0828・フィルオル侯爵領・領都前の野戦
Side:ファーダ
あれから3日経ち、今日は公爵家の騎士団と王軍との合同軍が王都を出発する日だ。総指揮官として先代公爵が王から任命された。ま、順当だし面倒な事が減って助かるといったところだ。流石に先代とはいえ、公爵が指揮する軍でおかしな事をする者は多くあるまい。
先頭の方に先代公爵が居り、俺達は後方の殿の位置に居た。ダラダラとした行進を見ながらの移動だが、俺たちに関してはどうこうという事は無い。ただ前の兵士達は1時間ほどで疲れ始めた。
まだ1時間ほどだと思うが、こいつら疲れにくい歩き方とかも知らんらしい。もちろんお人よしでも無い俺達はいちいち教えてなどやらないが、それにしても疲れるのが早いだろう。本当に職業兵士なのか? という疑問しか湧かないな。
体力は兵士にとって最も優先しなきゃならない問題だぞ。何故この程度の距離で疲れてくる軟弱な兵士のままにしているのか不思議でならん。そこまで重い装備をしている訳じゃ無いだろうに、これでは移動に時間が掛かるな。
仕方ないとはいえ、既にシャルは呆れているようだ。気持ちはよく分かるし、これでは急いだとしても辺境伯領が陥とされた後にしか到着出来んのではないか?。
「この速度じゃ間に合わない可能性が高いねえ。そうなったら北の辺境伯領はどうなるのやら。新しい領主を据えると言ったところで、辺境伯なんていう役職に見合う者はそうそう居ないよ?」
「そこは王が頭を悩ませるところだから私達は関わりありませんが、確かに遅いなと感じますね。重い物は輜重として運んでいますが、それにしても遅い。輜重と同じ速度で移動しなければいけないとはいえ、兵士の方が遅いというのは……」
「そうだね。兵士達はもはや疲れてそうだし、このままじゃ疲れきって倒れるか休憩になるんじゃないかな? そんなに頻繁に休憩しなきゃいけないってなったら、間に合う距離でも間に合わないよ」
「その辺りが分かってないか、元々そういう国なのかは知らないけど、兵士の体力が無いのは単なる訓練不足でしかない。かつてのあたしならケツを蹴り飛ばしてでも歩かせるけどね。他所様の軍じゃ勝手は出来ないし困ったもんさ」
「ま、俺達も合わせるしかないな。文句を言っても始まらないし、この程度の文明ならばこの程度なのだろう。俺達の所為ではないのだから放っておけばいいし、どうしようもあるまい」
「だね」
呆れるほどに遅いが、これはそういうものだと飲み込もう。文句を言い始めるとストレスになるし、あるがままを受け入れるしかない。フィルオル侯爵家の領地に着けば変わるかもしれんが、そこでは町攻めをせねばならん。
それまでは、このダラダラを続けるしかない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:テイメリア・フェルス・ゴールダーム
北へと行軍を始めて3日、ようやくフィルオル侯爵家の領都に着きました。国の北側だから仕方ないのかもしれませんが、その領都の前で敵兵が並んでいます。おそらくこちらに野戦を挑む気なのでしょうが、相手は200ほどしか居ません。
こちらの軍は全部で1500ほど。余裕で勝てるでしょうが、向こうが決死の覚悟で挑んでくると思わぬ被害を出すかもしれません。それを戒める為に先代公爵殿が大声を張り上げています。
「相手の数が少ないとはいえ、相手は罠を仕掛けておるかもしれん! 決して気を抜く事なく、勝てる相手に確実に勝つ! それを心に留めておけ!! では、行くぞ!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
町攻めの前哨戦とも言えるこの戦い。楽に勝って弾みをつけたいところですが、どうなるかは終わってみないと分かりません。案外と思わぬ被害を受ける可能性がありますので、最後まで油断はしないでほしいのですが……。
そうやって見ていると、こちらと相手の兵がぶつかった直後に「ドカーン!!」という大きな爆発音が聞こえてきます。この音は間違いなく不死玉の粉が爆発した時の音。つまり敵は最初から自爆兵だったという事でしょう。
これは予想外だったのか、シャルの顔が険しいものになっています。私も恐らくそうなっているでしょう、ロフェルだってなっているのですから。表情が変わらないのはファーダだけです。
「自爆兵か、通りで罠が見当たらない筈だ。兵士自体が罠だとは思わなかった。さて、これで相当数の兵士が怖気づく事になるが、このまま戦いを続ける事が果たして出来るかな? 相手の方が一枚上手だったが……」
「確かに一枚上手だと言うしかないね。自爆なんて事をやらせるなんてフザけてんのかい。そう思うけど、同時に策としては優秀だとも思う。少ない犠牲で敵の士気を挫けているんだからね。アレを前にすると、兵士の足は簡単には前に出ないだろう」
「それも仕方がないとは思うけどね。流石に自爆兵の前に出るのは誰だって躊躇うし、私だってアレの前に立ちたくは無いからさ。場合によっては私達でさえ死ぬよ? あの威力」
「そうなんだよ。ミクの血肉を含めて色々と貰っているにも関わらず、そんなあたし達さえ殺しかねない威力だ。流石に躊躇せざるを得ないし、遠距離から戦わざるを得ないね」
「私なら【夢幻搾精】を使って相手の力を奪えますから、近付かれても爆発はさせられないかと。自分達で火をつけないと無理みたいですし、先に【火魔法】を叩き込みますか? そうすればこちらに来る前に爆破できますよ?」
「そうだね、それが一番良いと思う。【根源魔法】でも魔法は魔法だ。それなら分かるだろうし、あたし達しか使えない魔法だと言い張ればいい。魔法の使い方をわざわざ教えてやる義理は無いしね」
「今は兵士達に任せるしかありませんが、完全に及び腰になってしまいましたね。爆発物は音で恐怖を与えると何かの漫画で読みましたが、成る程その通りだなと今は思います。あの爆発と見た目で恐怖を感じているようですからね」
「後は爆発物っぽい物を見せるだけでも、相手は警戒して前に出てこなくなるだろうさ。これは私達がどうにかするしかないかねえ? ちょっと前に行って矢を射るしかなさそうだ」
どうやら私達で何とかするようですね。シャルが提案してファーダが了承したので、これで何とかなるのでしょう。私は従うのみです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:ファーダ
矢を撃つと言うと、シャルが前に出始めたので俺達もついていく。確かにこんな所で無駄な時間など掛けられんからな、一気に終わらせる為には俺達が前に出た方が良いか。
前方の先代公爵の所まで来た俺達は、敵兵を射殺す事を提案。先代公爵はすぐに了承した。近くに居た公爵家の騎士と王軍の騎士は「ムッ」としていたが、俺達には知った事じゃない。
何故か最初に俺が撃つ事になったが、気にしなくていいな。おそらく派手に行けという事だろう。俺は前線の兵の後ろから狙いつつ、敵兵の頭に向けて矢を射った。
それはミクが放った矢と変わりなく、直撃して「ズドォン!」という音を響かせると、貫通して後ろの兵にも突き刺さった。その瞬間、辺りが静まり返ったが、俺達は次々と敵を撃ち倒していく。
戦場で放心するなど殺されても文句は言えない愚行だ。そしてその隙を狙わない阿呆ではないのだから、当たり前のように狙われるに決まっている。「ズドォン!」という音を幾つも響かせながら倒れる敵兵。
それを見て歓声を挙げる味方の兵。ようやく士気が上向き、戦いになってきた。と言っても、俺達が後ろから撃っているから何とかなっているだけだ。それでも戦いも碌に出来なかった先程よりはマシだろう。
敵兵の中には再び自爆しようとする奴も居たが、俺達が的確に射抜いて殺していく。結局、俺達が参戦してから爆発する事は無かった。




