0827・移動と待機
Side:ミク
その後の話し合いはスムーズに進み、私・アレッサ・マハル組とファーダ・シャル・ティア・ロフェル組で分かれる事になった。既にファーダも出てきており、本体はロフェル用のハンマーの作成中だ。なるべく耐久力を重視した物を作るらしい。
それが出来次第、私達は出発する事になる。そこまで時間は掛からないだろうし、一気に【転移】で移動するつもりなので十分に間に合うはず。ナロンダがどれだけ準備をしていて早く動いたところで、昨日の今日では国境にすら到達していないだろう。
あの第2王妃が何処まで情報を届けたのか知らないが、私以上に速いという事はあり得まい。それはともかくとして、シャルの方は公爵家の騎士団待ちなので時間が掛かるだろう。間に合わない虞は十分にある。
その辺りはもうどうしようも無いので、北の辺境伯には諦めてもらうしかない。特にテモニー王国が何処まで用意しているかによって、北の辺境伯が生きるか死ぬかは変わってしまう。
早めに情報を貰った以上は家族を逃がしたいだろうが、フィルオル侯爵家という裏切り者が居るので逃がすに逃がせないんだよね。それもあって国軍が到着するまで耐えてもらうしか出来ない。大丈夫かは運も絡む。
「ミクの言う通りさ。不謹慎かもしれないけど、こういう時に運というのは絡んでくる。良いか悪いかは別にして、運が良ければ助かるし、運が悪ければ死ぬ。それが戦場だからどうしようも無い」
「そこまで運というものに左右されるんですか?」
「ああ。同じ矢の雨の中を攻めたとしても、運が良い奴は生き残るし、運が悪い奴は死ぬ。不思議と何度矢の雨に突っ込んでも生き残る奴は生き残るんだよ。条件は全く同じなのにだ。不思議だろう?」
「それは運という言葉で片付けるしかないのでしょうね。特に戦場だと整列していますし、周りに味方が居て逃げられません。にも関わらず生き残るというのは、本人の技術などは関係なく生き残っているという事です」
「確かに。運が良いとしか言えない不思議なヤツって居るわよね。何故か分からない運の良さを持っていて助かるってあるもの。私だってその1人だしね。追っかけ回されたけど生き残ったし」
「その後が酷かった気がしますが、その割にはミクに会って生き残っていますから、確かに運が良いと言えば運が良いですね。それだけで片付けていいのかは知りませんが」
「でもなー。呪いが残っていた間は自我なんて有って無いようなものだったから、生き残れたのは運みたいなものだと思うよ? 実際ミクに治してもらってからだしね、500年振りに自我が復活したのって」
「500年!?」
「ああ。私、今は<真・吸血鬼族>だけど、元は普通の<吸血鬼族>だからさ。血を飲んでれば、ずっと生き続けられるのよねー。ちなみに魔物というかモンスターの血でも問題ないから、人間種を襲う事は少なかったわよ。悪人ぐらいじゃないかな、血を奪ってたのは」
「それなら問題無い、というより後腐れの無い者を選んで奪っていたのですね。そうしないと目立って面倒な事になるので」
「そうそう。目をつけられたら面倒な事にしかならないもの。唯でさえ吸血鬼は【浄化魔法】に弱いのにさ、誰彼かまわず敵対していれば、すぐに滅ぼされるわよ。ミク以外は数の暴力に抗うのは難しいし」
「まあ、そうですね。普通に数の暴力は強いです。ミクとファーダにとってだけは、有象無象が増えただけにしか過ぎませんが……」
「強いとは思うけど、吸血鬼と比べてもそこまで差があるんだね。吸血鬼は強いっていうイメージがあるけど、そこままでも無いのかな?」
「実際に強いわよ? ただし弱点を攻められると割とあっさり負けるってとこかな。だからなるべく弱点を晒さない、もしくは見つからないようにする。もし弱点を攻められるなら、敵を素早く殺す。それぐらいかしらね」
「下らない話をしていないで、準備が整ったみたいだからアレッサとマハルは準備しなさい。後、ハンマーはファーダ経由で渡すから。ファーダ、こっちの方は頼むね」
「了解だ。とはいえ公爵家の騎士団が来ねば身動きはとれんがな。そっちは早めに行って準備をしなきゃならんだろう。急ぐといい」
「それじゃ、辺境伯とヴィーも外に出ようか。そこから飛ぶから」
「えっ!? 飛ぶ……?」
頭の上に疑問符が出ているヴィーに移動をさせ、私達は公爵家のタウンハウスの庭に出る。私・アレッサ・マハル・ヴィー・辺境伯は一ヶ所に集まり、これで移動の準備は整った。
「それじゃ辺境伯領に移動する。何かこっちに言いたい事や伝えたい事があるならファーダ経由で。じゃ、後は宜しく。【転移】」
私達は公爵家のタウンハウスから、辺境伯領の領都へと【転移】する。目的地は辺境伯が居るので辺境伯の屋敷の前だ。【座標観測】で既に確認してあるので問題は何も無い。
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Side:シャルティア
「さて、ミク達は行ったから次はあたし達の番だと言いたいんだけど、まだ公爵家の騎士団が来てないから待つしか出来ないね。ゆっくり待とうか。焦っても何も得をしないし」
「そうですね。私達は私達の出来る事をするべきでしょう。出来ない事をやろうとしても意味はありませんし」
この辺りはティアも分かってるようで落ち着いていて助かる。焦る時っていうのは地味に困ったもので、本人だけが勝手に焦燥感を感じていたりするからねえ。そうすると他の者と喧嘩を起こしたりと面倒なんだよ。
どっしりと構えておけば良いんだけど、それは経験が無いと難しい。あたし達の中で問題がありそうなのはティアとロフェルだったんだけど、そのうちのティアが無事だったのは何よりさ。ついでにロフェルも動じてないみたいだしね。
この辺りは小競り合いなんかに参加してきた経験かねえ。どのみち五月蝿くしないなら助かるよ。後は実際に軍と一緒に移動する際にどうかだけど、そこも恐らくは問題ないだろう。とりあえず準備が整うまで、あたし達は待ちだね。
「あたし達が出発するには最低でも3日掛かるだろう。公爵家の騎士団が到着するまで2日、その後に話し合いだ休憩だで1日。つまり出発は早くても3日後になる」
「そこまではダラダラと過ごすしかないな。既に王都の掃除も終わっているから、俺もやる事が無い。なので、このままお前達の護衛をするくらいだ。ま、おかしなのが現れたりはせんだろうが」
「貴族関係は分かりませんよ。本当にフィルオル侯爵家という家しか離反していないとは言えませんし、他の家にも気をつけておいた方が良いと思うのですが……」
「その辺りは王城がやるべき事であって、こっちがとやかく言う事じゃないし、放っておくしかないんじゃない?」
「お主ら……。いきなり仲間が消えたというのに、その態度はどうなのじゃ?」
「あれは【転移】という魔法で、任意の場所に一瞬で移動する魔法だよ。ミクかファーダしか使えない魔法だね」
「一瞬で移動する魔法じゃと? ……それはまた、とんでもないものを使いよるわ。もはや何でもアリじゃな」
「そう言いたくなるのは分かりますが、簡単に扱えるものでもありませんし、大量の人数を移動させる事は無理みたいですよ? 前は40人ぐらいでしたっけ?」
「そうだな。夫を亡くした未亡人と子供達だったが、その者達が40人ほどだった。それぐらいが限度だろう。更に言えば距離によっても魔力の消費量は増大するので、色々と制約が多い魔法だ」
そうやって言っておかないと、絶対に鬱陶しい事になるからねえ。とはいえ、ミクやファーダに手を出せば喰われるだけなんだけど。




