0814・食事と寝室と酒とアイス
Side:ロフェル
微妙な雰囲気になったけど、執事が来て食事の用意が出来たというので、それを理由に皆が移動した。おかげで変な雰囲気も多少はマシになったと思う。にも関わらず、ミクが唐突に蒸し返した。
「そういえば【暗殺術】のスキルはさ、暗殺に関わる技術を習得しやすくする効果しかないからね? 勘違いしないようにしなよ」
「……それはいったいどういう事でしょう?」
「暗殺に関わる技術。つまり足音をさせない歩き方や走り方、隠れ方に潜み方、更には気配の消し方に奇襲の技。そういったものが身につきやすくなるというだけだよ。決してスキルを持ったからといって暗殺が出来るようになる訳じゃない」
「ああ、そりゃ当然だ。そもそも努力しないで身につくものなんて何も無いさ。どれだけのスキルを持っていようが、決して努力には勝てない。スキル持ちで優秀なヤツは、当然それだけの努力をしてきてる」
「ミクが昔に言ってたわね。スキルが有ると最初が楽だけど、代わりにそこで止まるヤツが非常に多いって。だからスキルが有るのも良し悪しなのよ。別に【暗殺術】のスキルを持つからって必ず学ばなきゃいけない訳じゃないし、学んでなければ素人と一緒よ」
「そうそう。自分からバラしたりしなけりゃ何の問題も無いね。だからそのままで居れば良いだけさ。駄目なら第4王子に嫁げばいいだけだ。似たような年齢だし大丈夫だろ?」
「うぇっ!?」
「流石にそれは無理であろう。王族の婚姻は陛下がお決めになる事であり、こちらでどうこう言える事ではない。我が家は辺境伯家だ、王族との婚姻が出来る可能性自体は高いがな……」
「何で? 辺境伯家って侯爵家より下で伯爵家より上。特殊な家ではあるけど、地位的にはそうよね?」
「その通りだ。だが辺境の守り人が他国との内通などあっては困る。だからこそ定期的に我が家と北の辺境伯家は王族と婚姻が為される。要するに王家の紐付きであると内外に示す為だな」
「成る程ね。王族との婚姻まであったのに裏切るのか? って感じかー。まあ、分からなくもない。でも普通は嫁いでくるんじゃないの? 入り婿なら乗っ取りになりかねないけど……」
「そうではない。婚姻で結びついたと内外にアピール出来れば良いので、本当に血が入る必要は無いのだよ。王族との婚姻というのはそれだけ特別な事でもあるしな。婚姻をしない王族は、必ず港町を持つ王家直轄領に行く事になる」
「つまり絶対に婚姻しなければいけない訳ではないのですね、この国の王族は」
「そうなる。婚姻をしない王族の方は、港町で悠々自適に暮らしている方が殆どだな。贅沢までは出来ぬが、代わりに王族の柵が無いからか、大抵の方は長生きだし港町の発展に尽力されている」
「まあ、王族の責務なんて堅苦しいものだし、そこから解放されたら色々とやる気にもなるんだろうさ。一応は高度な教育に帝王学も学んでるんだ、普通の代官よりも優秀な者は多いだろう。話にならないようなのは病気で亡くなるだろうしね」
「うむ、その通りだ。王族に生まれて愚か者では生かしてなどもらえぬ。良い悪いは別にして、何処かに優秀さを持っていなければ、御病気で儚くなられるのが王族というものの厳しさよ」
「本来はそうあるべきなんだけど、非情に徹しきれない王が出てくるんだよ。その所為で混乱を巻き起こすし、バカな王族ってのは本当に面倒臭いのさ。そもそも正妃の子が継承権一位なんだろ? ならアンタが次代の王かい」
「そう……なるのかな? 第2王子と第3王子が居るから何とも言えないけど、第2王妃と第2王子は私が助かったとなれば殺しに来るだろうね。ほぼ間違いなく」
「暗殺者を仕向けてくるか、それとも騎士を盗賊に見せかけて殺しにくるかといったところであろう。そなたの言った通り、王城には教えぬ方が良いな。第4王子殿下の体調が良くなるまでは、このまま屋敷に留まっていただこう」
「ではこちらから送る定期診察の結果は嘘を書いておきましょう。あまり良い事ではありませんが、第4王子殿下のお命の為にはその方が良いと思います。定期報告が届かねば怪しまれますので」
「それで王城に居ながら監視していたのか。第2王妃と言うより、フィルオル侯爵家は本気で王族を何とも思っておらぬようであるな。あまりに不遜すぎる」
「ですが裏切り者とはそのような者では? 私の国ではとある伯爵家の当主が、第3王女殿下を呪いのナイフで刺したぐらいです。自分の思い通りにならねば死んでしまえという事でしょう。まあ、陛下が激怒されて取り潰しになりましたが」
「それはそうであろうが、とんでもない事をする貴族であるな。そなたの故郷であろうから悪く言いたくはないが、あまりにあまりではないか?」
「仰りたい事は分かりますが、それを玉座の間でやらかしたのが件の伯爵なのです。もちろん追い詰められた結果ではありますが、そうなると貴族であろうが何を仕出かすか分かりません」
辺境伯は考え込んだわね。ま、その間にお喋りは止めて食事中なんだけど、マナー良く食事をしなきゃいけないから肩が凝りそうよ。この中でマナーに慣れてないのは私だけだし、後でミクにアイスとお酒を貰ってストレスを軽減しようっと。
ミクはそもそも問題無し。アレッサは元農民だけど、吸血鬼に教えられたらしく問題は無い。シャルは元伯爵家の当主で、ティアに至っては王族。そしてマハルは侯爵家の庶子という事で、慣れてないのは私だけなのよ。本当に肩が凝るわねえ。
ここまでしなきゃいけない食事も大変だけど、貴族はコレが毎日なのよ。なんでこんなリラックスできない食事の作法を毎日実践するんだか、私にはサッパリ分からないわ。食べ物は美味しくストレス無しに食べるべきでしょ。
結局その後は多少の会話をしつつ食事を終え、私達は客の泊まる部屋へと通された。ベッドが4つの部屋が2つあるけど、これは護衛なんかが泊まる部屋みたいね。私達にとっては部屋の狭さとかはどうでもいいから、こういう方が楽で助かる。
結局は3人と3人で分かれる事になったけど、ミクは1つのベッドに狐の毛皮を乗せて、さっさと2匹を寝かせてしまったみたい。後は私が「コンコン」……って、誰か来た?。
「ちょっといいかい? ミクはウイスキーを持ってた筈だよね。それを売ってほしいんだけど……」
「別にお金は要らないから持ってっていいよ。日本のお金だって使わないと還元できないからね。アレだって随分残ってるから減らさなきゃいけないし」
「あっ、アイスがあるなら、私はアイスでいいわ。おっと、あ○きバーがあるじゃん。私コレね」
「では私はチョコモ○カジャンボで」
そうやってアイスとお酒を取ってたら「コンコン」と鳴った。けど、今度は誰かしら?。
「申し訳ない。起きた後で貰ったクラー……アイスがある!? しかもチョ○モナカジャンボとか、完全に日本の商品じゃん! 何で持ってんの!?」
「ええっと、皆さんは何を……」
来たのは第4王子と辺境伯の娘だったみたい。しかもクラーケンの干物を食べたがったとは……。もしかして前世の記憶的に、私と同じく肩が凝る食事はあまり好きじゃないのかしら? そんな気がするわね。
日本人だったんだとしたら、ほぼ間違いなく庶民だった筈よ。王侯貴族として生まれても戸惑いとか色々あるでしょうし、どこかで息を抜きたいんでしょうね。それが干物なのはアレだけど。
でも親近感の湧く王族って、王族としていいのか微妙なような……。




