0079・絡んでくる貴族と襲撃
「使いどもは慌てて出てったけど、アレで良かったの? 面倒な絡みとか逆恨みをしてきそうだけど」
「逆恨みで何かしてこようものなら、誰かさんに喰われるだけさ。そうなりたいなら、そうすりゃいい。あたしから言える事はそんなところだね。後は向こうがどうするかだ」
「ふーん。まあ、私は喰えるなら何でもいいけどね。それよりさっきの使いの中に、宰相とかいうヤツのは居たの?」
「流石にそんなマヌケな隙を晒すほど、宰相は愚かじゃないよ。丁寧に挨拶してすぐに帰っていったさ。むしろその結果、バカどもが炙りだされてきて押し寄せてきたって感じかねえ。宰相も強かなヤツだし、最初からコレを狙ってたのかも」
「バカの炙りだし?」
「そう。あの宰相ならその程度の事は簡単にするよ。アレはプライドをくすぐったりするのは得意なんだ。宰相がワイバーンを早く確保しようとした、その情報だけで飛びつくバカを炙りだすのには成功してるだろ?」
「確かにそうだね。そこから分かるのは、軽々に動く程度の連中、または不確かな情報でも動く連中……かな?」
「不確かかどうかは難しいところだよ。探索者ギルドも簡単には情報を出さない筈。とはいえ、貴族の名前を出されると屈する可能性はあるし……その辺りは分からないねえ。っと、どうした?」
「お食事の用意が整いました」
「そうかい。なら昼食にするとするかね。ミクはどうする?」
「私は……どっちでもいいよ。外で食べてきても良いし。本来なら適当に食べて、午後からもワイバーンを狩りに行こうと思ってたぐらいだから」
「その言い方だと、午前もワイバーンを狩ってきたと聞こえるんだけど?」
「??? ……狩ってきたよ? 新しい武器を試す予定でもあったし、お金を稼ぎたかったのもあったから、サクッと狩って売ってきた」
「………まあ、ミクにとってはサクッと狩れる相手か。ワイバーンの牙の短剣なんて、それだけで小金貨3枚とかするのにねえ。それほどの魔物をあっさり狩るとは……」
「これが小金貨3枚もするの?」
どっちでもいいと言いつつ食堂への道を歩いている最中に、ミクは腰の短剣を抜いてヴェスに渡す。周りのメイドや執事が即座に警戒態勢になったが、ミクは全てを纏めてスルーした。
メイドや執事が動いてもどうにでも出来るし、歯牙にもかけない存在でしかない。なので欠片も気にしないし、興味も無かった。攻撃してくれば潰すという程度であろう。
「これは……おそらくワイバーンの牙なんだろう。あたしも実物を見た事がないから何とも言えないけど、魔力を通すと綺麗に通る感じがするし、多分間違いない筈」
「それさ、魔力を流しながら切ったら、ドリュー鉄の短剣を切り裂いたんだよ。で、これじゃ駄目だって事になって、急遽ワイバーンの牙で短剣とククリナイフを作ったの」
「作ったのは分かったんだけど、そうもあっさり作れるもんなのかい?」
「別に難しくないけど? とある生物の牙に切れない物も壊せない物も無いんだよ。だから<喰らうもの>という名前が付いてる」
「あ、ああ……それで削ったんだ? そりゃ削れるし整えられるだろうさ。……仮にあたしが小金貨3枚渡したら、コレを作ってくれるかい?」
「別に良いけど? ただ剣身の形とかを聞いてからになるから、今すぐって訳にはいかないよ?」
「そりゃそうさ。あたしは普通の短剣の形でいいよ。この短剣は何故か先だけ両刃だけど」
「頑丈さというか、耐久力の為に先だけ両刃にしてあるんだよ。突き刺してから切り裂く感じかな? まあ突きにも十分使えるんだけど」
「それより、よく見たら昨日と装備が違う気がするんだけど、どうなってるんだい?」
「ワイバーンの皮で作ったブーツやズボンと、ワイバーンの翼膜で作ったローブ。ワイバーン皮の鎧に剣帯。そんなところかな?」
「随分とまた、豪勢な装備になってるようじゃないか。驚きだけど、自分で狩ってこれるならば、そんなものなのかねえ。尋常じゃないけど、元手はあまり掛かってない……のかな?」
食事をしながら羨ましそうに見つつ、ヴェスは自分用のワイバーンの牙の短剣を話していく。自分の要望を全て詰め込んだ物というのは楽しいのか、ミクと共に仕様を詰めていくヴェス。
結局、納得できずに3本注文する事になるも、本人は満足そうだ。しかしミクは途中から内心で「面倒臭いなぁ、もう」と思っていたが、顔に出す事は最後まで無かった。
1本は通常の平凡な短剣、いわゆるダガーだ。そして1本は波打つような形が特徴の短剣、いわゆるクリスダガー。そして最後の1本が合口である。
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合口とは匕首とも書かれ。どちらも<あいくち>だが、厳密には違う物である。ミクが作ったのは合口であり、いわゆるドスと呼ばれる物だ。トレント材で作ったからピッタリ合うように出来ている。
合口は鍔が無く、納刀すると持ち手と鞘がピッタリと合う為、合口と呼ばれる。ちなみに匕首は横から見た時にスプーンのような形状の短剣であり、合口とは全くの別物だ。
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それら3本は本体がさっさと作って、食事後の執務室でヴェスに渡している。持ち手や鞘はトレント材で適当に作ったので、後で勝手に変えてくれと言ってあり、既に小金貨9枚は受け取った。
ヴェスは小躍りするように喜んでいたが、そこまでだろうか? と疑問に思いつつも、ミクは屋敷を出てダンジョンへと移動する。
後ろからつけてくる者が多いが、大抵は見に来ているだけで、ミクに対しての悪意までは持っていない。一部の者は悪意を向けてきているが、大勢が居る為に何も出来ないらしい。
61階へのショートカット魔法陣で転移し、ミクは再び80階のワイバーンを目指す。今は幾らでも稼いでおいて損は無い。
素早く80階まで走り抜け、再びのワイバーン戦。ミクは飛び立ったワイバーンを叩き落した後に、素早く魔力を篭めた槍で頭頂部を突き刺した。するとあっさりと貫通し、血が噴き出す。
慌てて距離をとったものの血が掛かってしまい、仕方なく装備を全て本体に転送する。
裸になったミクはジッとワイバーンを見据えているが、立ち上がったワイバーンは飛び立った直後に墜落。そのまま気を失ってしまう。どうやら飛び上がった直後に頭の血が下半身に下りてしまったようだ。
唯でさえ頭から血を噴出しているのに、更に頭より下に血が集中するような事をすれば、倒れるのは当然であろう。
そのまま意識を取り戻す事もなく死亡したワイバーン。意外にも魔力を篭めると、硬い頭蓋骨も貫通するらしい。テストとしては上々の結果だと喜ぶミク。
レティーに血抜きをしてもらっている間に装備の血は取れたので、転送して着込んでいき、全て終わったらワイバーンを回収。奥の魔法陣から外に脱出する。
ミクが現れると即座に襲ってきた者が居たが、ミクは冷静に横に移動して足を引っ掛ける。倒れた男は腰溜めに短剣を持っていたが、ミクは背中を踏んで立ち上がれないようにした。
「おい! あいつ短剣持って襲いかかったぞ! 取り押さえろ!!」
男は慌てて逃げようとしたものの、ミクに踏まれている所為で立ち上がれず、そのまま周りの者に取り押さえられた。
その後、近くに居た者が兵士を呼び、取り押さえられた男は連行されていく。その後姿を見つつ。ミクは別の兵士に案内されてついていく事に。
ダンジョン近くにも兵士の詰め所はあるらしく、そこで事情を聞かれるそうだ。ミクは嵌められたのではないかと思い始めていた。




