0823・謁見の間
Side:ミク
今日は公爵達が王城へと登城する日だ。私達は城に入れないし、そもそも入る気も無いので留守番をしてる。仮に公爵や辺境伯、それにヴィーに何かあっても私達の責任じゃないしね。だから皆と一緒にゆっくりと過ごすだけだ。暇なのは仕方ない。
「ミク。ヴィー達はどんな感じだい? まだ手を出すにしたって早いだろうけど、場合によっては、いきなり刺客を放ってくる恐れすらあるからね。とはいえ、あたし達はここに居て何も出来ないんだけど」
「代わりに何かあってもわたし達の責任じゃなくて助かるわ。ハッキリ行って王城なんて行きたくないし、そんな面倒な事はしたくないもの。だいたい待たせて当たり前、遅らせて当たり前の場所なんて行く気にもならないし」
「まあ、それが余裕を見せる為の姿と言われるのですが、やっている事は単なる嫌がらせなんです。市井に出てくると、何故あんな無駄な時間を使うのか意味が分かりませんからね。ガイアに行って更にその思いは強くなりましたけど」
「ガイアだと多くの偉いヤツは、むしろ時間の浪費を気にするからね。1分1秒を無駄なく使う事で他人に勝とうとする。むしろ時間の使い方としては分かりやすいと思うよ。身分の貴賎に関わらず、時間は平等に過ぎていく。この言葉は本当に正しい」
「正しいからこそ、無駄な時間を使わされるとイライラするんだけどね。実際に私も似たような考え方にはなったし、時間の無駄が勿体ないと思うようにもなったわ」
「本当に無駄なのかは難しいところですよ? その無駄だと思える時間でリラックスしたり落ち着いたり出来る訳ですし、心のゆとりと思えばおかしな事ではありません。ただし意図して無駄にするのは違いますけど」
「王城で待たせるなんて、絶対に無駄に浪費させるだけじゃん。下っ端のお前達は待って当然っていう上から目線のマウントでしょ? 鬱陶しいったらないわよ。本当」
「まあ、そうとしか思えなくなったのは。それだけ私達は時間というものの大切さを知ったからでしょう。寿命は無くなったから気にしなくてもいい筈なんですけど、でも無駄にするのは嫌なんですよね」
「誰だって自分の時間を無駄に使わされたらイラッとするでしょ。当たり前の事だ……ね?」
「どうしたんだい、ミク? ……もしかしてヴィー達に何かあったのかい?」
「まだ何も無いけど、ヴィー達が居る場所に悪意を持った奴等が近付いてるみたい。この一際大きい悪が第2王妃かな? だとすると取り巻き連中を連れて謁見の間に現れたんだろう」
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Side:ヴィドラント・ユークス・ヴィダ
今世の母親の顔なんて碌に知らないけど、だからといって肉親を殺された事を許す気など無い。そういう思いでやってきたけど、どうやら父上は本当に知らなかったらしいな。具合が悪くなってからは近付く事も許されなかったようだ。治癒師にうつると言われたら仕方ないか。
そうなると王宮治癒師すら買収されている可能性が高いんだけどね。慌てて父上が玉座から命を下すが、会うまでに勿体つけて時間を無駄に浪費したのが悔やまれる。しかし同時におれにとっては滑稽にも映るけどね。時間というものの大切さも知らないのか、とさ。
「それにしても、正妃や第1王子まで暗殺されていたとは……! 何処まで虫が入り込んでおるのか早急に調べねばならん。そこな第2王妃の側仕えが言う事が正しければ、これはテモニーからの攻撃かもしれん」
「フィルオル侯爵家の領地は北の辺境伯の手前。更にはテモニーの王女を受け入れた事もあった筈。3代前でしたかな?」
「うむ、その通りだ。流石に3代前だと思うておったが、もしかすると密に連携するほどなのかもしれぬ。そうであればデューダス公爵よ、そなたに軍権を預ける。フィルオル侯爵家を討ち倒すのだ」
「ハッ!」
どうやら公爵家に復讐の機会を与えるみたいだな。となると父上は関わり無しとしていいのか? とはいえ知っていたけど蜥蜴の尻尾切りのようにフィルオル侯爵家を切り捨てたのかもしれないし、難しいところだ。
さっき近衛に呼びに行かせた第2王妃が、自分の側仕えをゾロゾロ連れてやってきた。何か必死に守ろうとしているというか、それが見えて滑稽な感じがする。
そんな第2王妃はおれの横まで来てから止まり、父上に頭を下げた。いちいち嫌がらせみたいに動くヤツだな。
「陛下、お呼びとの事で罷り越しましてございます」
「うむ。そなたを呼んだのは他でもない。そなたの側仕えが偽り、第4王子であるヴィドラントに毒を盛っておった」
「まあ、そのような事を? 私の近くに侍りながら何という大それた事をするのでしょうか。陛下、今すぐにこの者の処刑を」
「そうはいかん。この者は既に観念しており、輿入れの時から暗殺を企んでおった事を吐いておる。真実を明るみにせねば死んでも死にきれぬそうでのう、我はこの者を今のところ処刑する気は無い。しっかりと話してもらおうか?」
「………」
「第2王妃様。この者は我が娘である正妃様も、その御子である第1王子様にも毒を盛っておったとの事。フィルオル侯爵家ともども覚悟は出来ておるのでしょうな? 我がデューダス公爵家は許しはせんぞ」
「………ふ、ふふふふふふ。所詮はいつまでも気付かなかった愚か者の癖に何を言うのか。まあいいわ、バレた以上はここまでね。貴方達、さっさとこの場の者を始末なさい」
「「「「「「「ハッ!」」」」」」」
くそ! コイツ最初からおれ達を殺す気だったのか。このままじゃ「ドパァン!!」マズい……?。
「どうせこんな事だろうと思っていたが、予想通り過ぎてつまらんな。まあいい、とりあえず死ね」
誰か知らないけど、出てきたヤツがあっと言う間に第2王妃の取り巻きを皆殺しにした。そして第2王妃に近付く。
「くっ! 何を! 離れなさい!!」
「お前のような阿呆の言う事を聞く愚か者はおらん。さっさと呪いを受けるがいい」
男が第2王妃の首を左手で絞めつつ、右手を頭に置いて何かをブツブツと唱える。すると第2王妃の体に何かの紋様が黒く浮き出た。アレが呪いなのか?。
「これで完了だ。この呪いは【善なる呪い】と呼ばれるものでな、嘘を吐いたり悪い事を考えただけで激痛にのた打ち回る事になる。覚悟をして喋れよ?」
「な、何を下らぬ事を! それより誰にこのような無礼を働いたと思っている!! 貴様など万死にあ ギャァァァァァァァァァ!!!!」
第2王妃が絶叫を上げて床を転がっている。言っていた通り、痛みにのた打ち回っているんだろう。それよりこの男は何者なんだ? それに何処から出てきたかもサッパリだ。
「君はいったい何者なんだ? 呪いと言っていたが、本当に呪いを掛けたのか? それにいったい何処から……あれ? 君は確か、自称治癒師を捕まえていた男じゃないか」
「ああ、あの時に一度会ったな。俺の名はファーダ。ミクと根源は同じ者だと言えば分かるか? 俺たちは両方同じなのだ、その大元はな」
「あ、ああ。彼女と同じなのか。それは分かるが、根源?」
「そうだ。俺達は分体であり、それはつまり本体があるという事。俺達はその本体から出ている末端でしかない。仮に俺達が塵になろうが、それは本体の数万分の一が消えただけに過ぎん。そもそもそういう存在なのだ、俺達は」
「それって……つまり滅ぼすのは無理という事では?」
「そうだな。俺達を創った神どもならば出来るだろうが、それ以外の下っ端の神どもでは無理だ。少なくともそれぐらい位階は高いのだよ、俺達の根源は。おっと、阿呆がそろそろ復活するようだ。ではな」
そう言って、またもや一瞬で消えた。神様に創られたという事も含め、もう何でもアリなんだなと実感する。アレはどうにもならない。世の中にはあんな理不尽が存在するんだと覚えておこう。




