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0812・毒を盛った理由




 Side:ミク



 とりあえず霊水で回復した第4王子と、善人に書き換えた男を応接室に連れて行き話を聞く。第4王子は碌に食事をしていなかったからか痩せ細っていたが、そこもある程度は霊水が回復させたらしい。今は蛸の干物をかじってる。



 「懐かしいけど、何でおれは起きてすぐに蛸の干物をかじってるんだろう? この流れが全く理解できないものの、これ理解しちゃいけない感じだな。とにかく料理が出来るまで蛸の干物をかじっておくよ」


 「いちおう言っておくと、それ蛸じゃなくてクラーケンね。こっちの大陸に来る為の船がクラーケンにくっつかれてさ、鬱陶しいから倒して回収したんだよ。そのクラーケンを干物にしたのが、それ」


 「………まさか起きて最初に口にしたのがクラーケンだとは思わなかった。いや、普通に美味いからいいんだけどさ。それでも、これがあのクラーケンかぁ」


 「そんなに感情を篭めて言う事かねえ? 普通の蛸の干物より、ちょっと味が濃くて美味しいくらいだろ。他に何かあんのかい?」


 「ヴィダにも海はあるけど、クラーケンは怖れられてる生き物でさ、出会ったら終わりだと言われてるんだよ。まさかそのクラーケンを干物にして食うヤツが居るとは思わないじゃん。恐怖の生き物が干物なんだぜ?」


 「第4王子であり王族という立場ですけど、ガイアを知る者が居て忘れているようですね? 辺境伯の娘さんが驚いていますから、少しは取り繕った方が良いですよ。それぐらいは出来るのでしょう?」


 「あ、ああ。申し訳無い。ついつい昔というか、死ぬ前の自分が出てきてしまった。それにしても、第2王妃の側仕えが治癒師と偽り、私に毒を盛り続けていた訳だが……」


 「申し訳ございませぬ。如何いかな罰であろうとも受ける所存でございます。どのようにでもお裁き下さい」


 「う、うむ。書き換えられると、こうなってしまうのか? これでは誰に対してもやりたい放題では……」


 「別に誰に対してもする訳じゃないしね。悪行をしている者ならまだしも、いちいち普通のヤツや善人にする必要が無いだろう? 悪徳なヤツだからやられるんだし、それが嫌なら悪でなければいい」


 「それはそうであろうが、だからといって納得できるかどうかは違うと思うがな? 私としては微妙なところだ。書き換えてしまえば己の好きに変えられるだろう? とはいえ善なる者になるだけではあるのだが……」


 「そこが微妙なところでしょうか。書き換えるというのは恐ろしい力ですが、善なる者に変えられるというのは、そこまで悪い事ではありません。いつまで続くのかは知りませんが」


 「時間制限なんてある訳ないじゃん。一度でも書き換えられたら二度と元には戻らないよ。根底から全てを書き換えられるんだから、今までの自分は過去にしかならない。逆に言えば、どんな者でも善に変えられるとも言える訳だ」


 「ミクのそれを使えば、どんな悪党も変えられるんだよ。それも悪行を一切許さない者にね。処刑してしまうよりは良いと思うけど、この力はミクも滅多に使わないのは間違い無い。あたし達も殆ど見ないし」



 シャルの一言に対して微妙な顔をしている辺境伯親子や第4王子。本当かという疑問があるんだろうけど、私が人間種を喰う怪物だと知れば理解するだろう。私にとっては食い物なんだから、いちいち善人にしてやる理由が無いんだよね。


 もちろん皆は知ってるけど、それをここに居る連中に教えてやる必要は無いしね。善人への書き換えぐらいは知られても構わない。どうせ善人だから、おかしな使い方も出来ないし、書き換えられたヤツは非常に分かりやすいからさ。



 「それはそうと第1王子殿下や正妃様まで毒殺したとはどういう事だ? いったい何があったか言え」


 「はい。元々の私はフィルオル侯爵家の使用人でございました。しかし侯爵家のご息女であるレレント様が第2王妃様になられるとの事で、何故か私が側仕えとしてはべる事になったのでございます」


 「ふむ、一使用人に過ぎぬ筈が何故かな。で、第2王妃はそなたに毒を盛らせたという訳か」


 「はい。我が家は古くから侯爵家の使用人をしております。当然、家族は全て知られておりますので、私が言う事を聞かねば家族がどうなるか分かりませんでした」


 「成る程な。一介の使用人が何故そんな大それた事を仕出かしたのかと思ったら、家族を人質にとられての事だったとは……。しかし許されぬ事だぞ?」


 「はい、分かっております。私のすべき事をしましたら、この首は差し出します。しかし、正妃様と第1王子殿下の事は明るみに出さねばなりません。それと、本物の治癒師の方の事も」


 「本物の治癒師?」


 「はい。王城からここに来るまでに、本物の治癒師は殺されてございます。そして偽造した命令書を持ち、私が治癒師に成り済ましたのです。ですので本物の治癒師の方も既に……」


 「そなたがやったのか?」


 「いえ、私達を護衛してきたのは侯爵家の息のかかった騎士達であり、その者達が行いました。既に魔物に喰われてしまい、おそらく探しても御遺体は見つからないと思われます」


 「何という事をするのだ。極悪としか言いようが無いが、おそらく第2王子殿下を王位につける為であろう。正妃様のお子様は第1王子殿下と第4王子殿下しかられぬ。そのうえ第4王子殿下が2歳の頃に身罷みまかられておられるからな。その頃であろう?」


 「はい。毒に関しては全て私にやらせておりました。おそらくは何かがあった際に私だけを切り捨てる為だと思われます。せめて諸悪の根源を明かさねば、死んでも死に切れません」


 「分かった。それまでは生きて貰おう。確かに証言者がらねば困るしな。それにここまでペラペラと全て喋っているとは侯爵家も思ってはいまい。さて、そうなると第4王子殿下を連れて王城まで行かねばならぬが……」



 辺境伯がこっちを見ながら喋ってくるんだけど、何だか嫌な予感がするね。まあ、嫌な予感というか、十中八九はついてきてくれとか言い出すんだろうけどさ。



 「そなた達にもついてきてもらいたいのだが? 礼ならばさせてもらうので頼む」


 「なら傭兵として雇う形だね。私達は傭兵としてこの大陸に居るし、今までにも何度か戦争に参加してるしね。といっても参加したのはデジム王国側だけなんだけど」


 「それは何か理由があっての事か?」


 「いいや。この大陸に来た最初の国がデジム王国なだけだよ。そして侵略されてたから参加しただけだね。結果、ナロンダとボンクルを追い返す事になったけど」


 「そういえばナロンダが負けたとかいう話が聞こえて来ていたが、あれは本当の事だったのか。デジム王国を攻めて負けたとは……」


 「うん? そんな言い方をするって事は、デジム王国って戦争には弱いのかい?」


 「そこまでではないが、強いとは聞かぬ国だな。どちらかと言うと、わざわざ取りに行く必要も無い国というところか。他の大陸から船は来ておるようだが、我が国のように高値で売れる物が入ってくる訳ではないからな」


 「まあ、デジム王国の向こう側はオーガの国だからね。あそこは別に特産とか聞いた事ないし、高値で売れる物なんて無いだろうさ」


 「こちらはコルソーとかラッテがあるから、他国にも高値で売れるんだよ。ちなみにコルソーが胡椒で、ラッテがコーヒー豆ね」


 「ああ、胡椒とコーヒーじゃ高くなっても仕方ない。愛好家は多いだろうしね」


 「そういう事。南東の大陸と交易をしてるんだけど、西の大陸と違って10日ぐらいで向こうに着くよ」



 成る程ねえ、他の大陸に近くて高く売れる物もある。港を狙うならデジム王国じゃなくてヴィダ王国か。


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