0833・フェルムスト辺境伯領・戦闘終了
Side:ヴィドラント・ユークス・ヴィダ
………アレは酷い。元々反則的な強さをしているのは分かっていた。分かっていたけど、その予想を遥かに上回る程に酷い光景だ。セリオというサイに似た子が戦場を縦横無尽に走り回り、敵を蹴散らし続けている。
敵がボーリングのピンの如く吹き飛び、思わず「ストラーイク」と不謹慎にも口から出るところだった。何しろそれぐらい現実感の無い光景が目の前で拡がっているんだ、現実逃避ぐらいしたって仕方がないと思う。
「ヴィー、私達の方も突撃させないと……」
「えっ? ……しまった、味方の軍も驚きで動けてない」
まさか味方の軍すら固まって唖然としていたままだとは思わなかった。自分はともかく、騎士や兵士はプロなんだから戦ってると思っていたのに、まさか素人の自分と同じく呆然としているなんて……!。
「皆の者、何をしている!! あの勇士達だけに戦いを任せる気か!? 敵を叩き潰すは我らの成すべき事であろう!! 騎士よ! 兵士よ! 傭兵よ! 我らの手で敵を叩き潰すのだ!! 突撃ーーーー!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
ふう、やれやれ。おれも飲まれてたから他人の事は言えないけど、ウィルミナが助言してくれて良かった。流石にあのまま呆然とし続けていたら、指揮官失格だったよ。言い訳はしたいところだけど、そんなものが通用する場所じゃないしな。
こちら側の騎士や兵士に傭兵も士気は十分に高い。というより、あの人達が敵を完全に蹂躙しているので負ける気がしないんだろう。どう見ても勝ち戦だし、それなら存分に暴れようと思うわな。
未だに敵は蹂躙されっ放しだし、碌な反撃も出来ていない。あのセリオが重戦車のように暴れているので、避けないと轢き殺されるし、立ち止まっていても背中の所から魔法が飛んでくる。何故か敵味方の区別がハッキリしてる魔法が。
アレも十分に恐ろしいんだけど、やっているのがスライムっていうのもなぁ……。よくあるスライムが強いラノベのようなレベルで敵を焼き殺したり、岩を飛ばして敵兵を潰したりしている。本当に酷い光景だと改めて思う。
デューダス公爵の息子に対して「1国家の軍程度に負ける筈が無い」って言ってたけど、この光景を見ると「その通り」としか思えない。というか、この大陸の全ての軍を合わせても、きっと蹴散らされて終わりだと思う。おそらく敵にすらなれない。
無残に喰われて終わるか、目の前の光景のように蹂躙されるだけだ。ハッキリ言って強さの桁が違いすぎる。逆に言えば、彼女達を味方に付けた方が絶対に勝つ。不死玉とかいうアンデッドの核どころじゃないな。
西の大陸には自力で銃を開発したゴブリンの国があるらしいけど、銃を全兵士に配備したとしても勝てない。そもそも彼女達に銃が効くのか疑問しか出ないしなぁ。特にミクに関しては絶対に効かないだろ。その時点で勝てないのが確定してる。
そんな事を考えていると、戦いが始まって1時間も経っていないのに敵が逃げ始めた。アレから逃げたいと考えるのは痛い程に分かるけど、果たして本当に逃がしてもらえるのか? 逃げていく奴等をセリオが踏み潰しているけど……。
「アレは駄目ですね。最早この戦いは戦争ではありません、唯の虐殺です」
「いや、戦争だよ。虐殺というのは市民などの民衆を相手にしたものだ。幾ら圧倒的でも、騎士や兵士同士が戦っている以上は戦争以外にはならない。こちらが圧倒的に勝っていても、一方的に蹂躙していても、正規の形である以上これは戦争だ」
「しかし、この光景を見ても戦争とは……」
「止めるんだ、ウィルミナ。これを戦争と言わずに虐殺と呼ぶのは、彼女達を愚弄する事にしかならない」
「!!! ……申し訳ありません。そのようなつもりは無かったのですが、呑まれてしまっていたようです」
「聞いているのが私と辺境伯だけだったから構わない。が、戦いに出た者達を愚弄するような発言は、決して良い事にはならないからね」
「うむ、殿下の申される通りだ。無辜の民を殺すのが虐殺であり、戦いに出てきた騎士や兵士を殺すのは唯の戦闘行為でしかない。たとえどれだけ圧倒的であっても、それは戦士の戦いでしかないのだ。殿下はよくご存知ですな」
「まあ、多少はね……」
日本人的に考えただけなんだけど、間違ってはいなかったようだ。戦場で戦い敵兵を殺したのが虐殺かと問われたら、それは違うとしか思えない。虐殺とはどっかの国の軍がやったような、大空襲や原爆投下を言うのであって、戦場での戦いはそれとは違うだろう。
特攻隊の攻撃は虐殺か? と問われたら、おれは絶対に否と答える。何故なら民間人に対して行われていないからだ。民間人に行われたから虐殺というのであって、兵士や騎士相手では違うだろう。そもそも彼らは戦う者なのだから。
たとえ蹂躙されている相手であっても、彼らは戦いの場に出てきた戦士であり一般人じゃない。戦いの場に出てきた以上は農民兵でも兵士だけど、それと町や村に居る農民は同じじゃない。
戦いの場に出ていない人達を殺すのが虐殺であり、死んだ人数の多い少ないではないと思うんだよ。あくまでも、おれがそう思うっていうだけなんだけどね。
そんな事を考えている間にも戦いは決したようだ。ボロボロの敵軍から幾人かは逃げ出したようだけど、殆どの敵は殺されたらしい。途中から濃密な程の生温かい錆びた臭いがしてきていたけど、これが戦場の臭いなんだろうな。
「諸君、見事であった! 諸君等の頑張りにより、敵は尻尾を巻いて逃げていったぞ! 我々の勝利である! 誇れ皆の者、敵を壊滅させたのは我々だ!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」」」」」」」」」」
勝利の雄叫びと共に剣や槍を持ち上げて喜ぶ騎士や兵士に傭兵達。まあ、圧倒的だったから分かるよ。敵をボッコボコにして返り討ちにしたし、1600のうち9割は倒したんじゃないかな? 多分だけど。
夥しい血が戦場に流れているし、これどうするんだろう? って、怪物が帰ってきたな。
「戦場にある死体から装備を剥ぐ作業を始めたいんだけどいい? 装備はそっちにくれてやるから、代わりに死体を頂くけど良いよね?」
「へっ!? ……ああ、多分いいんじゃないかな? あまりよく分からないけど」
「アレッサは血の回収!! レティーは死体の処理だ!! セリオは敵の死体を集めて、私とマハルは敵から剥ぐ!! 手早くやらないと今日中に終わらないからやるよ!!」
「了解!」 「分かりましたー」 「ガァ!」 「かしこまりました」
何だかテキパキ動き始めたけど、良いのかな? そう思って辺境伯を見ると、何とも言えない顔をしていた。コレはどっちなんだ?。
「戦場の片付けは誰もが嫌がる事なのです。死体を放っておけば腐って疫病の元となりますし、死体の装備を剥ぐのは早くせねば張り付いて取れなくなります。それに、そもそも死体を触るのを嫌がりますのでな……」
ああ、それは誰だって嫌だろうね。敵が攻めて来たから戦ったけど、どんな事だって後始末はしなきゃいけない。でも、死体の後始末はなぁ……。って、何あれ? 凄い速さで血が吸い上げられてる?。
って、アレッサって確か<真・吸血鬼族>だったんだっけ? つまり血を飲むのは得意って事か。そしてスライムであるレティーが死体を喰って処理すると。そういう意味じゃ、後片付けにおいても凄い戦力だ。
まあ、怪物本人が喰ってしまえば終わるんだと思うけど、それは騎士や兵士の前では出来ないよね。




