さが出来んようにしてもらいたい」
「それをすれば人格が消えて、模範的な存在にしかなれないと理解するか。それに善人と話せば嫌でも書き換えられたくないと気付くだろう。殺されはせんが今までの自分は死ぬからな、その恐怖は理解する筈だ」
「目の前に居て話せるのですから、生かしておいた方が恐怖は大きいでしょうね。どのみち門は簡単に壊れるのですから、そこから更に魔法を撃ち込んでから攻めればいいだけです。そこまで難しくはありませんね」
「多くの者が攻め込んでから俺達は攻める。シャルは俺達が居ない間の指揮を頼みたいんだが、いいか?」
「あたしにかい? そりゃまあ構わないけども……ファーダはどうすんだい?」
「俺達と言ったろう? 俺とミクは攻め込んだ町の中の悪人を殺しに行く。正しくは喰いに行くという事だな。俺達はいつも通り透明ムカデの姿に変わり、町の中に入って悪人を貪り喰う」
「でもそんな事をしたらバレませんか? 確かに透明ムカデの姿はバレないでしょうが、いきなり消えたら怪しまれると思います」
「怪しまれてもそれだけだ。更に言うと、俺達が本気を出せば人間種が認識出来ない速度で喰うのは容易い。一瞬で消えるとなると困惑する程度で終わるだろう。それに喰うのは悪人だけだ、特に問題あるまい」
「そうだね。元々からして悪人なんだ。いきなり消えても清々したってヤツが大半だろうさ。惜しまれたり探してもらえるなら、そもそも悪人じゃないよ」
「それはそうじゃの。いきなり消えたとて悪人なんじゃ、そこまで気にされんか、居なくなって良かったと思われるのが殆どじゃろう。惜しまれる者などまず居らんよ。気にする必要などあるまい」
「そうですね。ならば私達は町中の兵士や騎士、もしくは逃げようとしている貴族を殺しましょう。後は民に手を出している味方の兵の拿捕ですかね? 適当にロープで縛り上げればいいでしょう」
「【夢幻搾精】で漏らさせれば簡単に捕縛出来るけど、わざわざ漏らしたヤツを捕まえるのもアレか……」
想像したのかティアが嫌そうな顔をしているな。まあ、捕まえる程度ならば普通に捕まえれば済むだろう。




