0824・謁見の間 その2
Side:ヴィドラント・ユークス・ヴィダ
よく分からない呪いとやらを掛けられた第2王妃に対し、父上が色々と聞いているのだが……。口を噤んだり、嘘を吐こうとすると激痛にのた打ち回っている。ある意味で面倒ではあるが、痛みに耐えられなくなってきたようだ。
「アァァァァァァァァァァ!!!!」
「いちいち五月蝿いのう。しかし先ほどの者が言うておったのが事実とすると、この者は嘘ばかり吐こうとしておるという事か。碌でもないな。我は王なのだが、随分と舐めてくれておるようじゃの」
「やはりテモニー王国の刺客と考えた方が良いでしょう。フィルオル侯爵家は既に手を入れられ過ぎておると考える方が妥当かと。北の辺境伯家が蓋の役割で逃がさぬようにしてくれるでしょうが、既に準備を整えておるとすると……」
「辺境伯を食い破る恐れがあるか。そうせぬ為にも出来得る限りの兵を差し向けねばならんな。相手の心を折るくらいでないと面倒な事になるぞ。それでも止めぬであろうが、兵士や騎士を折れれば大した戦いにはなるまい」
「兵士や騎士は戦わされているだけですからな。叛逆は一族郎党死罪と決まっております。兵士や騎士に説明すれば、フィルオル侯爵家と運命を共にする者など多くありますまい。己の家族を捨ててまで、などという者は多くないのが実情」
「さて、そろそろ治まったようであるな。どこまで耐えられるかは楽しみだが、更に聞こう。貴様はテモニーの刺客か? 何故正妃と第1王子を毒殺した。答えよ」
「………私にとって邪魔だからよ! 私の子が王位を継ぐ。それの何が悪い! 第2王妃である以上、邪魔な者に居なくなってもらわねば、我が子が王位を継ぐ事など無いでしょう! 殺されて当然よ!!」
「殺されて当然のう……。ならばお前の家族も何もかもが殺されるのも、また当然じゃの? その覚悟があると見做す。ああ、心配するでない。貴様の前に、貴様の子供を目の前で処刑してやろうぞ。第3王子殿下も第4王子殿下も居られる故、貴様の子など要らぬであろう。叛逆者の子などな」
「なっ!?」
「デューダス公爵の申す通りじゃのう。己の子を地獄に落とすとは、真に何も考えておらなんだのであるな。叛逆者は一族郎党死罪だ。ならば、お前の子である第2王子も死罪に決まっておろうが。叛逆者とはそういう事ぞ。その程度も理解しておらなんだか」
「あ、貴方の子供ですよ!? それを、殺すというのですか!」
「要らぬ。叛逆者の子など要らんのだ。我が王族の恥として、お前と子供は抹消される。つまり、最初からそのような者など居らぬという事だ。当たり前であろう、それこそが叛逆者の末路よ。同じ者を生み出さぬ為にも厳しくせねばならぬ」
「フィルオル侯爵家は本当に王位を手に入れる為だったのでしょうか?」
「ヴィドラントよ、如何した?」
「父上。テモニー王国が狙っているのは我が国の海ですが、後ろにテモニー王国が居たとして、王位を奪うだけで済ませるでしょうか? 私はそうは思えません。本当に手にするならば、こうやってヴィダ王国を揺らしている間に侵略などの手に出ると思います」
「ふむ……。その辺りはどうなのだ」
「………ギャァァァァァァァァ!!!!」
「どうやら口を噤もうとしたようですな。まだ何か隠しておる事があるとは……相当にテモニー王国にしてやられておると言えますか」
「そうじゃの。我が国にありながらテモニーに与するなど恥を知れと言いたいところだが、もう終わる貴族に目を向けても無駄か。ご苦労だったなという言葉しか出てこぬ」
「今度は私が聞きましょう。テモニー王国と連携しているのなら、北の辺境伯家をフィルオル侯爵家と共に挟み撃ちにする。それぐらいの策は行われるのではありませんか?」
「あはははははは、お前を早めに殺しておくべきだったわね。にも関わらず、いったい何をやっていたのか……!」
第2王妃が元側仕えを「キッ」と睨むが、自分の思い通りにならなかったので怒っているようにしか見えないな。所詮は悪人って事か。むしろ善人に書き換えてくれれば良かったのに、なんで呪いなんかにしたんだろう。
「私からは「残念でした」という言葉を送りましょう。【毒耐性】のスキルを持っていましてね、その御蔭でギリギリ助かったのですよ。そこの男もこれ以上毒を盛ったら怪しまれるというぐらい盛っていたそうですけど、その量ではギリギリ足りなかったのでしょう」
「チッ! そんなスキルを持っていたなんてね……」
「まだ答えておられませんよ。北の辺境伯領をテモニー王国と挟み撃ちにする気では?」
「ええ、そうよ。そろそろ動くんじゃないかしら。貴方はギリギリ間に合ったのか、それとも間に合ってないのか。私は軍事に詳しくはないけれど、間に合ってないと思うわよ?」
「何だと!? 兵と騎士はすぐに動かせるが、食料は簡単には集まらんぞ! それに王都で集めれば、それだけ王都の食料の値が上がってしまう。途中の領地で補給しながら進むしかないが、果たして足りるのか……」
「ふふふふふ、軍事って大変ねえ。私は知らないけれども、そんな事で間に合うのかしら? 私が戻らない以上、既に実家には鳥を飛ばしているというのに」
「手紙か。魔鳥を飼育していた者が居ったが、あれはその為か。つくづく貴様らは王位を簒奪する事しか考えておらなんだという事だな」
「まあ、簒奪とは人聞きの悪い。我が子は第2王子。王位を継ぐ正統な権利がありますわ」
「それは此度の事が明るみに出ていなければ、だ。明るみに出た以上は貴様の家も一族も全てが潰える。そして貴様の子に王位を継承する権利など無い。今すぐに継承権を剥奪する。テモニーの犬めが」
それでもこの人の余裕の態度がなくならない。となると、まだ何かあるのか? テモニー王国とフィルオル侯爵家に挟み撃ちにされてしまうと、北の辺境伯家は陥ちるかもしれない。それだけじゃないとしたら……。
うん? 辺境伯? もしかして……!。
「もしかして、ナロンダも攻めて来る?」
「!?」
「なに!? ナロンダが攻めて来るだと! 2国から同時! だから第2王妃は余裕の態度を崩しておらなかったのか!」
デューダス公爵が驚くなか、父上が玉座から降りて第2王妃に近付きドレスの胸ぐらを掴んだ。
「言え! ナロンダが攻めて来るとはどういう事だ! 長きに渡り良好な関係を結んでおるのだぞ!!」
「ふふふふふ、あははははははは!! それはヴィダ側が勝手に思い込んでいるだけ! 元々ヴィダとナロンダは相争う間柄でしょう! それに、ナロンダとて古くから港を狙っていたのを忘れたのかしら? 随分と平和ボケしてるのね? あはははははは……」
「本音だからか激痛にのた打ち回る事は無いな。まさかテモニーとナロンダが共に侵略してくるなど!」
「陛下。仮に我がデューダス公爵家の騎士団を向かわせるにしても、王都の軍と合わせて1500。それが今すぐに動かせる限界でしょう。それで戦わねばなりませぬ。しかしナロンダが攻めて来るとなれば……」
「フェルムスト辺境伯の周囲の貴族から兵士をかき集めるしかあるまい。それでも700に届けば良いが……」
「ナロンダはデジムに攻め込んで大敗しております。そこまで多くの兵を連れてくる事は不可能でしょう。我が家だけでも何とか守れるやもしれませぬ」
フェルムスト辺境伯はそう言うけど、果たして本当に守れるんだろうか?。




