0835・フェルムスト辺境伯領・終了
Side:ミク
いちいち面倒だけど、ヴィーもウィルミナも辺境伯も食いついてきたので、仕方なく浸透戦術を教えつつ後片付けを続ける。とはいえアレッサとレティー待ちな部分があるので面倒ではなかったけどね。
それが終わった頃、私はファーダから入っていた情報をこの場に居る者達に伝える。
「ファーダからの情報は戦闘が終わるまで伝える気は無かったんだけど、終わったから伝える。フィルオル侯爵家は領都から逃げて既に居なかったらしく、ファーダ達はそのまま北の辺境伯領に行くってさ。ちなみにフィルオル侯爵家の領都でも抵抗はあったみたい。侯爵家が居ないのにね」
「抵抗があった……? では領都を落としたのか? 幾ら侯爵一族が居ないからといって、そう簡単に陥ちるとは思えぬがな」
「ファーダと私は同じ本体の末端だという事を忘れてない? ファーダは侯爵家の領都の門に【爆熱球】を放って一撃で鉄の門ごと吹き飛ばした。それであっさりと降伏したらしい。なら最初からさっさと降伏しろって思うよねえ」
「あらら。【爆熱球】の魔法を使われたなんて御愁傷様。不死玉なんて鼻で笑うほどの大爆発が起きたでしょうね。兵士達のトラウマになってないといいけど」
「そ、そこまでの魔法があるのかい? シャレにならないなぁ……」
「ファーダは手加減して撃ってるし、【爆熱球】は爆発するだけだから言うほど強力な魔法じゃないよ。【豪炎射】の方がトラウマじゃないかな? 分かりやすく言うと火炎放射器を魔法でやるようなものだし」
「それって普通に焼き殺されるじゃん。目の前で生きながら焼かれるよ!」
「「………」」
「そもそも最高位の儀式魔法である【獄炎嵐】を使われていないだけマシよ。数千度の温度で全て溶かされるわよ? それに比べたら火炎放射器なだけマシでしょ」
「………いやぁ、あまりに酷い。冗談でもなんでもなく、メチャクチャすぎて何も言えねぇ。あまりにあまり過ぎる」
「そもそも暗殺を含めて、やっていた事があまりに悪過ぎるし、そんな奴等に手心を加えてやる理由が無いね。駄目なら【凍止界】で全て凍らせてやってもいいよ? 町の全てが凍って止まるけど自業自得でしょ」
「メチャクチャ過ぎて本当に何も言えねぇ。このヒト好き勝手出来るよ! 冗談じゃなく!」
「まあ、最強の怪物なんだから当然だけどね。そもそも【転移】出来る時点でメチャクチャだと理解しなさいよ。あれ自体が既に反則でしょうが」
「そういえば、確かに……。もしかして習ったら、おれも出来るようになる?」
「無理に決まってるでしょ。移動距離に従って加速度的に魔力消費量が増大していくんだけど? どうやって獣人が使えるようになると思えるのか不思議でしょうがない。そもそも人間より魔力が少ないのが獣人でしょうに」
「やっぱり人間より少ないんだ……。何となくそうじゃないかなとは思ってたけどさ、こうハッキリと突きつけられると凹むわぁ。魔法使いが妙に少ないとは思ってたんだよ。やっぱり種族特性的なヤツが原因だったのかー」
「ゴブリンは魔力がそれなりにある方かな? マンドレイクやアルラウネよりは少ないけどね。ゴブリンより少ないのがコボルトで、そのコボルトより少ないのがオーク。代わりにオークが一番体が強靭。そしてそれより魔力が低いのがオーガで、代わりに怪力」
「うん、だろうねって感じかな。イメージと完璧に一致してるというか、体が弱いと魔力が多いのかな? でも悪魔は魔力が多いって聞くしなー。南東の種族は別に弱い訳じゃないし……別枠なのかな?」
「かわりにアンデッドぐらいの弱点があるのかもね。日光で弱体化するとか、【浄化魔法】に極めて弱いとか、体に大きな弱点があるとか」
「話はいいけど、そろそろ終わりだから準備して。戦場を片付け終わったら王都に飛ぶよ。そこから走って北の辺境伯領に行く。向こうに合流できるなら早めに合流したいからね。私達の足なら追いつけるかもしれないし」
「そうですね。【身体強化】をして走れば軍隊の行軍よりも圧倒的に速いですし、一気に行けば追いつけるでしょう。人手は多い方が良いですから、合流出来るなら急ぎましょう」
マハルも剥ぎ取った武具を兵士に預けながら肯定した。そこまで多くは残っていないので、アレッサも本気を出したのか一気に血を操って吸収していく。肌に染み込むように入っていくけど音も臭いもしない。何だか不思議な光景だ。
レティーも急いで溶かしていき、昼になる前には1400程の死体を処理する事が出来た。その早さに驚いているけど、私達は一ヶ所に集まり【転移】の準備をする。
「あっと、ヴィーにはコレを渡しておくよ。リカーブドクロスボウの設計書。この通りに作れば作れる筈だから頑張ってよ。それと町の壁には狭間を空けておく事、それも斜めにね」
「狭間?」
「日本の城の壁を思い出しなよ、長方形の穴が斜めに空いていたでしょ。アレはあそこから鉄砲を撃つ為に空けてあったんだよ。それを狭間といって、当然クロスボウでも使える。アレを空けておくと壁の内側から敵を撃てるからね」
「ああ! アレね!!」
「そうそう。それじゃ私達はそろそろ行くよ。【転移】」
私達の足元に魔法陣が現れ、それが輝くと転移した。既に向こうの空間は調べてあるので転移事故などは起きない。さて、急いで走らないと追いつけないから頑張るかな。
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Side:ヴィドラント・ユークス・ヴィダ
「行ってしまわれましたね………。何だか慌ただしい方々でしたけど、恐ろしい強さで非常識だという事は分かりました。それ以外は……理解しようとしない方が良い気がします」
「そうだね。理解しない方がいいよ、きっと碌な事にならない。世の中には知らない方が良い事は山のようにある」
「うむ。殿下の仰る通りだ。知らなくていい事は知らなくてもいい。無理に知って酷い目に遭うよりはな、知らない方がいい事など沢山ある。そなたが手伝ってくれている政務と同じだ」
「そうですね。まずはそのクロスボウとやらを量産しなければいけません。でなければ不死玉とやらに対抗できませんので………。私達は私達の出来る事をしませんと」
「そうだね。私もとりあえずは、ここで出来る限りの事をしてから王都に戻ろう。既に王位を継げる者が私しか居ない以上、私が王になるしかないんだろうしね」
「もちろんです。殿下が次代の王にならねば、我が国は崩壊してしまいますぞ。公爵家は3つあるのです、それぞれが争い泥沼の戦いになってしまうのは火を見るより明らか。速やかに立太子の儀を行っていただかねばなりません」
「12から毒で苦しんできた私が王太子か……。本当にどうなるかなんて分からないものだね。本来なら第4王子として港町に赴任するのが一番良かったんだけど、あっと言う間に状況が変わってしまった」
「仕方がありません。まさか第2王妃と第2王子があそこまで愚かとは思いませんでしたからな。第3王妃と第3王子を殺害するなど信じられません。苦し紛れにやったのかもしれませんが、第2王子も見つかっておらぬようですし……」
「そんな事があったのですね……。第4王子殿下は次代の王になられる事が決まっている、と」
何だかウィルミナの表情が良くないな? もしかして……って、そうそう都合のいい展開なんて無いか。でもせっかくだから冗談めかして聞いておこう。
「残念に思うくらいには、私の伴侶になりたい気持ちがあったのかな?」
「はい。お慕いしております」
………ん?。
「えっ!? マジで!?」




