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0080・牢と裏側




 嵌められたというのはつまり、襲った男が成功しても良し、失敗しても兵士に適当な罪をでっち上げさせるという事だ。貴族ならそれぐらいさせられるだろう。


 そんなこれからの事をシミュレートしつつ、兵士について行ったミクは小さな部屋に通された。どうやらここで取調べを受けるらしい。椅子に座るように言われたので座ると、早速質問される。



 「まず、何があったのか聞かせてもらおうか」


 「何があったも何も、そもそも私は襲われた側。しかもダンジョンを脱出した直後に襲われている。何があったのかはこっちが聞きたい」


 「口を慎め! キサマは質問にだけ答えていればいい!!」


 「話にならないね。やはり裏に貴族が居るのか、予想した通りだ」


 「な!? 余計な口を叩くな! 牢にブチ込むぞ!!」


 「そうやって焦ってるところを見るに、予想は当たってたみたいだね。という事は、私を襲った男はとっくに釈放されてるか、そんな奴は居なかったという形にされてるか……。どっちかな?」


 「ぐ……そんなものはキサマの想像に過ぎん! それより何があったか言え!」


 「さっき言ったのに聞いてなかったの? それともボケてるの? 随分と悲惨な頭をしてるみたいだ、可哀想に」


 「キ、キッサマーーーー!!!」



 ミクは殴られて倒れ、髪を掴まれた後、頭を壁に叩きつけられる。ドカッドカッと音がするも、痛くも何とも無い。痛覚を遮断した訳でもないのに、この程度の力かと、思わず嘆息してしまうミク。


 しかしそれが気に触ったのか、ミクの頭を壁に叩きつけ続ける兵士。大して痛くも何とも無いなと思っていると、外から兵士が慌てて入ってきた。



 「いったい何をやってるんだ! 外まで音が聞こえてるぞ!!」


 「この女がふざけた事を抜かしおったからだ!! ワシが悪い訳ではない!!!」


 「そんな事を言ってる場合か! ここまでやったらオレ達は切り捨てられるかもしれないんだぞ!!」


 「またもや貴族が関わってるって証言をありがとう。後ろに居る奴等もお前達も、潰される覚悟があってやってるんだよね? 私を雇ってるのはスヴェストラ伯爵だよ?」


 「「は?」」


 「………どうするんだよ、おい!! 子爵様の後ろ盾があるから無事じゃなかったのかよ!? あの女将軍が後ろ盾だなんて聞いてねえぞ!! このままじゃオレ達如きの首なんて、あっさり落とされちまうじゃねえか!!」


 「そんな事を言われても知るか!! どうせこの女が勝手に言っておるだけだ! それとも、キサマもワシに楯突く気か!?」


 「んな事言ってる場合か! ……クッソ! オレは関係ねえからな! 死ぬなら、テメェだけで死ね!!!」



 そう言って後から入ってきた兵士は扉を閉めて走って何処かに行った。残った兵士のオッサンはミクを一瞥した後、他の兵士を呼んでミクを牢屋に連れて行かせた。


 兵士達は気が動転していたのだろうが、そもそもあれだけ壁に頭を打ちつけられて、血も出ていないどころか傷さえ無いのは不自然なのだ。しかしパニックになっている兵士2人は気付く事もなかった。


 牢に入れられたミクは、ゆっくりと休んでいる。そもそも牢屋に入れられようが脱出できる為、焦りも何も無い。その様子を見て不自然に思うも、連れて来た兵士は去っていった。


 ミクはそのまま牢の中で休む事にしたのだが、何故かアイテムバッグが取り上げられる事もなく手元にある。何故取り上げないのかと首を捻っていると、誰かが牢屋に近付いてくる足音が聞こえてきた。


 その事も不思議に思っていると、神経質そうな男がミクの牢の前で止まる。その男はミクに用事があるらしく、話し掛けてきた。



 「キミがワイバーンを倒した探索者か。あのスヴェストラ伯爵に雇われているらしいが、キミを助ける手が来る事は無い。残念ながらキミを助けられる者は、今日の夜に居なくなってしまうからね」


 「………成る程。スヴェストラ伯爵はフィグレイオにとって邪魔者だったという事」


 「その通りだ。ここで野垂れ死ぬか、それとも我々に従う事で外に出るか。好きな方を選びたまえ」


 「選ぶも何も、お前達如き羽虫に従う理由など無い。寝言は寝てから言え」


 「平民如きが調子に乗りおって……! まあいい。今日を最後に<雪原の餓狼>も飢えずに済むのだからな。キサマも身の振り方を一晩じっくりと考えるがいい」



 そう言い残し去っていったが、ミクからすれば頭が悪いとしか思えない。仮にヴェスが国から煙たがられていても、暗殺という方法をとる限りにおいて正当化される事など無いし、それは当然の事でもある。


 歴史は勝者が紡ぐが、かといって全て勝者に都合が良いかと言えばそうでもない。暗殺の記憶は消せないし、それらは口の端に上る。当時の噂話などが本の一部に残っている事さえあるのだ。


 そもそも将軍の中でも最高位とも言われる者、そして多くの功績を打ち立てた者を暗殺するというのは、国にとって明らかな醜聞である。この国の貴族どもは、それを理解しているのか?。


 そんな疑問が頭に浮かんでは消えて行くが、この国の貴族どころか王でさえも何を考えているのか分からない。バカは時折あり得ないと思えるような事をするし、それは歴史にも残っている。


 ミクは神々から聞いたバカすぎる歴史の話などを思い出し、この国も似た様なバカな歴史を辿るのだろうと思った。そもそも有力な将軍を暗殺して喜ぶのは他国だけであり、自国の軍事力を低下させる事にしかならない。


 後は結末だけ見届けるかと、ミクは横になって目を瞑るのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 深夜。ミクは目を開けて起き上がり、全てを本体空間に転送すると小さな蜘蛛に姿を変える。鉄格子の隙間から外に出たミクは、まず自分を牢に入れたオッサン兵士の部屋に行き喰うと、すぐに出てもう一人の兵士の部屋へ行き喰らう。


 脳は残してあるのでレティーに任せ、次にこの裏に居た子爵家へと向かう。その子爵家の屋敷に入ったタイミングで、ヴェスの屋敷から大きな音がした。どうやら襲撃されたらしい。


 ミクは気にせず子爵家の家族を喰らい脱出。貴族街にある貴族の家でも、起き出した者は多いようだ。


 本体空間のレティーが教えてくれたが、子爵は単独犯行で、自分の使いがバカにされた事による逆恨みだった。あまりにもバカすぎて呆れる事しか出来ないが、ミクは牢の前で話し掛けてきた貴族の屋敷に行く。


 こちらは生命反応を覚えていたので居場所は分かるのだが、襲撃は他人にやらせて暢気にベッドで寝ている有様だった。思わず、この国は大丈夫なのか? と心配してしまうミク。


 素早く喰って本体空間に転送し、脳をレティーに食わせる。すると、大まかながら背景が分かってきた。


 まず牢の前でミクに声を掛けてきたのは宰相の息子であり、宰相からの命によってミクを勧誘に来ていたらしい。まあ、宰相の息子は平民を見下していたので勧誘になっていなかったが。そして王は愚鈍な王を演じているだけであった。


 今回問題になったのは、ヴェスが通ってきた領地でだけ、代官や貴族が行方不明になっている事。そしてそれが暗殺である可能性が高い事が理由だった。つまり裏で暗殺するのは、国家として容認できないという事らしい。


 ヴェスも今までならここまで強引な事はしなかった。だが、ミクという怪物を知った以上は止まる事などできない。その結果が今回の粛清という事なのだろう。


 ミクにとってはどうでもいい事であり、興味も無い事である。しかしながら、最後ぐらいは見届けてやるかと思い、ヴェスの屋敷へと移動していく。


 そこでミクが目にしたのは、まさしく<雪原の餓狼>であった。


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